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ボーイ(ニート) ミーツ ガール(ゆるきゃん) その5

いつも誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

 「してやられた」


 アインは自分の失策を、唇を噛み締めながら、後悔していた。


 あのウッドエルフが最後に放った光魔法は、我々の目を眩ませる為ではなく、救難信号として放ったものだったのだ。

 そしてそれに呼応して、第三者の介入を許してしまった。


 ここまで追い詰めたにも関わらず、心の折れていないウッドエルフを、即座に殺しておくべきだった。


 介入してきた勢力が、何かはまだわからないが、相当な実力者だと思われる。

 会話のできる使い魔を2体も送り込んでおきながら、こちらに警告を発してくる余裕があるぐらいだ。


 唯一、希望があるとするなら、介入者が最初から奇襲をかけてこなかったことだろう。


 これがもし、ウッドエルフの里の者達だったり、森の女神の使徒だったなら、問答無用で我々が襲撃されていたはずだ。


 「まだ逆転の目はあるはずだ」


 あの馬鹿が黙っていてくれればだが。



 

 「おいおい、ガー助が2羽いたところで、何ができるって言うんだよ。とっとと小娘をぶった切ってお終いにしようぜ」


 「ツヴァイ、黙っていろ。彼らはメッセンジャーだ。ご本人は後からくるはずだ」


 「ああん?ご本人だ?アイン、お前の知り合いか?」


 「違う。だがこの地の支配者の可能性が高い。我々は侵入者と見做されているはずだ」


 「なにビビッてるんだよ。面倒なのが来るなら、その前に終わらせてオサラバするのが正しいだろうが」


 確かにそれが出来れば理想だが、警戒スキルを持たないツヴァイとゼクスには現状が理解できていない。

 すでにワタリガラス2体の他にも、使い魔が4体移動してきて、我々を包囲しているのだ。

 うかつに動けば蜂の巣にされるぞ。


 ドライは私より広範囲が索敵できるのだ。今の状況を理解して怯えている。

 なんとか馬鹿の行動を管理しないとまずいことになる。



 そこへ、突然、空中から謎の人物が出現した。


 「ひゃっほう、空間魔法は最高だぜ」



 その人物を見たとき、その場に居る5人が、同じことを考えた。


 『なんかすごいの、来た』



 それは一言で言い表すなら、全身に緑色の蔦を絡ませた、プラントゴーレムらしき生物である。

 アインは、これも使い魔の一種で、樹魔法で操っているのかと想像した。

 ショーコは、『花京院のスタンドみたい』と思った。


 他の3人はただ唖然とするだけだった。


 しかもそれが人語を喋り出したのだ。


 「私の領域に何の用かね?」



 最初にショーコが叫んだ。


 「ヌコ様を助けてください!」


 それに答えて


 「よかろう、眷属の願いなら無碍にはできないしな」


 そう聞いて黙っていられないのがツヴァイである。


 「ああ?貴様も俺たちの試練の邪魔をする気かよ。だったら…」


 最後まで言わせず、アインが割り込んでくる。


 「ご無礼を。このチームを率いるアインと申します。ハイエルフ様でいらっしゃいますね」


 その言葉で、ツヴァイ達3人は表情を固くした。


 『ハイエルフとは揉めるな』


 彼らの上位者から、執拗に注意されていたからである。


 「ほう、そういうお主もまた我等が眷属なのかな?」


 アインはすばやく黒頭巾を脱ぐと、その素顔をさらした。


 「闇の眷属に連なります、アインと申します」


 「ダークエルフさんだったんだ…」


 驚いたショーコが呟く。



 「してそなたは何を望む」


 「はい、我等の神から授かった試練の完遂を」


 そういって瀕死の聖獣に目を向けた。



 「さてどうするか。眷属が正反対の願いを申し出てきている。…いや、そうでもないのか」


 「どういうことでしょうか?」


 アインは自分も眷属と認められたことに安堵しながらも、嫌な予感に囚われた。


 「森の眷属は、聖獣の回復を願っている。闇の眷属は神の試練の完遂を願っている。ならば先に聖獣を癒して、後に試練を続行すればよい」


 ショーコは何かを言いたそうにしたが、ぐっと飲み込んだ。

 まずはヌコ様の回復が最優先だ。その後で庇護が受けられなかったとしても、自分がヌコ様と共に戦えばいい。今は、この人の言うことを聞こう。


 そして、それができなかったのがツヴァイである。


 「冗談じゃねえぞ。こっちは半分やられて、神器まで使って追い込んだんだ。猫野郎に回復されたら、負け確定なんだよ」


 「よせ、ツヴァイ。ハイエルフ様に逆らうな!」


 「さっきから聞いてりゃ、こんな青瓢箪にびびりやがって。たかがエルフが1匹じゃねえか。邪魔する奴は皆殺しにしてやるよ」



 「ほう、威勢がいいな。だが、果して私に勝てるかな?」


 「勝てるか、じゃねえ。勝つんだよ!」


 「よせ、お前たちも釣られるな!」


 アインの必死の制止にも関わらず、ツヴァイとドライとゼクスは、乱入者に向って牙を向けた。

 それが相手の思惑通りであったことを知らずに。



 背中から両手剣を引き抜きつつ、必殺の斬撃を放とうとするツヴァイ。

 得意の火魔法を解き放とうとするゼクス。

 怯えながらも弓をつがえて連射するドライ。


 それは今までも数多くの強敵を葬ってきた、必殺の同時攻撃であった。


 だが、詠唱阻害の為に放ったドライの矢は、どれも敵の防御を突破できず、虚しく弾き返された。

 短縮詠唱で唱えたゼクスの『ファイアー・ボール』は、敵に着弾する前に、同時に発動された空間魔法に弾かれてしまった。


 そして火炎弾の爆風に紛れて接近戦を仕掛けるはずだったツヴァイは、4方から飛来した『ストーンバレット』に貫かれて、両膝から崩れ落ちた。


 「くそがっ、何しやがった」


 避ける間もなく打ち抜かれたツヴァイは、両足から血を噴出しながら叫ぶ。


 「何って、ただの土魔法だよ。ランク1のね」


 「ありえねえ、火や風ならまだしも、土魔法は物理防御で防げるはずだ。俺様の防御をランク1なんかで突破できるはずが、ぐあっ!」


 「現状を正しく認識したまえ。私の使い魔が放つ土魔法でさえ、ご自慢の物理防御とやらを突破しているだろ」


 「い、今のが使い魔の魔法でござるか?」


 チームの中で最高火力を誇るゼクスでさえ、ランク1の呪文ではツヴァイの防御は突破できない。

 それを使い魔が易々と越えてきた。


 このとき、ゼクスは相手の底知れぬ魔術の実力に恐怖した。


 アインにだけは、ハイエルフが何をしたかが見えていた。


 「空間魔法『マイナー・グローブ』を展開して、ゼクスの火魔法を無効化すると同時に、ツヴァイを4発の『ストーンバレット』で打ち抜いた。しかし2発は使い魔が、1発は本人が撃ったが、あと1発はどこから来た…」


 しかもその1発1発が、ランク3に匹敵するような威力である。


 「ほう、『マイナー・グローブ』を知っているとは、古代魔法もよく学んでいるようだな」


 アインの呟きを聞いたハイエルフが、余裕綽々で褒めてくる。


 「なんだ?そのマイナーグラブってのは?」


 「ふむ、気になるかね?」


 「ああ、冥土の土産に教えてくれよ」


 「よかろう、空間魔法ランク4の『マイナー・グローブ』はランク3以下の魔法を全て防ぎ、かつ物理攻撃を吸収する魔力防御壁だ。生半可な攻撃では突破は難しいと言わざるをえない」


 それを聞いて、ツヴァイはゼクスの方を向いてから、ニヤリと笑った。


 「馬鹿め、ぺらぺらネタバラシしやがって。その油断が命取りなんだよ!」


 その瞬間、渾身の力を振り絞ってツヴァイが踏み込んできた。


 それと同時にゼクスが呪文を詠唱し始める。


 「紅蓮の炎よ、槍と成りて、敵を貫け『フレイム・ラ』げはっ!」


 ランク4のフレイムランスを放とうとするゼクスを石の銃弾が貫いていた。


 ツヴァイの一撃は、ハイエルフの周りに展開された不可視の障壁に阻まれてしまった。


 「自分より高位の術者の前で、悠長に完全詠唱してどうする?封殺してくれと言っているようなものだよ。そしてこちらの情報を信じて、チームで唯一の高ランク呪文使いを暴露してしまうのも悪手だね」


 「無念」


 その一撃で、ゼクスは息絶えた。


 「おや、手加減したつもりだったが、魔術師には耐え切れなかったか。すまないね」


 最後の謝罪は、アインに向けてであった。


 アインは何も言えなかった。


 敵対したのはこちらが先だ。いくらハイエルフの申し出が受けがたい提案だったとしても、武力交渉に移る前に、まだできる事があったはずなのだ。


 今からでも、馬鹿を差し出したら停戦してもらえないだろうかと考えていたとき、ドライの精神が限界を迎えた。


 「もう嫌だ、勝てっこない。俺は降りるぜ」


 そう言って、包囲の薄い場所を駆け抜けようとした。


 「よせ、試練の放棄になるぞ!」


 アインが止めるが、ドライは聞く耳をもたない。


 「森から出て行くなら、止めないが?」


 ハイエルフの言葉にアインが首を振る。


 「いえ、これは我等と神の契約で…」


 「なるほど、自ら完遂の意思を失くすと、ああなるわけだ」


 視線の先で、ドライが蜘蛛に喰われていた。



 「ぎゃあああああ」



 ドライの背中を突き破って出現した巨大な蜘蛛が、そのまま頭から食いちぎっていく。


 あっという間に獣人一人を食い尽くした巨大蜘蛛は、次の獲物を求めて辺りをにらみつけていた。


 「醜悪だな」


 『サン・ビーム』


 ハイエルフが高位光呪文を唱えると、光の柱に貫かれた巨大蜘蛛が、悲鳴もあげられずに消し炭になった。


 「神の落とし子を一撃で…」


 「これは君の神への冒涜になるのかな?」


 「いえ、裁きは下されましたので。役目を終えた落とし子は、やがては朽ち果てると聞いております」


 「なら問題ないか」



 問題は大有りである。


 神の落とし子が出現すれば、少しは隙ができるかと期待していたのに、庭の木に害虫がついたぐらいの乗りで駆除されてしまった。


 だが、ここで敗北を認めたら、アインもまた、背中から食われることになる。


 『何か方策は無いのか…』



 アインの生存戦略が始まる。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 読み直してて気になりました。 > 「現状を正しく認識したまえ。私の使い魔が放つ土魔法でさえ、ご自慢の物理防御とやらを突破しているだろ」 ハイエルフとしての喋り方を意識してるっぽいので…
[良い点] 主人公思ってた以上に強かった
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