7Days to the Dead 3rd
いつも誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
ヌコ様の姿を見たとき、村人の間にざわめきが走った。
「おい、あれ、聖獣様じゃないか?」
「純白の雪豹、間違いない、聖獣様だ!」
「聖獣様が駆けつけて下さったぞ。アンデッドなんかに負けるな!」
「「「 おう!! 」」」
ヌコ様の姿は、森の守護獣として認知されているようです。
村人の戦闘意欲が上昇しました。
何故か一部に、こそこそしている人もいるのですが。
「やべ、シロのやつまだ生きてたんだ。もうとっくに代替わりしたと思ってたのに。まだ払ってない貸しが幾つかあるんだよな…」
マリアはヌコ様を苦手にしているみたいです。
シロというのは、マリアがつけた呼び名でしょうか?
見たまんまですね。
なんて暢気にしてる場合じゃないです。
最初に熊に飛び掛った兵士さんは、残念ながら亡くなっています。
でも2番目の兵士さんは、熊に殴られて水に落ちたので、まだ助かるかもしれません。
『ウォーターウォーキング』
もう何度目になるか覚えてないほど、お世話になってる水魔法を唱えると、櫓から堀へと飛び込みます。
魔法が掛かっていても手先から水に着水すれば、普通に飛び込めるんです。
水中で、先ほど熊に殴られて堀に沈んだ兵士さんを探します。
やや下流に流されているのを発見し、急いで背負って水面に浮かび上がりました。
失神したのが幸いして、それほど水は飲んでいないようです。
それでも早く手当てをした方が良いでしょう。
短槍を堀の壁に突き立てると、それを支えにして、全身のバネを使って両足を跳ね上げて、膝を曲げます。
「はい、着水!」
無理な体勢ではありますが、水面に立つことができました。
ぐきっ
「うお!腰が、腰がああ」
二人分の体重を支えるには無理があったようです。
しかしなんとか堪えて、安全な場所まで運ぼうとしましたが…
「安全な場所が無い?」
堀の外は、どう見ても敵のテリトリーです。
今は静かですが、伏兵が隠してあってもおかしくありません。
唯一の跳ね橋は、現在乱戦の真っ只中ですし、熊が正面に陣取っています。
そのゾンビグリズリーですが、ヌコ様が上手く牽制して、跳ね橋を渡らせていません。
「どうしよう」
すると遠くから声がかかりました。
「ぉーい、こっちに来い」
かなり離れた場所に、別の櫓が立っています。
声はそこからのようです。
ちらっと跳ね橋を見ると、ヌコ様がゾンビウルフを相手に無双してました。
「少しの間、任せましたよ」
ヌコ様に呟くと、こちらを見て頷いたような気がします。
堀に沿って走っていくと、声のした櫓の前には、2頭のゾンビウルフの屍体が転がっています。
「こっちにも来たんだ」
どうやら開拓村の全周に囮の攻撃がされたようです。
門の正面の自警団の兵士さんが、思ったより少なかった理由がわかりました。
すると櫓の上から兵士さんが、ロープを投げ下ろしてくれました。
それを伝って、ひょいひょいと壁を登ります。
「うおっと、そいつだけ先に引っ張り上げる予定だったんだが、背負って登りきるとは、嬢ちゃん只者じゃないな」
「いえいえ、ただのウッドエルフですよ。木登りは得意なんです」
本来なら、意識の無い成人男性を背負って、ロープ補助だけで壁登りは無理だと思うんですが、なんか最近は、背中に何か背負ってると力が出るんですよ。
きっと登攀のスキルがランクアップしたのでしょう。
失神している兵士さんから水を吐かせるのは、ここの兵士さん達に任せて、村の中を門へと戻ります。
村の中は騒然としていました。
女子供はマッコイ商会の倉庫に避難しています。
あそこが一番、防御が硬いそうです。
本来は商品を守る為の備えですが、緊急時には村人を収容できるようになっているみたいです。
教会は、さながら野戦病院の様相を呈しています。
採集隊や跳ね橋の乱戦で負傷した兵士さん達が、狭い祈祷所にぎっしり寝かされています。
「狭くて悪かったね」
「マリア、何か手伝うことは?」
「治療の手も足りてないんだが、まだ橋が守りきれてないんだ。あそこを突破されると本格的に拙い」
「了解」
傷ついて苦しんでいる人を放置するのは辛いけど、あの熊を止めないと、もっと被害が広がるからね。
「そうだ、これ持っていきな」
そう言って、3本の矢を渡してくれた。
「何これ?戦国大名の故事?」
確か、1本だと仕留められないけど、3本あれば確殺できるみたいな話があったような…
「ダイミョウが何か知らないけど、故事に倣っているわけじゃねえよ。それは人狼殺しの矢だ」
どこかで聞いた覚えがある。
ライカンスロープ(人狼など)を殺すには、銀の鏃に『祝福』を掛けた矢が必要だと。
「それがこれ?」
「ああ、先代の神父がいざって時の為に作っておいたらしい。ゾンビにも少しは効くはずさ」
ゾンビに銀の鏃は効かないけど、矢自体は精巧な作りで、矢羽も特注品。さらに祝福が掛けてあるなら、アンデッド全般に効き目があるはずです。
「わかった、預かっとくね」
「どうせ祭壇の奥に飾りっぱなしだったんだ。出し惜しみしないで、叩き込んでやれ」
「了解」
あたしは矢を矢筒にしまうと、門に向って走りだした。
そこでは、ヌコ様とゾンビグリズリーが睨み合いをしていた。
ゾンビウルフは全滅、しかし村の兵士も撤退。
ヌコ様も一人では熊は倒せないみたい。
「待てよ、ここからなら…」
この距離ならゾンビグリズリーの探知外になるはず。
しかも目の前にヌコ様がいるので、他は目に入っていない様子だ。
そっと先ほどの銀の鏃の矢を取り出すと、弓を構えて引き絞った。
狙うはゾンビグリズリーの頭だ。
ゾンビは耐久力が馬鹿みたいに増えているけど、明確な弱点がある。
それが頭部。
手足は幾ら切り離しても、致命傷には成り得ない。
でも頭部を打ち抜けば、効果抜群です。
「照準と潜伏射撃、それに祝福の矢、これがあたしの全力だ!」
気合とともに放った矢は、狙い違わずゾンビグリズリーの頭部を直撃、その右半分を吹き飛ばしました。
「があ!」
その隙をヌコ様が見逃すはずもありません。
飛び掛って、相手の背中に馬乗りになり、ヌコパンチにヌコキックです。
熊が苦し紛れに前肢を振るうと、華麗に避けて元の場所に着地します。
熊が、矢を放った敵を見つけようとしますが、あたしは、この場で息を潜めて隠れています。
「がう!」
ヌコ様の吼え声に熊が振り向いたとき、
「2発目!」
今度は左半分が吹き飛びました。
さらにヌコ様の同調攻撃が決まり、さすがのゾンビグリズリーもダウンです。
本当に倒れたか調べるように、ヌコ様がヌコパンチを繰り出していますが、動き出す気配はありません。
村人の男衆が駆け寄ってきて、力を合わせて跳ね橋を引き上げました。
ズンッ
重々しい音と共に、跳ね橋が上がり、門が閉ざされると一安心です。
「終わったのかな…」
そう、最初の1日目が終了したのでした……




