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ボーイ(ニート) ミーツ ガール(ゆるきゃん) その7

いつも誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

 その場にへたり込んで、考え込んでしまったアインを残して、俺はウッドエルフと聖獣と思しき雪豹のそばに近づいていった。


 『サイレント・ゾーン(遮音結界)』


 神聖魔法ランク2の遮音結界を張って、周囲に音が漏れないようにすると、ウッドエルフへと話しかけた。


 「君はお仲間ということで良いのかな?」


 ほぼ間違いないと思うが、一応確認しておこう。


 「はい、あたしも転生してきました。モーリー教授」


 こちらを見つめながら、懐かしい呼び名をしてきた。


 「その名で呼ぶなら、教え子だったんだろうが、すまん、誰だか全然わからん」


 「いえ、あたしも声を聞くまで別人かと思ってましたから、一緒です」


 そう笑顔を見せる彼女は、学生らしくも見えた。



 まだ本調子ではない聖獣を撫でながら、彼女は身の上話を始めた。

 やはり俺と同時に、転生トラックに巻き込まれ、同じように転生図書館を経て、ストーンサークルに降り立ったらしい。


 「しかし、えらく早い選択だったな。俺なんか10日もかかったのに」


 「それ、教授がかかり過ぎなんですよ。10日って悩み過ぎですよ」


 「いや、人生設計と考えたらそれぐらいかけるだろう?なんだよ2時間って」


 転生の書を読み込むだけで、一日はかかると思うが。


 「あたしは音声ガイダンスで、お薦め選んでもらっただけですよ」


 「転生の書にそんな機能が?!」


 俺もテンプレ表示が無いのかと思ったが、まさか音声表示とは。ジェネレーションギャップがすごいな。


 

 「それでモーリー教授は、ハイエルフの魔法特化型ですか?」


 「ああ、そんな感じだが、こっちではバークレイと名乗っているから、そう呼んで欲しい」


 「へえ、有名釣具メーカーですね」


 「いや、普通は北米の大学が思い浮かぶと思うんだが」


 この娘も、ちょっと変わってるな。

 頭の回転は速いのだろうけど。


 「了解です。バークレイ教授」


 「教授は外れないんだな」


 「先生でもいいんですけど、なんかハイエルフという種族自体が、貴族とか高位種族に思われているみたいで…」


 

 そう言いながら、そっとアインの方を見ている。

 まだ彼女は、思考の海から戻ってきていない。


 「確かにな。ダークエルフがあれほど敬ってきたのは予想外だったな。なのでつい、排除しそびれた」


 「あ、やっぱりバッサリいく気はあったんですね」


 「まあな。ヤバいカルト集団だと思っていたから、禍根を残すよりは証拠隠滅を優先してた。取り逃して報告されても厄介だしな」


 「あたしは、てっきり仲裁だけに登場したのかと、ハラハラしてたんですよ」


 「だろうな。だが、最初から君と知り合いだとばれると、人質に取られたりして面倒なことになると思ったから、第三者を装ったわけだ。よく我慢して話を合わせてくれたな」


 「教授がカラスの使い魔さんに、某劇場版の有名なセリフを喋らしてくれたから、転生者だということは、わかりましたから。でも逆にあたしが転生者だって良くわかりましたね?」


 「ああ、まあ聖獣をたれパンダみたいに背中に担ぐウッドエルフも、そうそう居ないだろうし、ヌコ様呼ばわりする者はもっと居ないだろうしな」


 幾ら緊急でも、こちらのウッドエルフなら、もうちょっと大切にするはずだ。


 「そうは言っても、あたしの力じゃヌコ様を抱っこするのは無理だったんです」


 「まあ、もし転生者でなくても、あの状況ならウッドエルフと聖獣を助けるとは思うけどな。まさか介入の理由にした眷族が、あちら側にもいるとはな」


 そしてそれを表明して交渉してくるとは予想外だった。

 他の連中が、煽り耐性が低くて助かった。


 向こうから手を出してくれないと、仲裁者としてのスタンスが崩れるから。



 「それで、彼女はどうするんですか?」


 「君はどうしたい?」


 俺としては放置でいいかなと思っていた。さすがに里に戻って上位者に報告するとかいう自殺行為はしないだろう。

 せっかく拾った命である。逃亡者としてでも生き延びて欲しい。


 だが、殺されかけた聖獣と、その保護者らしい彼女がどう考えているかだ。


 「あたしは、もうヌコ様を狙ったりしないなら、それでいいですけど…」


 そういって聖獣を見ると、そちらももうアインには無関心なようで、しきりに何か催促している。


 たしっ たしっ


 「え?お腹すいたんですか?でも食料とか全部放り出してきちゃいましたよ」


 たしっ! たしっ!


 「いや、そんなに怒られても、あたしも必死でしたし…いたっ、痛いですってば」



 うん、なんだろう、保護者ではないみたいだ。



 どうやら食事をする元気を取り戻したようなので、樹魔法で好みそうな味の『ランチボックス』を出してみた。


 はぐ はぐ はぐ


 どうやら気に入ってもらえたようだ。


 「なんですかそれ?、あたしも欲しいです!」


 ぺしっ


 聖獣に出した実を、つまみ食いしようとして怒られた彼女は、恨めしそうにこちらを見てきた。


 完全に聖獣の方が立場が上に見える。


 仕方ないので、彼女の分も出してやる。



 「はぐ はぐ 何これ、ちゃんとオニギリの味と食感がする。こっちはサラダ?デザートまで?!」


 夢中で食べる姿は、なるほど聖獣にそっくりである。


 「おかわり!」

 「がう!」


 「食いしん坊仲間というわけか…」


 「何か言いました?」


 「いや、何も」



 二十粒ずつ完食して、満足してお腹をさする姿は、ウッドエルフと聖獣というよりは2匹の猫である。


 「でも教授はずるいです。魔法で簡単に美味しいものが作り出せて」


 「俺は植物しか食べれないという食事制限があるからな。狩りや釣りで食料は確保できない。苦肉の策なんだよ」


 「えっ?お肉食べれないんですか?」


 「ああ」


 「でもさっきの実の中に、ハンバーグとかお刺身とか混じってたような?」


 「あれは豆腐ハンバーグとアボガドのテリーヌだな。醤油や砂糖、寒天なんかも植物性だから可能な裏メニューだ」


 魔法改変で変えた味付けにまで食事制限がかかるかは微妙だったが、安全第一で植物性由来の原材料しか使用していない。


 「はあ、色々大変なんですね」


 「君は菜食主義ではなさそうだな」


 「はい、食の楽しみを失わないようにって、アレクサンドラが外してくれました」


 「…よく出来たAIだな」


 彼女の趣味趣向まで考慮した転生の書を褒めるべきか、AIにまで見抜かれる食い意地を嘆くべきか。


 本人はいたって気楽に欠伸をしていた。



 「どれほどの距離を逃げ回ったかは知らないが、疲れているようだ。少し休むといい」


 そういって『シークレット・シェルター』を出してやったら、また騒ぎ出した。


 「なんですこれ?すっごい快適なんですけど。教授はずるいです!あたしがどれだけ苦労して野営してたか知ってますか?!」


 「そう言われてもな」


 その苦労を楽しもうという選択をしたのは君だし。


 「あたしも空間魔法が欲しかったです!」


 他人のビルドが羨ましくなるのは、キャラクタークリエイトあるあるだな。


 「あきらめろ、古代魔法まで極めるのは魔法特化型にでもしないと無理だ」


 必要な知識ランクが多すぎて、戦闘や生産系に回す余裕がなくなるのだ。

 それは活動的な彼女には我慢できなかっただろう。


 「だったら教授が教えてください!」


 なるほど、そうきたか。

 確かに時間をかければ不可能ではないか…


 「一つ聞こう。ウッドエルフには魔法の制約があったはずだが、それは解除したか?」


 「いえ、火魔法と闇魔法は使えません」


 「ならあきらめろ。空間魔法は光と闇の両方の習熟が必要だ」


 「ええ、そんなあ~」


 こればっかりはどうしようもない。

 デメリットの解除方法は俺にも見当がつかないからな。


 「いいな、いいな~。雨も風も気にならないし、なにより室温が一定だし、床はふかふかだし~」


 シェルターの中で転がりながら駄々をこねる彼女の脇で、聖獣はすでにお休みモードである。


 そんな聖獣を枕にして、彼女も眠ってしまったようだ。




 さて、アインの始末をつけようか…


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