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7Days to the Dead

いつも誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

 開拓村での2日目は、お昼まで二日酔いで寝てました。

 まあ、細工師のダイナーさんが、錬金術基本セットを作ってくれるまで、やることもないですし、今日ぐらいゆっくりしようかと思います。


 「ちょいやー」


 ぼふっ


 「ぐへっーー」


 お腹の上に何かが落下してきました。

 待って、胃の中のものが逆流する……


 「ショーコお姉ちゃん、もうお昼過ぎだよ。毛布を干すから、起きてー」


 「マ、マーヤちゃん、飛び跳ねないで、ヤバイから、本当に…」


 「むう、起きないなら、もう一度、棚の上から急降下…」


 「起きます!今、起きました!」


 「へへん、よろしい♪」


 危く室内に虹を架けるところでした。

 マーヤちゃん、恐ろしい娘…



 てきぱきと室内の掃除を始めたマーヤちゃんを残して、一階の食堂に下りていきます。


 村では、1日2食の人も多いので、お昼は食堂も空いています。

 カウンターに腰掛けて、項垂れていると、アズサさんが水を持ってきてくれました。


 「はい、これ飲んで、しゃきっとおし」


 「ああ、すいません、昨晩は飲み過ぎました」


 「だろうねえ、あのモルガンが驚いてたぐらいだもの。相当飲んだんだろうさ」


 手土産の酒はとっくに飲み干して、モルガンさんの秘蔵の酒を無理矢理引っ張り出したらしいです。

 『ワシの取って置きがぁぁぁ』 って騒いでいた様な記憶が、薄っすらと残っています。


 やばいな、今度行くときはそれなりのお酒を用意しないと…



 「それで、用事は無事に済んだのかい?」


 「たぶん…ダイナーさんには製作を依頼したものがあるので、その完成待ちです。なのであと2泊お願いします」

 そういって、アズサさんに宿代を前払いする。


 「はいよ、隊商が来るまで、あと5日はかかるだろうから、それまでは大丈夫だよ」


 そうか、月末(こっちでは8週間毎)に来るという隊商さんが、新しい荷物を運んでくるんだよね。滞在を伸ばして、買い物するのもありかな。


 あ、でも資金がないかも。


 宿代払って、基本セット分を支払ったら、残りは金貨数枚だね。

 欲しいものがあっても買えないんじゃ、待つ意味がないか。


 3日分の宿代も必要だし、一度戻ろうかなと考えていた時、二階からマーヤちゃんの悲鳴が聞こえた。


 「きゃああああ」


 あたしはカウンターから飛び出して階段を登ろうとした。


 だが、あたしより先に階段を駆け上っていく人影があった。


 「うそ、アズサさん?」


 その恰幅の良い身体で、どうやったらそんなに素早く動けるのか謎だが、階段を一段飛ばして駆け上がっていく。


 右手にはいつの間にか包丁を握っており、目からハイライトが無くなっていた。


 「こ、怖っ」


 うちの娘に手を出した奴は絶対に殺す、という殺気を撒き散らすアズサさんを押しのけて前に出る勇気はなく、あたしは一歩遅れて自分の部屋に雪崩れ込んだ。


 そこには、巨大なネズミに怯えるマーヤちゃんが居た。



 「なんだ、ネズミかぁ」


 ほっとしたあたしだったが、アズサさんとマーヤちゃんの緊張が解けていない。



 そういえば、こっちでもネズミはありふれているし、ジャイアントラットなら、このサイズは普通だ。

 宿屋を手伝うマーヤちゃんが、怯えて立ち竦むのは変なのだ。


 よくよく見れば、あたしの荷物の上に陣取った巨大ネズミは、身体のあちこちが腐り落ちていて、顔面からは半分、歯が剥き出しであった。


 「ゾンビラット!?」


 あたしの驚きの声と同時に、腐ったネズミがマーヤちゃんに襲い掛かる。


 「シッ」


 そしてそれを予期していたアズサさんが、一歩で距離をつめて、包丁を振るった。



 ドサッ


 空中で真っ二つにされたゾンビラットが、床に内臓をばら撒きながら落下した。



 「…ここ、あたしの部屋なんですけど…」


 泣きじゃくるマーヤちゃんを抱きかかえるアズサさんには、客のクレイムは聞こえていないようだった。



 その後、無事に部屋を交換してもらって、一息つけた。


 「ショーコも荷物は消毒しときな。やばい病気がうつるかもだからね」


 「アズサさんも、その包丁で料理しないでくださいね」


 あたしの荷物は乗られただけだが、あの包丁はザックリといっちゃってる。

 それにしても凄い切れ味だ。


 それともアズサさんの腕だろうか。


 「ああ、これはミスリルで出来ていて、サビないし、毒も病気も浄化できる優れもんさ」


 すごいな異世界。

 ステンレス加工の抗菌消毒機能付き三得包丁とか、まんまテレホンショッピング案件だよ。


 「それでもちゃんと洗ってください」


 「あいよ」


 消毒済みでも嫌なものは嫌なのである。



 ゾンビラットの屍骸は、壷につめられて教会へと運ばれていった。

 下手に捨てたり埋めたりすると、そこから病気が万延する可能性があるからだそうだ。


 教会でちゃんと浄化してもらってから、焼くのだという。


 『古来より、火は万物を浄化するものなり』


 怪しいものは焼く。これは辺境の鉄則らしい。



 問題は、他にも2体のゾンビラットが教会に持ち込まれたことだ。

 

 マッコイ商会では、ネズミ捕りにかかっていたらしい。


 兵舎では、夜番を終えて就寝していた自警団の若者が、足を噛まれたらしい。

 激痛に飛び起きて、鞘に収めたままの剣で叩き潰したという。


 ただ、噛まれた部分が腫れて、熱がでてきたらしい。


 感染した兆候である。


 この開拓村に『病気治癒』の光魔法を使える者は居ない。


 感染症予防薬はあるが、治癒薬は在庫切れだ。

 今回のキャラバンが運んでくる予定だったのだ。



 「で、どうするんですか?」


 あたしは3体のゾンビラットの屍骸に魔道具で浄化呪文をかけるシスターに話しかけた。


 「あたいらには、どうしようもないね。光魔法がぽんぽんランクアップするわけもなし」


 「でもそれじゃあ、あの団員さんが…」


 「まあ、話は最後まで聞きなよ。あたいらが出来ないだけで、村の大人はちゃんと考えてるからさ」


 この会話からわかる通り、この村の唯一のシスターは未成年でした。


 若干14歳のロリシスター、いやストリートチルドレンシスターである。


 名前はマリア。

 領都のスラムから、マッコイ商会の隊商に潜り込んで開拓村まできた猛者である。


 無賃乗車がバレて、簀巻きにされて川に流されそうになったところを、教会の神父様に救われた経歴の持ち主だ。


 以来、七年間、神父様に教えを受けたが、結局神聖魔法を覚えることはできなかった。

 魔法知識がランク3に、どうしても上がらなかったからだ。


 神父様は努力した。

 本人もやれるだけはやった。

 

 でも無理だったのである。


 世界知識や動物知識はスラスラと覚えていくのに、魔法知識や宗教知識は頑として上がらない。

 やがて神父様も諦めたようだ。


 『マリアはそのままで良いのです。貴女の好きなように生きて行きなさい』


 それが神父の最後の言葉だったという。


 だが、マリアは教会を離れなかった。

 他に行くあてがなかったという事もあるが、神父に受けた恩はきっちり返すつもりなのだ。


 「一宿一飯の恩義だって疎かにしたら忘恩者さ。あたいは7年、居候したからね。跡目が決まるまでは代紋背負ってやるって」


 そう言って教会に居座っている。


 村人も笑いながらそれを認めた。

 今では立派な村のシスターだったから。



 「そんなわけで、浄化や祝福、聖句なんかは魔道具でどうにかしてるんだが、『病気治癒』や『解呪』はどうしようもないんだよ」


 マリアは壷の中の屍骸を焼きながら説明してくれた。


 「そんで、薬師のジョンソンが今から感染症に効く薬草を取りに行くって話し。もちろん護衛をつけてさ」


 あたしの植物知識によれば、感染症の治療に使える薬草はめったに生えていなかったはずである。

 採集には時間がかかると思った。


 「あたしも一緒に…」


 そう言いかけたところを、マリアに遮られた。


 「あんたは村に残ってて欲しいのさ。なんとなく嫌な予感がするんだよね」


 マリアは壷の中身が燃え尽きるのを、じっと見つめていた。

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