7Days to the Dead 2nd
開拓村は、ゾンビアニマルの集団に襲われています。
それも野良のアンデッドではなく、何者かに操られた軍団です。
「橋を上げるのは、もう間に合わん!槍部隊、門の前に出て陣形!」
「採集隊、収容終わりました!重傷2、軽傷3!」
「ゾンビウルフ、第二波、来ます!」
あたしが目標をゾンビグリズリーに変更したので、第二波のゾンビウルフが4頭、橋に突撃してきました。
それを兵士が槍衾で押し留めようとしています。
門の周辺のゾンビラットは、粗方片付いたみたいですが、何人かの兵士は、噛まれたらしく、教会へと搬送されて行きました。
感染症の予防薬は、全員に行き渡るほどは在庫が無い為、外に出る兵士に優先して配られています。
なので早く消毒しないと、発症してしまうかもしれませんから。
採集隊は何とか村の中に運び込めたようですが、その場で倒れ伏す隊員もいて、かなり被害が大きいようです。ダイナーさんもあちこち怪我をしているようですが、自力で動ける程度の傷のようです。
薬師のジョンソンさんだけは、無事なようで、バックパックを大事そうに抱えて仕事場へと走っていきました。
きっと最優先で守ってもらえたのだと思います。
「薬が直に必要になるよね」
昼間から感染症で苦しんでる兵士さんの他にも、今回の襲撃でゾンビラットと戦って傷を受けた人が何人かいるからです。
感染症の治療薬は、多めにあって困ることはないはずです。
問題は、あの熊が止まらないこと。
「まずい、まずい」
あたしの攻撃力ではゾンビグリズリーの突進を止める事が出来ません。
ゾンビなので、多少の傷を与えても、こちらに注意を引くことが出来ないのもキツイです。
生身なら、鼻や目といった急所に矢を打ち込めば、さすがに怒って立ち止まったり、こちらに襲ってきたりするのです。
でもアンデッドになっているので痛覚はないですし、操られているのか橋以外に見向きもしません。
現状では、弓術ランク4に照準ランク2を重ねた攻撃が一番強いのです。あたしに撃てる攻撃魔法の威力が、これを上回ることはできません。
もちろん敵の物理防御と魔法防御の関係もあるんだけど、ゾンビグリズリーだと誤差の範囲内っぽい。
「光魔法なら特効あるんだけど、攻撃魔法がないんだよね」
光魔法ランク2では、目潰しに『ブライト』を撃つか、矢に『ブレス』を掛けるぐらいしか攻撃に使えない。
視覚ではない何かで獲物を感知する、ゾンビ相手には相性が悪すぎです。
困り果てて、足元に『ディグ』を放ってみたけど、ゾンビグリズリーは、その巨体で強引に跨いでしまいました。
堀の縁にでも立ち止まってくれないと、効果がなさそうです。
今でも混戦の跳ね橋に、あの巨体が突っ込んだら大惨事になるでしょう。
跳ね橋を破壊して落とす方法もあるけれど、それだと押さえの兵士を何人も巻き込んでしまうし…
「いざとなったら、ここから飛び降りて短槍で突き刺すしか…」
体重を掛けた一撃なら、片足を地面に縫い留められるかもしれません。
失敗したら、良くて地面に激突、悪ければゾンビグリズリーに跳ね飛ばされるだろうけど…
「大丈夫、暴走トラックに轢かれるより、痛くないはず!」
弓から短槍に持ち替えたあたしを見て、横に居た弓兵さんが、慌てて止めてきた。
「おい、早まった真似はするな!」
「でも、あの熊を止めないと!」
「わかってる、だが、やるなら順番ってものがあるんだよ」
そう言った兵士さんの横で、槍を構えた別の兵士さんが頷いた。
「ここは俺たちの村だ。身体張るなら俺らが先だ」
そういって、躊躇無く虚空に身を躍らせた。
「この死に損ないがあああ」
長い滞空時間のあと、狙い通りにゾンビグリズリーに一撃を加えた兵士さんは…
ボロ雑巾のように跳ね飛ばされていた。
「糞熊がっ、往生せいやあああ」
すぐさま次の兵士が飛び掛る。
流石に2本の槍を突き立てられたゾンビグリズリーの突進が止まった。
しかし、落下の衝撃を受け止め切れなかった兵士に、熊の前肢での反撃が襲う。
無造作に振るわれたそれは、兵士の頭を捻じ曲げながら、堀の中へと叩き落した。
それでも、なんとか、ゾンビグリズリーの足は止まった。
「今ならいける!」
他に誰も居なくなった櫓から、熊までは5mも離れていない。
あたしは短槍を構えると、熊の右目に狙いを定めて、飛びかかろうとした、
その瞬間、
熊が吼えた。
「グルルオオオン!!」
「ここで?!」
グリズリーの威嚇スキル『咆哮』である。
ゾンビの中には生前のスキルを使えるものも居る。
このゾンビグリズリーが『咆哮』を使えてもおかしくはない。
ただ、森を出てきてから、一回も吼えたり唸ったりしなかったので、声帯が腐っていると思い込んでいたのだ。
あたしは耐えた。
魔法抵抗が高いので、ゾンビになったグリズリーに負けることはない。
でも、跳ね橋の上でゾンビウルフと戦っていた兵士は全員、恐慌状態に陥ってしまった。
そしてゾンビウルフは、怯える精神がないので影響を受けない。
つまり村への侵入を阻む者が居ない…
「どうすれば良い?!」
このまま熊に飛び掛れば、狼が抜けてしまう。
手前に降りて狼を防げば、熊が突撃してくる。
一瞬の躊躇、その隙をついて、それはやって来た。
「うそ、新手?!」
ここにおいて、敵の増援は致命的である。
門は突破されて、村にゾンビ達が雪崩れ込む未来が見えた。
でもそんな未来は訪れなかった…
それは、白い稲妻に見えた。
川の上流から堀沿いに走ってくると、横からゾンビグリズリーに強烈なキックをかまし、その反動で三角跳びをして、ゾンビウルフの群れに突っ込んでいった。
「ヌコ様!!」
あたしの叫び声に、いつもの返事が返ってきた。
「がう!」
ここから反撃の時間だ。




