村に買出しにその10
今晩の献立は、狼肉の香草焼きと、カブのスープです。
大食堂は、相変わらずの混雑なので、部屋で食べます。
狼肉は食べ易いように、薄く切ってあり、香草で臭みを消しながら、岩塩で味付けがされています。
カブは半分に切ったものが、お椀の大半を占めていて、スープと言うよりポトフみたいな感じです。
「あつあつ、ふはふは」
このカブのスープ、深い味わいで、カブに味が染みててとっても美味しいのです。
「ううむ、ここの料理人さんは、かなりの凄腕なのでは?」
出てくるのは家庭料理ばかりですが、ありふれた材料を使いつつも、レストランのシェフ並の味に仕上げています。
都で店を開いたら繁盛しそうなんですが、こっちの料理人さんは皆さん揃って凄腕なんでしょうか?
料理スキルが存在するからかも知れませんね。
あたしも調理している時に、火加減や塩加減に迷いが無くなりました。
適当に摘まんで振りかけても、ぴたっと味が調うという感じです。
「そっか、あたしも料理スキルが上がれば、もっと美味しく食べられるってわけだ」
夢が広がります。
ソロキャンプだと、どうしても食材は限られてしまいます。
そこを工夫するのが楽しいわけですが、同じ材料と調味料で、より美味しい食事が作れるなら、それに越したことはありません。
「よし、頑張るぞ」
日々の料理もお座なりにせずに、鍛錬だと思って作りましょう。それがきっと成長に繋がると信じて。
本当は料理人さんに弟子入りすると良いんだろうけど、それだと調理師への道になりそうだし。
あたしの料理はあくまでキャンプ飯が前提だから。
「ごちそうさまでした」
明日、村を出立する予定です。
翌朝、アズサさんに今日、旅立つことを伝えます。
「おや、そうかい。もうしばらく居るもんだと思ってたけど、残念だね」
「この村には補給に来たようなものですので、また、冬頃に伺います」
「そうかい、気をつけるんだよ。エルフなら森の中でも平気なんだろうけど、あんたは一人だから心配だよ」
「はい、そこは十分気をつけます。それではお世話になりました」
「ショーコお姉さん、バイバイです」
マーヤちゃんにも見送られて、宿を立ちます。
途中で鍛冶屋のモルガンさんの仕事場に寄って、修理の済んだ槍と鉈を引き取ります。
「ほい、出来とるぞ。お前さんが使うんだから、槍は短槍にしておいた。投げても使えるバランスになっておる」
「ああ、これは良いですね。取り回し易いです」
「鉈は若干、持ち手を長くしてある。軽い力で振り切れるはずだ」
「立派な鞘まですいません」
槍を背中に留める革のストラップと、鉈を腰に着けるベルト付き鞘までつけてくれていた。
「なに、レオンの奴が世話になった礼だ」
そう言って、モルガンさんは見送ってくれました。
門番さんは、来たときとは違う人だったけれど、快く通してくれた。
「ショーコさんなら、もう次は入村税はいらないですからね」
「え、そうなんですか?」
「ええ、村の皆が知ってますし、エルフの狩人で間違える事もないですしね」
「ああ、なるほど。ではまた来たときはよろしくお願いします」
「はい、歓迎しますよ」
そんな感じで開拓村を後にした。
初めてのおつかい終了。
「って、岩塩売るの忘れてた!」
でもまあ、マッコイ爺さんに買い叩かれるのがオチだから、自分で使うことにしよっと。
帰りはかなり荷物が増えたけれど、嵩張る物が多いだけで、重量的にはそうでもない。
メインは衣服で、さらに釣り道具と槍の柄、あとロープが増えているかんじ。
しばらく重量バランスをとってから、全速力で森を走る。
渓流は遡る事になるので、『ウォーターウォーク』は使わずに、川沿いを走っていく。
足音は消して、気配もできるだけ消して。
体重移動を滑らかに、速度を一定にして、ルートを先読みしながら。
「はっ、はっ、はっ、これも、訓練だから、はっ」
今日からまた、危険と隣り合わせの暮らしが始まる。
あのまま開拓村を拠点にして、狩人として生計を立てていくこともできたと思う。
でもまだ、こっちの世界を堪能してない。
自然の中で、生き抜いていない。
「せっかくウッドエルフに転生したんだから、ゆるきゃん、楽しまないとね」
ちょっとハードモードではあるんだけどさ。
だって、もう狼に追われているから…
「この森って、殺意高すぎない?!」
「「「 ガウガウガウ 」」」
開拓村の警戒範囲を超えたと思ったら、すぐに狼の群れに襲われた件。
しかもグレイウルフである。
グレイウルフは、その名の通り、灰色の体毛をしていて、フォレストウルフよりも北方に生息する狼です。
強さ的にはそうかわらないはずですが、諦めが悪いので、より面倒な相手になります。
つまり獲物が自分より強そうでも、執拗に襲ってくるわけで、
「しつこい!」
風魔法で追い払おうとしても、包囲を解こうとしないのです。
かなりダメージを与えたはずですが、群れの戦意が衰えません。
「地味に優秀なリーダーがいる?」
群れのボスらしき個体が見当たらないのですが、統率はとれてます。
ボスが若いのか、隠れるのが上手いのか、首狩り戦法が使えません。
狼はどうせ人を襲うので、手負いにしても問題ないわけですが、どこまでが自衛の範疇なのかが戸惑います。
追われるたびに全滅させていると、森の生態系が崩れそうですし、必要なだけしか狩らないという掟にも違反しそうです。
正当防衛だと主張するにしては、彼らの縄張りを強行突破しているあたしの方が悪いともとれます。
「これが冒険者なら、ラッキーとか言って無双するんだろうけど」
倒した狼の毛皮も肉も、重いから捨ててくとか、貧乏性のあたしにはとても出来ない相談です。
「どうしよう、このままだと野営もできないし」
狼の群れを壊滅するか、包囲をあきらめて引き返すまで走り続けるか、迷います。
そろそろ体力的にしんどいなと感じ始めた頃、突然、グレイウルフ達が遠吠えを始めました。
そして、潮が引くように引き返していきます。
「おや、急にどうして?」
考えられるのは、別な強者のテリトリーに入った可能性です。
「え、次は熊さんとか?」
来るときにからまれた熊さんの縄張りからは、まだ相当離れているはずです。
「だとすると、何が」
警戒スキルを最大限に発揮すると、遠くに反応がありました。
「これ、まさか」
そう思ったときには、目の前に本人がいました。
「ヌコ様!」
「がう」
どうやら帰りの遅いあたしを心配して、迎えに来てくださったようです。
たしたし
「あ、お魚ですね、今、ご用意します」
前言撤回です。
お魚が待ち切れなかったそうです。
その日は、ヌコ様に見守られながら、新品の釣竿の初披露とあいなりました。
結果は爆釣で、ヌコ様にも喜んでいただけました。
「がうがう」




