聖獣とキャンパーその5
いつも誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
メイド服2着と、下着の上下3セット、並びに普段着を2着で、合計金貨8枚と銀貨5枚で買えました。
メイド服は、冬用のロング丈と、夏用のショート丈、(ミニまでいかない)が、揃いのデザインであったので、即買いです。
どうやら、どこぞの貴族様の趣味のようですが、生地もしっかりしているし、ほとんど着ていない様子なのでお買い得でした。
これが、この辺境まで流れてきた事が、信じられないぐらいです。
「色々あるんですよ。お貴族様の外聞とか執着とか、色々と」
プーキーさんが遠い目をしながら呟いていました。
聞かなかった事にしましょう。
下着は絹の高級品です。
何故か。
木綿以下の素材には、アインさんのサイズに合うのが無かったからです。
恐るべし、褐色巨乳エルフメイド。
ではなぜ高級ランジェリーには、サイズが揃っているのか?
「それもお貴族様の趣味ですかねー」
貴族、やばくないですか?
他にお金をかける場所があるでしょうに。
「まあ、あたしはウッドエルフで良かったですよ」
決して負け惜しみじゃないですよ。
エルザさんも、きっとスタイル良いから都会の貴族に目をつけられたに違いありません。
「でも、そういう趣味のお貴族様もいるって噂ですよ」
「ひぃいいいい」
これからは貴族の甘い誘いと、人攫いには気をつけるようにします。
普段着は、ノーマルな冒険者用の服と、シックなワンピースです。
教授がどんなお使いを頼むか判らないですからね。
汎用性の高い物を選びました。
本当なら、金貨10枚はしそうな買い物でしたが、プーキーさんが値引きしてくれました。
きっとマッコイ爺さんに、そうするように言われてたんだと思います。
決して、隅っこでイジケていたあたしに同情したのではないと信じたい。
どこかで牛乳売ってないかな…
「ところでプーキーさん、錬金術基本セットって売ってます?」
「おや?ショーコさんが使うんですか?」
「いえ、あたしの師匠に頼まれたんです」
「なるほど、ただ残念ながら在庫は無いですね」
在庫が無いということは、入荷はするんだ。
「いつごろ入荷します?」
「いえ、交易品ではなく、注文生産ですね。この村で作れます」
「え?錬金術師の方が、この村にいるんですか?」
それは教授のライフ設計が、大ピンチなのでは?
きっとポーション売りさばくだけで、老後は安泰とか考えてますよ。
「錬金術師は昔は居たそうですが、今は居ません」
セーフ。教授、後釜狙えますよ。
「ちなみに教会の司祭様も不在です」
この開拓村大丈夫なのかな?
「まあ、傷薬や毒消しは薬師が作れますし、教会もシスターが管理されていますので…」
「でもスタンピードや山賊の襲撃とかあったら、回復薬や癒し手が足りないのでは?」
「まあ、そうですね。そのために村の防備は強化されてます」
なるほど、それで辺境の開拓村なのに立派な堀や壁があったんですね。
「でも錬金術師はまだしも、教会の司祭が派遣されないってのは?」
「この開拓村にも色々ありましてねー」
再びプーキーさんが遠い目をした。
これ以上聞くと、沼に嵌りそうなので聞かない事にします。
錬金術基本セットは、錬金術で作るものではなく、細工師の方が作る物なんだそうです。
依頼すれば2日ぐらいで作ってもらえるそうです。
「ただ、今はなあ」
「何か時期的に拙いのでしょうか?」
「細工師のダイナーが趣味に走って仕事してないので…」
あ、それあたしの所為ですね。
新しい毛針とフライフィッシュの道具を教えたんでした。
そうか…まだ熱中しちゃってるんだ。
「そんなんで、村の仕事は大丈夫なんですか?」
「まあ、必要最低限の修理なんかは、尻を叩いてやらせてるみたいですが、新規の依頼はどうかなぁ」
「じゃあ頼むだけ頼んでみますね」
いざとなったら、新しい釣具のアイデアと交換で優先してもらいます。
さらに趣味に没頭しそうだけど、そこは村とダイナーさんの関係性であって、あたしは関わらないので。
「そうだ、お師匠さんが錬金術やるなら、あれ買わない?」
プーキーさんが指差したのは、天井付近からハンガーで吊るされた、豪華なローブでした。
白地に青の縁取りで、魔法学校の教師陣が着ていそうなデザインです。
教授が着ているところ想像してみます。
「……ありですね」
しかし問題は値段です。
どう見ても金貨で3桁いきそうな一品なんですけど。
「あれはね、さっき言った村の錬金術師さんの遺品なんだ」
「亡くなっていたんですね」
てっきり、業突く張りの商会主との交渉に疲れて街に帰ったのかと…
「なのでこの村にポーションを卸してくれるなら、金貨12枚でお譲りしましょう」
うっ、買えてしまう。
しかも教授のライフ設計的にも問題なさそう。
「ただし転売は禁止です。いらなくなったら、うちに戻してください」
なるほど、お抱えの錬金術師にレンタルする感じですね。金貨12枚は保証金ってことかな。
「わかりました、それください!」
「まいどー」
メイド服と錬金術ローブを置きに、一旦、宿に戻ります。
商会を出たら、すっかり日が暮れていました。
「うそ、そんなに時間たってた?」
まさかスタンドに攻撃されている??
『今、あたしに起きたことを、ありのままに話すね。マッコイ商会でメイド服の在庫を片っ端から吟味して、次に高級下着を解れや鉤裂きが無いか徹底的にチェックし、さらに有能な秘書が似合いそうな私服を取っ替え引っ換え選んでいたところ、4時間が経過していたんだ』
うん、当たり前だね。
超常現象は、1秒たりとも発生していませんでした。
そしてアズサさんに怒られました。
「夕飯までには戻ってこいって言っただろ!」
「マーヤも言ったよね!」
いや、マーヤちゃんは言ってない。
なんでも翡翠亭では、宿泊客には食事を先に出して、従業員も先に軽く済ませてしまうらしい。
なぜなら、その後で大食堂で食事をする、村の独身男性が、全てを食い尽くしてしまうから。
ステーキとか一人分が決まっているメニューなら問題ないのだけれど、今晩はヘラジカ肉のブラウンシチューだったので、お替り合戦が繰り広げられたとのこと。
あっと言う間に巨大な寸胴鍋が空っぽになったという。
「ええ?じゃあブラウンシチューは残ってないんですか?」
ヘラジカのステーキなら諦めもしたけど、アズサさんの作ったブラウンシチューは食べてみたかった。
「安心おし、一人前はなんとか確保しといたからさ」
「よかった…あ、でもそれだと宿の皆さんの分が」
「なに言ってんだい。宿泊客が優先に決まってるだろ。宿代払ってるあんたが遠慮してどうするのさ」
そう言ってアズサさんは笑っています。
「さあ、とっとと部屋に上がって食事を済ませておくれ。洗い物が片付かないからね」
「からね!」
マーヤちゃんもアズサさんを真似て、隣で腰に手をあてて胸をはっています。
食器洗いのお手伝いは、ちゃんとするみたいです。
温め直して熱々のヘラジカのブラウンシチューは、とても美味しかったです。




