ボーイ(ニート) ミーツ ガール(ゆるきゃん) その3
前話は誤字脱字が多すぎました。反省しております。
そしていつもご指摘ありがとうございます。
ドライがショーコを追走し始めた頃、アインとゼクスはやっと横穴を踏破していた。
「してやられたわね」
「ですな」
逆襲を警戒しながら横穴に入っていった二人であったが、最初にあった見え見えの落とし穴を発見してから、あきらかに進行速度が鈍ってしまった。
部屋の隅に立て掛けられた弓も、なにげなく床に散らばっている松明も、疑い出せばきりがなかった。
結局、それ以降に罠は存在せず、全てブラフだったのが判明したのは、最後の縦穴に辿り着いてからであった。
「彼女は最初に床に魔法で穴を開けただけ。それ以外は適当に品物をばら撒いて逃げただけ」
「深読みして罠を警戒し過ぎた我々の負けですな」
時間稼ぎとしては上等の部類であろう。
戦闘になれば、死にかけの聖獣というお荷物がある以上、彼女に勝ち目はない。
逃げるのが正しい選択だ。
「とは言え、逃げられたらこちらが破滅なのだから、本気で追うわよ」
「御意」
アインとゼクスが追跡に加わった。
そして、じゃがいも畑である。
「ねえ、馬鹿な猪が罠にかかっているのだけれど」
「ああ、いますね、罠なんか突破すれば良いとか啖呵きっていた猪が」
結局、ツヴァイは二人が追いつくまで、自力で脱出することができなかった。
「おい、助けろ」
「この猪、立場がわかってないわね。助けてください、お願いしますでしょ?」
「なにせ猪ですから。人の言葉がわからないのかも知れません」
「くそったれが、いいからあの小娘を追うぞ」
「話にならないわね。自分の立場がまるっきり理解できていない」
「このまま放置でよろしいのでは?」
「おい、アインにゼクス。嘘だろ?置いていかないよな?」
「さあ、どうしましょうか。脳筋な猪はいなくても試練は達成できそうですし」
「ですなあ」
宙吊りになりながら、ツヴァイは焦ってさらに騒ぎ出す。
「おい、冗談はやめろ。俺だけ残されたら試練を放棄したとみなされるだろうが。俺は死にたくねえぞ」
「なら、これ以降は私の指示に従うこと。いいわね」
「くそっ、人の弱みに付け込みやがって」
「あら、こちらはどうでも良いのよ。ほっとけば神罰で後腐れなくお別れだから」
「くそっ、わかったよ。お前がリーダーだ。これでいいか?」
「この先どこまで覚えているか、わからないけど、まあ許してあげましょうか」
そういって、アインがクロスボウを放つと、ツヴァイを宙吊りにしていたロープが切れた。
かなり疲労していたのか、受身もとれずに地面に落下するツヴァイ。
「いってえなあ。あの小娘、ぜったいに楽に死なせてやらねえぞ」
恨み言を言い募るツヴァイを放っておいて、アインとゼクスはドライの残した印しを追って、森を北へと向っていく。
「おい、俺様を置いていくな」
「本調子になるまでしばらくかかるでしょ。後から追ってきなさい」
「畜生、この足さえ動けば」
ツヴァイが復活するまでは時間がかかりそうであった。
その頃、あたしはドライに追われていた。
「えい、ちょこまかとしぶとい」
「そっちこそ、しつこいわよ」
あたしが北方面に逃げたがってるのを察したドライが、先回りして弓を射掛けてくる。
仕方なく逆走したり、樹に隠れながら、なんとか撒こうとするけど、ドライの方がハンターとして上手だ。
結局、たいして距離をかせげないまま、時間だけが過ぎていく。
「このままじゃ他の3人にも追いつかれる。矢傷は覚悟して突破するしかない」
そう心に決めて、北へ直線ルートをとる。
「そうくると思ったぜ」
でもあたしの思考はドライに読まれていた。
放たれたのは鈍く光る鏃。
「まずった!」
それはあたしの足を掠めると、大地に突き刺さる。
「かはっ」
突然、傷口に激痛が走り、足が動かなくなってしまった。
「毒矢?!」
ヌコ様を背負ったまま、両膝をつくようにその場にうずくまるしかできなかった。
「足が、足が動かない」
きっと神経毒の一種なんだろう。掠っただけで、足の筋肉が痙攣して使い物にならなくなってしまった。
「悪いな嬢ちゃん、こっちも命がけなんでね」
毒を使うのを卑怯とは言えなかった。
あたしでも手負いの熊相手なら毒矢も考慮するから。
狩人にとって、獲物の力量を見誤るのは死に直結するから。
石橋を叩いて渡るぐらいが、正しい戦い方だ。
それが自分に降りかかってこなければだけど。
解毒の呪文はある。でもそれを唱える隙を与えてくれるとは思えない。
今も必殺の距離を維持しつつ、仲間が来るのを待っている。
この場にあの3人が来たら、もう逃げられない。
あたしは見逃されても、ヌコ様は連れ去られる。
もう、ダメかも…ごめんなさい…
諦めかけたその瞬間、ドライが叫び声を上げた。
「なんだ?おい!何をした?」
見ると、ドライの足元の地面から白い何かが突き出していた。
「手?」
あたしにも状況が理解できない。
もっとパニックっていたのはドライだった。
「なんだ、これスケルトンか?なんでこんな場所に埋まってやがる」
そう聞いて、はっと気が付いた。
ここはレオンさんのお墓だ。
近くにあたしの立てた十字架が見えた。
そして土から突き出た白骨の手が、ドライの足首を握り絞めていた。
『あきらめるのか?!』
レオンさんの手が、そう問いかけている気がする。
『お前はこの運命を受け入れられるのか?!』
あたしは首を振った。
『なら抗え!!』
素直に頷く。
「キュア・ポイゾン!」
「畜生、離れねえ、なんだこの馬鹿力」
「ヒールは後回し、行きます!」
あたしは再び立ち上がった。
レオンさんのくれた、この一瞬を生かす為に。
理不尽な運命を変えてみせる。




