7Days to the Dead 1st
感染症治療の為の薬草採集隊が出発してからも、開拓村の内部では活発に活動が行われていた。
まず自警団が、二人一組になって、村中を徹底的に捜索した。
見逃したゾンビラットがいたらまずいからだ。
そしてその危惧は当たっていた。
さらに2匹の存在が確認されたのだ。
それらは大捕り物の末に、退治されて教会に運ばれた。
その過程で、知らないうちに犠牲者が出ていたことも判明した。
パン屋の飼い猫『キャプテン』である。
倉庫の番猫として、長い間ネズミの害から小麦を護ってきた『キャプテン』は、倉庫の裏でひっそりと事切れていた。
喉笛を噛み切られて…
『キャプテン』もまた、病原菌に感染している可能性があったので、教会に運び込まれた。
手製の木箱の棺桶に納められて…
マリアは何も言わずに棺を受け取り、浄化をすると、丁寧な聖句とともに遺体を荼毘に付した。
「命絶えるまで、我等が糧を護りし勇者『キャプテン』よ、汝の使命はここに果たされた。今は安らかに眠り、神の御許へと召されんことを」
その後、参列していたパン屋の夫婦に、昨晩の様子を聞いてみた。
「いや、いつもと変わらなかったな。夕飯は美味そうに食ってたし、今朝の仕込みのときも、眠そうだったが、挨拶はあった」
「夜中に騒いでいた様子もないから、まさかこんな事になるなんて…」
落ち込む奥さんを、旦那さんが慰めている。
しかし二人の話からすると、キャプテンが殺されたのは、朝方から発見される昼までの間となる。
ゾンビラットの活動時間としては妙なのだけれど…
「鉄砲玉が我慢しきれなかったのかもな」
マリアがぽつりと呟いた。
「潜伏したのは夜のうちってこと?」
「だってそうじゃないか。村人の朝は早いんだ。あたいが寝てる時間でも、とっくに起き出して仕事してるぜ。その中をちょろちょろ団体でぶっこんで来たら、さすがに見つからないのはおかしいだろ」
確かにそうか。1匹ならともかく5匹も侵入してるのだから、人目のつかない夜に入ってきたと考えるのが正しい。
「でもシスターなのに朝が遅いのはどうなんですか?」
「ドワーフと酒盛りして、一晩中騒いでたやつに言われてもなぁ」
「ごもっともです」
「それより、昨日、夜更かししてたんなら、何か見たり聞いたりしてな…してないな」
「面目ない」
昨晩の事は、まったく記憶にないのでした。
「ああ、でも細工師のダイナーさんも起きてたと思いますけど?」
今朝は夜明け前に釣りに出るから、その準備を徹夜でしていたはずです。
「そのダイナーだが、戻ってきてないそうだ」
「やばいじゃないですか」
そうだ、村の中にこれだけ入り込んでいるなら、外にはもっと居てもおかしくない。
ジョンソンさんみたいに護衛の人もついていないだろうし。
「あたし、ちょっと探してきます」
言ったあたしの腕を掴んでマリアが止めた。
「だから、あんたはここに居ろ」
「でも、ダイナーさんが!」
「あいつは、ああ見えて強い。一人なら逃げるくらいはできる」
「でも、大物が掛かってたら、竿は放しませんよ」
「ゾンビに襲われてもか?」
「たぶん…あたしなら迷いますけど」
「迷うだけかよ!」
だって、もし3時間も坊主で、時間切れぎりぎりで投げ込んだ疑似餌針に、大物が食いついたら、釣り上げるまで、他の事は後回しですよ。
その時にゾンビラットに襲われたら、最初に思い浮かぶのが、
『今かよ、今、来るのかよ!』
で、次が
『お願い、ちょっと待ってて』
で、最後に
『逃げないと拙い?』
だろうから。
釣り人の異常な執念に、マリアはドン引きみたいだ。
「村で釣りは禁止にすっかなぁ」
「それ反乱が起きますよ」
「そこまでかよ!」
最初から禁漁区だったのならまだしも、途中から全面禁止にしたら、一揆になると思う。
あたしも参加するし。
「釣り馬鹿につける薬はねえな」
「それは否定できません」
あっちでも、無理に有給とって釣りに行って、会社を首になった人とか、潮が満ちるまで粘り過ぎて、荒磯に取り残された人とか、いっぱい居たからね。
その時、門番の人が大声を上げた。
「戻ってきたぞ!だが、追われている!!」
その声で、自警団の人達が一斉に門へと移動します。
「狼の群れが6頭!だが動きが遅い。たぶんゾンビウルフだ!」
今度はゾンビのウルフ版です。
ゾンビ化すると、体力が異常に増える(約2倍になると言われている)けど、俊敏性は失われる(半分になると言われている)。
なので、集団で襲い掛かってきて、ヒットアンドアウェイを繰り返す狼は、むしろ脅威度が下がります。
ただ、病気や毒を持っている可能性もあるので、そこには注意が必要ですが。
槍を持った兵士が、跳ね橋を降ろせる位置に並んだようです。
さらに弓を持った兵士が、門の脇の櫓に登って援護射撃を始めてます。
「あたしも行きます」
そう言ったあたしを、マリアは今度は止めなかった。
「頼む」
頷き返して、櫓に駆け上る。
「うおっと、エルフの嬢ちゃんか」
「ちょっと場所借りますね」
そう言い置いて、弓を構えて、矢を放つ。
狙いは、採集隊の殿を狙っているゾンビウルフである。
「遅い!」
森の中で、変幻自在に襲ってくるフォレストウルフに比べて、ゾンビ化した狼は、歩いているのも同然だった。
3連射で、先頭の一頭を屠った。
「おいおい、すげえな、この距離で一頭を狙い撃ちかよ」
「やべえ、俺だと届くのがやっとだ」
でも採集隊の走りも鈍い。殆どの隊員が負傷しているみたいだ。
その中には、薬師のジョンソンさんと細工師のダイナーさんの姿もある。
「合流できたんだ」
懸案の一つが無くなったあたしは、どんどんゾンビウルフを射殺していく。
距離が近づくと、他の兵士の矢も命中し出す。
採集隊が堀の手前まで辿り着いたときには、ゾンビウルフは全滅していた。
ゆっくりと跳ね橋を降ろし、皆を村に招き入れる。
怪我をしているけど、全員揃っている。
そう安心した瞬間を、それは待っていた…
跳ね橋の下の堀の水中から、ゾンビラットが湧いて出てきたのである。
さらに森から、ゾンビウルフの群れが駆け寄ってくるのが見えた。
「敵襲!!」
門の周辺は大混乱に陥った。
「ゾンビラット5!ゾンビウルフ6!」
「採集隊を守って村に収容しろ!、終わったら直に跳ね橋を上げろ!」
「ダメです。ゾンビラットが引き上げ機構に挟まって、動きません!」
「なんだと!ゾンビウルフが村に入ったら村人に被害がでるぞ。なんとしてでも食い止めろ!」
あたしの位置からだと、真下のゾンビラットは狙えない。
ゾンビウルフを迎撃するにしても、橋までに2頭倒せればといったタイミングだ。
「本気の速度を隠してたね」
明らかに今の方がゾンビウルフの足が速い。
こちらが跳ね橋を降ろすタイミングでゾンビラットの奇襲。
さらに同調してゾンビウルフの突撃。
本当ならここで追撃していたゾンビウルフも2・3頭は残っている予定だったのだろう。
そうなると、採集隊の避難も遅れるし、増援のゾンビウルフも無傷で突入できてたはず。
あたしは、一頭でも減らすべく矢を連射しながら考えを巡らせた。
これは攻城戦の戦法の一つだ。
負傷した味方を収容しようと城門を空けた瞬間に騎馬隊が突っ込む。
門を閉じさせない為に、伏兵を側に忍ばせておく。
「敵に有能な軍師がいるね」
そこまでいかなくても、ゾンビ軍団を操り、策を練る知能を持った何かがいる。
その時、敵の決め手が放たれた。
「熊だ、熊が出たぞ!!」
森の奥から、四足歩行で、巨大な熊が突進してきた。
「こいつもゾンビか?!」
「間違いない!ゾンビグリズリーだ!!」




