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教授とメイドその5

 翌日、アインは朝から爽やかな笑顔を見せていた。

 どうやら色々吹っ切れたらしい。


 よかった。


 昨晩はめちゃくちゃ絡まれたから。


 「マスターは、なんだかんだ言っても天才なんです。凡人の私の苦労なんか、これっぽっちも分っていないんです」


 「いや、そんな事はないぞ」


 ちょっとだけ転生チートをもらったけれど、元は普通の学習塾講師です。


 「いいえ、わかってません。私がどれほど悩んで弟子入り志願したかとか、メイドになれてどれぐらい嬉しかったとか、仕事が無くてどれほど悩んだかとか、女家庭教師もいけるかもと思ったら2日で授業が終わったとか……」


 いや、最後のは、なんか違わないか?


 「葡萄からワイン作っちゃうし、松茸美味しいし、カミキリムシ食べないし…」


 うん、もう愚痴ですらないね。

 あとカミキリムシは食べないから。


 それからアインが酔って寝落ちするまで、昔の思い出話をずっと聞かされた。


 曰く、優等生で上官の受けも良かったので、仲間には妬まれた。

 曰く、初恋は5歳年上のダークエルフだったが、3年前に試練に出かけて戻ってこなかった。

 曰く、貴族の名称と礼儀作法を覚えさせられたのは、どこかに潜入工作させる予定だったらしい。

 曰く、早すぎる試練は達成が危ぶまれていた上に、年長の厄介者を押し付けられた。

 曰く、アイン本人も、里の上層部には違和感を覚えていた。


 などである。


 話を聞いてみると、アインを潜入工作員として育て上げようとしていた派閥とそれを否定する派閥が争って、結果、無茶な試練に送り出されたようだ。

 推進派は試練を突破すれば大手を振って幹部候補にするつもりであり、反対派は妨害工作をしてでも失敗させるつもりだったようだ。


 推進派は成功率を上げる為に神器を手渡し、反対派は抵抗勢力を潜り込ませる。

 それでもショーコ君が割って入らなければ、試練は達成できていたと思う。


 その後、無事に里まで戻れればだが…


 ツヴァイという危険因子が、反対派から何を言い含められていたかによるが、今はもう聞き出す事もできない。

 

 「こうなってみると死霊魔法も大事だったな」


 ランク3もあれば、死体から情報を引き出すことができた。

 今度、機会があれば習得しておこう。


 だんだん呂律が回らなくなって、そのまま寝落ちしたアインをシェルターの中央に寝かせる。

 蔦や枝で作った食卓や座椅子は、魔法で元に戻しておこう。


 起さないように、そっとシェルターを出ようとしたとき、アインの寝言が聞こえた。


 「…マスター、信じてます…」


 そのまま外に出ると、大きな月が森を照らしていた。


 「これは裏切れないなぁ……」



 月はただ、無慈悲に見下ろしているだけだった。





 そして翌朝になり、胸の中のわだかまりを全て吐き出したアインは、すっかり元気になっていた。

 ちょっとテンションが上がりすぎていて、まだ酔っ払っているのかなと心配になるぐらいである。


 昨日は、授業から宴会になだれ込んで、そのまま寝たのでシャワーを浴びていない。


 なので土魔法で仕切りを作って、交代でシャワー&ドライヤーを使う。

 さっぱりしたところで朝食を済ませ、契約魔法の授業に移る。


 

 「契約魔法のランク1呪文は3つあります。『オース(宣誓)』『コントラクト(契約)』『パーソナル・スキャン(個人走査)』です」


 「なるほど」


 「宣誓は、対象が誓ったことを、ちゃんと履行しているかどうかを見極める呪文です。破るとステータスに『宣誓破棄』と記載されます」


 「なるほど、それは永久にかね?」


 「いえ、なんらかの賠償、贖罪、解呪などで消すことができます」


 「ならば、あまり強制力はないということかな?」


 「はい、あくまで破ると不名誉である、ぐらいの感覚ですね」


 まあ、裁判の証人で、神に誓っても偽証する奴はいるからな。

 あと神前で永遠の愛を誓ったはずなのに、1ヵ月後には離婚する夫婦もいるし。



 「契約は、主に商人の間で扱われます。交わした契約がちゃんと履行されているかが判定できます」


 「一方的に破られたら、すぐに判ると?」


 「そうです、しかもそれが不慮の事故によるものなのか、意図的に破ったのかも判別できます」


 「それは便利だな。しかし破った方が白を切ったら水掛け論にならないかね?」


 「はい、なので契約は第三者が掛けることが多いです」


 「なるほど、ギルドなどが証人になるわけだ」


 これならどちらが違反したのか判り易くて良いな。

 そのギルド員が買収されたりしなければだが。


 「あとは交易商が冒険者を護衛に雇ったときとか、高価な特注品の発注を受けた工房主などが使います」


 どちらも口約束だけだと揉めそうだからな。



 「個人走査は大きな街に入るときに、門の所でチェックされるのと同じものです」


 「まさかその為に契約魔法を門番が覚えているのかね?」


 「いえ、さすがにそれは無理です。魔道具を使っています」


 よかった、そこらへんにぽんぽんいたらどうしようかと思ったよ。


 「個人走査では、重犯罪歴、逃亡奴隷、間者、暗殺者、盗賊などを判別することができます。もちろん隠蔽の魔道具や偽装スキルで隠すことも可能ですので、全部が発見できるわけでもありません」


 だろうな。間者や暗殺者が門で引っかかってたら商売あがったりだろうから。


 「ただ、盗賊や山賊は偽装スキルなど持っていないので、隊商の護衛には役立つ魔法です。もし冒険者で習得してれば、引っ張りだこですね」


 まあ、交易商自身が契約魔法を持っていそうだが、効果範囲の問題もあるだろうし、前に出て警戒する役の冒険者が持っていたら便利ではあるか。

 バレたとたんに切りかかってくる山賊も多いだろうしな。


 さてこの中で俺が使いそうなのは個人走査だけなので、とっとと次の段階へ進もう。

 俺は一応3つの呪文を習得すると、個人走査を使って、契約魔法スキルの特訓を始めた。


 なおランク1の契約魔法を即座に習得したことについてはアインも特に反応しない。


 元々、魔法は知識と教師が揃っていれば習得はすぐである。


 魔法スキルを覚えるのが初めてなら、それでも3日ぐらいはかかるらしいが、幾つも習得している魔道師ならば、呪文特性を細かく聞けばすぐに使えるようになる。


 なので、俺が一度の説明でランク1呪文を習得したことにアインは驚かない。


 驚いたのはその連射速度である。


 ランク1なら無詠唱が使えるし、なんなら即応呪文として2発打てる。

 契約呪文は魔法陣も詠唱に関係するので、慣れるまでコツが必要だが、一度短縮詠唱に成功すれば、あとはすぐである。


 宣誓や契約は対象が必要なので、空撃ちするなら個人走査である。


 というわけで無詠唱と即応詠唱でバンバン打ちまくる。


 「あの、マスター、その連射速度でマナは持つのでしょうか?」


 「ああ、問題ない、100ぐらい撃ったら休憩するから」


 「ひゃ、百ですか?」


 「うむ」


 無詠唱だから、会話しながらでも呪文は発動する。


 少しずつ効果範囲を変えながら百連射したら、契約魔法のランクが上昇した。


 「お、ランク2になった」


 「え?もうですか?」


 「うむ、思ったよりも早かったな」


 「ははは、そうですか、もうランク2ですか…」



 10分ちょっとでランク2に上げたのは、拙かったか。



 その後、虚ろに笑うアインを、宥め賺して、なんとかランク2の呪文を聞きだすことができた。

 ランク2には『スキル・アナライズ』があるから、早く覚えたかったのだ。


 その後は、再び落ち込むアインに、俺が土魔法を教えることでなんとか復活させた。


 新しい魔法を覚えたアインはすっかり上機嫌になった。


 なお、これは授業ではなく、使用人の職業訓練なので間違えないように。

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