ボーイ(ニート) ミーツ ガール(ゆるきゃん)
いつも誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
しなりと、粘りのある竹竿に、目立たない絹の釣り糸、そして匠が手がけた本物に激似の疑似餌。
これらが揃って、釣れないわけがないのである。
ここにスレてない川魚と、あたしの釣りスキルが足されれば、結果は爆釣。
短時間で10匹のニジマスを釣り上げることに成功しました。
「ふう、ここら辺にしておいてあげる」
強者の風格を醸し出そうとしたけど、実際は、釣りにかまけてないで、早く魚を焼けというヌコ様の圧に負けただけでした。
「もっと釣っていたかった」
「がう」
手早く釣り道具を仕舞うと、焚き火の準備です。
あたしは手近の石を集めて竈をつくります。
薪は勝手に横に積み上がっていきます。
ヌコ様は柴刈りもお上手なようで。
「がうがう」
「いいから、焼けと。了解であります」
包丁で腹を割いて、魚の内臓をとっていて気がつきました。
「あれ、ヌコ様、ハラワタそのままいけるのでは?」
「がうがう」
「あ、苦いから取れと」
えらくグルメなヌコ様ですね。
塩を振って串に刺して、遠火で焼きます。
「がう」
「あ、わかります?塩と一緒に香草をまぶしてあるんですよ」
村で香辛料と一緒に買い込んできたものです。肉や魚の臭み消しに使えるやつです。
たしたし
「まだです、もう少し待ってください」
「がう」
やがてあたしの料理スキルが、今だと知らせてきました。
「はい、ここです。こんがり焼きあがりました」
「がう」
「熱いですから、気をつけて食べてくださいね」
がふがふがふ
ううむ、猫科なのに熱いのも平気そうです。それとも火耐性でも上昇したのでしょうか。
さすがヌコ様です。
あたしも自分の分にかぶりつきます。
「うまーー」
やや大きめのニジマスは、身に脂が乗っていて、しかもしつこくないんです。
あっさりとしていて、そして絶妙な塩味が、旨さを引き立てます。
香草もいい仕事をしていて、以前に食べた塩焼きより、一段上の味わいになってます。
「がうがう」
「はい、おかわりですね」
ヌコ様もお気に召したようで、焼き上がるのを待って、次々と平らげていきます。
「はふはふ」
「がふがふ」
あたしが3匹、ヌコ様が7匹を完食です。
「ご馳走様でした」
「がう」
口の周りについた脂を、舐めましているヌコ様に、お水をさしあげます。
ごきゅごきゅ
豪快に飲み干すヌコ様。
やがて焚き火の側で丸くなってしまいました。
あたしはその横で、後片付けをしながら、村での出来事を語りかけます。
「それで、あそこで骨になっていた冒険者さんですが…」
すうすう
「ヌコ様、聞いてます?」
けふっ
「ならいいんですけど、それで鍛冶屋さんの…」
天幕まで張り終える頃には、月が高く昇っていました。
ヌコ様の気配があるので、崖の下でも獣は寄ってきません。
渓流に近い場所に、簡易テントを設営します。
「ヌコ様、今日は泊まっていかれますか?」
焚き火の前から動かなかったところをみると、ヌコ様も寒風の中はお嫌いのご様子です。
雪豹だから寒さに強そうなもんですが、それとこれとは別なのかも知れません。
あたしも天然カイロがあると助かりますし。
「ヌコ様?」
いつの間にか、立ち上がって南の方角をにらみつけていました。
風がそちら側から強く吹いています。
「何か異変が?」
ヌコ様の答えがありません。
すんすん
南天に向って、臭いをかいでいる様子です。
「南の空になにが?」
あたしには、夜空に浮かぶ紫色の月しか見えません。
ふと視線を戻すと、すでにヌコ様の姿は消えていました。
「ヌコ様…」
急に冷え込んできた夜風に身体を震わせると、天幕へと潜り込みます。
目が冴えて眠れません。
焚き火の番をしながら、ヌコ様の帰りを待ちます。
でも、夜が明けても、ヌコ様は戻ってきませんでした。
「大丈夫だよね…」
不安を抱えたまま、天幕を撤収します。
「ここで待っていても仕方ないし、ヌコ様ならどこからでも見つけてくれるだろうし」
なので、秘密基地まで一気に戻ります。
ヌコ様の匂いが消えて、他の獣達が戻ってくる前に、森を走破しないと。
全速です。
不吉な想像を振り払うように、ひたすら走ります。
もしヌコ様が警戒するほどの脅威が迫っているとするなら、せめてホームグラウンドで迎え撃たないと。
無我夢中で走り続け、夕方には滝の秘密基地まで戻ってこれました。
「はあっ、はあっ、はあっ」
滝の周辺は特に変化はなさそうです。
周囲を警戒してから、横穴へと潜り込みます。
「ただいまー」
誰もいないけれど、思わずそう口にしてました。
それだけ、ここに戻れて安堵しているあたしがいます。
少し休んでから、荷物の整理です。
予備の服や矢筒、ロープは棚に並べて、武装の再確認をします。
「弓と矢筒、短槍と鉈、解体ナイフ」
さらに松明に火打石、松脂も準備しておきます。
「ロープは20mあればいいか」
思ったよりも嵩張るので、手頃な長さに切っておきます。
「天幕や食器は持ち運ぶ必要はないから…」
しばらくは遠出をせずに、拠点の周辺だけを警備します。
「ヌコ様が戻ってくるまでは無理せずにいよう」
案外、ふらっと戻ってくるかもしれないし。
でも、その晩、幾ら魚を焼いてもヌコ様は姿をみせてくれませんでした…




