教授とメイド
アインが俺のメイドになった。
主従契約も結んだので、秘密を漏らしたり、不利益な行動は取らないことを宣誓させてある。
まあ、あの忠誠心なら、よほどの事が無い限り大丈夫だと思う。
「これは素晴らしいです。さすがマスターです」
コオロギは出せなかったので(召喚できないこともないが)、『ランチボックス』で幾つか実を出してみた。
どうやら気に入ってくれたようだ。
横でショーコ君が指を咥えて見ているが、君はさっき食べたばかりだと思うのだが?
食べ過ぎは良くないので、しばしお預けにすることにした。
食事の問題が解決したので、次は住居である。
アインは眷属なので、同居も問題はない。
しかし狭いシェルターで、男女同衾というわけにもいかないので、専用のシェルターを追加した。
「私は構いませんが」
「いや、そうもいかないだろう」
「ですよ、褐色エルフメイドの添い寝とか、通報案件です」
なぜかショーコ君が反対してくる。
君には直接関係ないはずだが?
「だって教授はずるいです。こんな全天候型のカモフラージュ付き多目的シェルターとか、ありえませんから」
そこは確かに、この魔法を開発した人物は趣味人だったんだとは思う。
もしくは野外で虫に苦しめられるのが嫌な潔癖症だったのかも。
「実は、まだ使えないが、空間魔法がランク5になると、これがバージョンアップするんだ」
「まじですか?どうなるんですか?あたしにも使えるんですか?」
「防犯対策つきのログハウスが召喚できる。バス・トイレ付きだ」
「めちゃくちゃ凄いじゃないですか?!」
「そして空間魔法だから、ショーコ君には使えない」
「まじですかあああああ」
崩れ落ちるショーコ君を、聖獣が慰めている。
たし たし
「そうですよね。あたしには横穴式住居がお似合いですよね」
横穴式って、それ洞窟とどう違うのかな?
最後に衣服の支給である。
「これが一番の問題だな」
衣服は魔法では製作できないし、アインにヴェインアーマーを巻き付けるわけにもいかない。
主に倫理的に。
「私の衣類でしたら、御気になさらず。洗濯中は布でも巻いておりますので」
「いや、そうはいかないだろう。制服と代えの普段着ぐらいは用意しないとな」
「ですよね、メイド服は夏・冬必要ですし、下着も代えは必要だと思います!」
なぜかショーコ君の方が乗り気である。
「しかしマスターに負担をお掛けするわけには…」
「そうだ、あのパワハラ男の身ぐるみを剥ぎ取りましょう」
ショーコ君が無慈悲な意見を述べる。
「それはさすがにアインが嫌がるだろう?」
「いえ、私はすでにマスターに仕える身です。それに彼らとは、試練を突破するチームとしては協力してきましたが、里ではほとんど無関係でしたので」
「そうか、アインが気にしないのであれば、遺品は活用させてもらおう」
現金収入があれば、ありがたい。
3人の遺体を埋葬がてらに、装備品の回収をする。
ドライは死体は残っていなかったが、装備品はバラバラになって散乱していた。
ゼクスとツヴァイは、魔法で止めを刺した為、発動しなかった落とし子の種がまだ背中に残っていた。
このまま放置しておけば、自然と枯れるらしいが、何かの拍子に発動して、死体を喰って巨大化すると面倒なので、光魔法で除去しておく。
土魔法で穴を3つ掘って、死体と、価値のない装備品を放り込むと、『アースコントロール』で埋め直して、簡易的な墓にした。
「試練の途中で力尽きた探求者達よ、迷わず女神の元へ召されることを祈る…『サクレッド・ワード(聖句)』
神聖魔法がランク2になって、正式な聖句が仕えるようになった。
闇蜘蛛の女神の信者なので、俺の聖句で女神の御許に召されるかは不明だが、アンデッドになることは防げるはずである。
「ああ、お墓って埋めるだけじゃダメなんですね」
ショーコ君が何か納得したように、うんうん頷いている。
何か心当たりでもあったのだろうか?
アインは静かに祈りを捧げていた。
先ほどは、ああ言っていたが、同年代の二人には思い入れもあるだろう。
ツヴァイは厄介払いできて清々したかも知れないけれど。
彼らの所持品は、金貨5枚と銀貨8枚。それにマイナーヒールポーションが3本と武器が幾つかである。
革鎧は、全身ツヤ消しの黒一色で、特徴があり過ぎて、使うのも売り払うのも気が引けるので埋葬した。
ポーションは1本が金貨1枚、武器は全部で金貨15枚ぐらいで売れるとアインは言っていた。
「じゃあ、あたしが村で換金してきます。ついでに服も買ってきます」
「そうか頼めるかな」
「その代わり、戻ったら魔法を教えてください」
空間魔法は習得できないが、樹魔法はウッドエルフだけに適正がありそうである。
「よかろう、徒弟として認めよう」
「やったーー」
樹魔法を覚えても、『ランチボックス』の呪文は簡単には覚えられないが、それは黙っておく。
生徒の学習意欲は、できるだけ削がないのが、授業に集中させる秘訣である。
「それでもし、その村で錬金術の基本道具が手に入るなら買ってきて欲しい」
「錬金術ですか?なんかお高そうなんですけど?」
「うむ、手持ちで足りないならこれを売り払ってくれ」
俺は『ヒドゥン・トレジャリー』を呼び出して、中にしまっておいた巨大熊の魔石を渡した。
「えっ?!今のってアイテムボックスですよね?」
「まあ似て非なるものだが、亜空間収納はできるな」
「ずるい、教授ずるいです。空間魔法便利すぎです」
まあ、それは俺も思う。
「確かに、貴重品を収納しておくには便利な魔法ですね」
アインも感心している。
ついでに女神の牙とよばれる鏃も慎重に保管する。
これは世間に流すつもりはない。
「魔石の買取をしているかは不明だが、あきらかに買い叩かれるようなら、今回はあきらめて、もっと大きな街に行く算段をとりつけよう」
「教授が行くんですか?」
「ありえんな。長距離偵察用の使い魔を放つだけだ」
「ですよね」
俺もアインも、種族的に人族の街へ顔を出すのは難しいだろう。
買出しはショーコ君に頼むしかない。
「ああ、村に行く前に寄り道していいですか?」
「それは構わないが、どこに寄るのかな?」
「ヌコ様を背負って逃げるときに、荷物の大半を放棄してきたので、拾いに行きたいです」
「それ、早くいかないと紛失しないか?あと場所はわかるのか?」
「実はよく覚えてないです」
それをどうやって拾いに戻るというのだろう。
「がう」
「あ、ヌコ様が場所はわかるそうです」
聖獣の方が頼りになるな…




