聖獣とキャンパーその4
思ったよりヘラジカが高く売れたので、他の物は売らずに置いておく。
というよりマッコイ爺さんと交渉するより、職人さんと物々交換したほうがお得なんだよね。
大っぴらにやると、手数料を取りはぐれたマッコイ爺さんの血圧が上がりそうだから、やるならこっそりと。
というわけで、まずは宿を確保に行きます。
「こんにちわー」
「はいよー、おやまあ、ショーコじゃないか。もう戻ってきたのかい?」
「あ、ショーコお姉ちゃんだ、お帰り~」
宿の女将さんであるアズサさんと看板娘のマーヤちゃんが、笑顔で出迎えてくれた。
うん、実家に帰ってきたかのような安心感があるね。
まだ一度泊まっただけなんだけど、すっかり常連客扱いです。
「ただいまー、大物が取れたから、村に皆に食べてもらおうと思って」
「今度は何を取ってきたの~?」
「今度はねえ、ヘラジカって言ってわかるかな?鹿の大きなやつ」
「マーヤ知ってるよ~」
それたぶん知らないやつだよね…
「角が生えてて、空を飛ぶの~」
ああ、うん、たぶんそれ、麒麟だね。
「ええ?違うの~。あ、マーヤわかっちゃった~」
それきっとわかってないよね…
「お馬さんのことだよね~」
それはただの馬鹿…げふん、げふん。
「見た目はトナカイに近いかな、ほら、橇を引く大きな鹿は知ってる?」
「橇は犬が引くんだよ?ショーコお姉ちゃんの国では鹿が引くの?」
うん、確かに犬橇が多いね。
そしてこっちにサンタクロース伝説は無いみたいだ。
「そら、マーヤも手が止まってるよ。とっととショーコを部屋に案内して、食堂の手伝いをしておくれ」
「は~い」
元気良く返事をしたマーヤちゃんは、2階の個室の鍵を受け取ると、足早に階段を駆け上がって行った。
「アズサさん、マーヤちゃんの様子が子供っぽくないですか?」
最初のときはもっとしっかりしていたような…
「ああ、マーヤは人見知りだからね。初対面のときは緊張してたんだよ。今はすっかり打ち解けて、素が出てるようだね」
なるほど、こちらが本当のマーヤちゃんなんだ。
「あんまり馴れ馴れしいようなら、注意しておくけど?」
「いえ、あたしも妹が出来たみたいで嬉しいですから」
「普通はあそこまで懐かないんだけど、どうしてかね?」
アズサさんは首を傾げながら仕事に戻っていった。
あたしはマーヤちゃんを追って、階段を登っていく。
部屋は前回と同じ、2階の一番奥の個室だ。
マーヤちゃんが、部屋の備品のチェックをしていた。
「はい、全部準備できてます」
「ありがとうね」
そういって、お駄賃として銀貨1枚をあげた。
「わ~い、ありがと~」
マーヤちゃんは、喜びの踊りをおどりながら階段を降りていった。
さて、部屋に荷物を下ろして、椅子に腰掛けると、今後の行動について考えてみた。
まずは、ヘラジカで軍資金が出来たので、頼まれた買い物を済ます。
「アインさんの服は買えるけど、教授の言ってた錬金術基本セットはあるのかな?」
開拓村には売ってなさそうなんだけど。
あと、預かった魔石も処分し辛い。
「ぜったいに出所を聞かれるよね」
魔獣は狩ったことないけど、この魔石のサイズが異常というのは、なんとなくわかる。
あたしでは絶対に狩れない相手だと思う。
「里から持ち出してきたことにする?」
でもそれだと今後、教授から頼まれたときに苦しくなりそう。
どれだけパクッて来たんだって話になるよね。
「大人しく、師匠に換金を頼まれたって事にしとこうかな」
錬金術セットを買う理由にもなるしね。
あとは鍛冶屋のモルガンさんに、レオンさんの事を相談しないと。
指輪の件はまだ、進展してないだろうけど、お墓が留守になったことは伝えておく必要があるから。
よし、まずは服からだ。
「アズサさん、買い物に行ってきます」
「はいよー、夕飯までには戻ってくるんだよ」
「はい、食事は部屋でお願いします」
「あいよー」
アズサさんは、いつも急がしそうだ。
もう一人ぐらい従業員を雇った方が良い気もするけど、マーヤちゃんが大きくなればなんとかなるのかな?
マッコイ商会は、翡翠亭の目の前にある。
「プーキーさん、こんにちわー」
「…いらっしゃいませ。おっと、ショーコさんでしたか」
「今、ぎくっとしませんでした?」
「ははは、なんのことでしょうか?」
プーキーさんは誤魔化しているけど、絶対に一歩下がったよね。
あたし、プーキーさんに引かれる覚えは無い…こともないかな。
そういえば、前回の時に、大量の商品の山を崩したまま、知らない顔して帰ってましたっけ。
「この前はすみませんでした。夢中で探し物してたんで、整頓もせずに」
「いえいえ、片付けは店側の仕事ですから。隊商が来て新製品が入った初日は、もっと凄いですから、はは」
それって、村の女性が総出で来ての事ですよね。
「それで今日は何をお求めですか?」
「はい、メイド服を何着か」
「えっ?」
今度ははっきりとプーキーさんが引きました。
「あ、今度は山を崩さないように丁寧に見ますから」
「いや、まあ、そっちはどうでも良いんですが…」
ああ、あたしが着ると勘違いしましたね。
「違います、違います。メイドを雇ったんです」
「ええっ?」
訂正したら、さらに驚かれました。
「あたしがじゃなくて、あたしの魔法の師匠がです」
「ああ、なるほど、お師匠さんがいたんですね。それなら納得です」
なんだろう、ウッドエルフの猟師にメイドがいたら拙いんだろうか……
『ご主人様、お召し物が返り血で汚れております。すぐにお着替えを。解体はわたくしが済ませておきますので』
うん、拙いね。
というか変だね。
プーキーさんには、アインさんのスタイルを伝えて、何着か見繕ってもらった。
「なるほど、身長はショーコさんより5cm高くて…」
そうなんだよね、あたしももうちょっと欲しかったな…
「ウエストは同じぐらいで…」
あれでアインさんは、引き締まった身体つきなんだよね。アスリートっぽいというか…
「バストとヒップは2サイズ上で…」
あれ、なんだろう、悲しくなってきた…
「だとすると、これかこれになるんですが…って、ショーコさん?」
プーキーさんが、店の隅でいじけているあたしを見て驚いている。
「いえ、ちょっと深刻な精神ダメージが…」
「はあ?」
同じ眷属なのに、圧倒的なスペックの違いがですね…
そしてその衝撃は、アインさんの下着を選ぶときにも、あたしの精神を直撃した。
「げふっ!」
「ショーコさん?大丈夫ですか?」
「だ、ダメかもしれません…」
恐るべし、褐色巨乳エルフ。
カップが4つも違うとは……




