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聖獣とキャンパー

いつも誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

 教授達と別れたあたしは、ヌコ様を背負って、森の中を秘密基地へと引き返していた。


 「まずは解体ナイフと鉈の回収です」


 「がう」


 ヌコ様が、来たときと同じ状況なら、元来たルートを間違いなく戻れるというので、帰りも背負っていきます。

 荷物も無いし、ヌコ様の意識がしっかりしているので、背負った重さが半減していてかなり楽です。


 たしっ


 右の肩を軽く叩かれました。


 「あ、やや右ですね」


 「がう」


 こうやって迷い易い森を誘導してもらっています。


 ときどき、ウッドエルフとして何か間違っているんじゃないかと思うときもあります。


 そんなときに限って、肩が叩かれるのです。


 「あ、左ですね」


 「がう」


 余計なことを考えずに進めというお達しです。


 しばらくするとこの状況にも慣れました。

 荷重長距離行軍の訓練と考えれば、問題ありません。


 軍人でもないハンターに、その訓練が必要かどうかは疑問ですが。


 「がうがう」


 「わかりました。考えるな、感じろ、ですね」



 どうやら魔法の次に、理力を覚えるかもしれません。

 でも騎士には成りたくないな。なぜなら、末路が悲惨すぎるから。

 あれはもう呪いの一種でしょう。

 

 

 「おっと、解体ナイフ発見」


 危く見逃すところでした。

 今は騎士の一家の行く末を案じるより、装備の回収の方が優先です。


 「がう」


 「あ、鉈もあそこに見えますね。ヌコ様ありがとうございます」


 無事に2つを回収して、さらに移動すると、見慣れた場所に出ました。


 「ここ、レノンさんのお墓ですね」


 犬族のハンターさんに追いつかれたところで、地中から白骨の手が伸びてきて、あたし達を助けてくれました。

 

 「あたしの埋葬が中途半端で、成仏できなかったんですよね」


 祝福も聖句も唱えられない埋葬では、アンデッド化を防ぐ事は出来なかったようです。



 今も、その遺体を埋めた場所は、ぽっかりと穴が開いています。


 アインさんに尋ねたところ、スケルトンは手首を切断したあとは地面から出てこなかったので、無視したと言ってました。

 ですので、この穴はその後で出来たことになります。


 「まだ、諦めてないんですね…」


 レオンさんは、まだ、理不尽な運命に抗っているみたいです。


 「ありがとうございました」


 誰も居ない墓穴に向って頭を下げました。


 ヌコ様もこのときは地面に降りて、うな垂れていました。


 レオンさんとは、きっと、またどこかで出会える気がします。


 それまで、しばし、お別れです。




 ここまで来れば秘密基地まで直です。


 ジャガイモ畑の罠は、めちゃくちゃにされていましたので、簡単に改修しておきます。

 害獣が来るかもしれませんからね。


 秘密基地は思ったより平穏でした。

 中を探索したのがアインさんだったので、八つ当たりで物を壊されたりしていないので助かります。


 「あのツヴァイって人なら、ぜったい意味無く破壊してったよね」


 「がう」


 ヌコ様も同意見のようです。


 

 やがて日も暮れてきたので、暖炉に薪をくべます。

 教授のシェルターは自動温度設定でしたが、ここは火が無いと少し寒いです。


 あと2週間ぐらいで秋も終わりです。

 食料の備蓄を急がないと。


 「そっか、教授と一緒にいれば食料問題は解決なんだ」


 まさか樹魔法で複数人が維持できるほどの食料が生み出せるとは思ってもいませんでした。

 元の呪文だと味は二の次の、保存食みたいな木の実がでてくるみたいですが、教授のは別物です。


 「美味しかったなぁ」


 日本人の味覚に合わせてあったので、ことさら美味しく感じました。


 「でもあれに慣れたらダメになるね」


 言って見れば、ファミレスかウバーなイーツです。

 メニューから好きなものが選べて、すぐに届く。しかも美味しい。


 お貴族様の晩餐会は、たまに御呼ばれするぐらいが丁度いいんです。


 「なので今晩は、ジャガイモの蒸し焼きのみです」


 「ぐるる」


 「焼き魚もつけろ?これから釣って捌いて焼くの面倒なんですよ。強行軍で疲れてますし」


 ヌコ様を背負って森を走破したわけで、追われていたときは、最後は足が動かなくなっていたぐらいです。


 「がう」


 「そんなんじゃ、立派な守護者になれないですか?なるつもりも無いですし、もう教授が居るじゃないですか」


 この森の守護者として、十分な資格を持っていると思います。


 「がうがう」


 「彼は森全体に責任は持たない。狭い範囲の主でしかない?」


 なるほど、そう言われると、魔法ですべて解決していて、労働する気はゼロでしたね。

 立派な自宅警備員です。

 滅茶苦茶スペック高いですけども。


 それでも一人きりなら、外部との接触も否応無しに発生したのでしょうが、今は褐色巨乳で有能なメイドさんがいますからね。さらに引き篭もる可能性が大です。


 「がう」


 「それに買出し要員までできた?ああ、それあたしですね」


 そっか、教授の引き篭もりに、あたしが手を貸してたんだ。


 「がう」


 「だから、手を抜かずに飯を作れと。仕方ないですねぇ」



 よくよく考えると、あたしが守護者としての修行をすることと、教授が引き篭もりなこと、そして晩飯のオカズを1品増やすことに、関連性はない気がする。


 あたしが森の守護者なんておこがましいし、教授が力量はあるのに引き篭もりなのは本人のせいだし、男爵様だって立派なご飯です。


 まあ少しだけ、守護者候補生というのは誇らしいですし、教授は周りが甘やかし過ぎてるとは思います。男爵飯も手抜きだとは認めましょう。


 けれども、疲れた身体に鞭打って、魚釣りを始めたのは、たんにヌコ様との約束を思い出したからだと思う。



 『もう一度、あたしの釣った魚を焼いて、一緒に食べましょう』



 それは、声を出して伝えたわけではないけれど、あたしの中では繰り返し、繰り返し唱えていた約束だから……



 たしっ たしっ


 催促するヌコ様の、尻尾も嬉しそうに揺れていたから……


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