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村に買出しにその8

前話は誤字脱字が多くて、ご迷惑をおかけしました。

またご指摘ありがとうございました。

 翌朝は、マーヤちゃんが起しに来てくれるまで、ぐっすりでした。


 「思ったより疲労が溜まってたね」


 やはりソロキャンプは、想像以上に気疲れするみたいです。

 命かかってるしね。


 もう働き手の皆さんは、食事を済ませて仕事に出かけてしまっているので、食堂は空いているそうなので、朝は1階で食べます。


 「野菜と豆のスープとライ麦パンです」


 マーヤちゃんが、朝食を並べてくれました。


 「はい、ありがとうね。いただきます」


 味付けはシンプルな塩味だけど、野菜の甘味が溶け込んでいて美味しいです。

 豆はヒヨコ豆みたいなのが、具として入っています。


 ライ麦パンは昨晩の残りでしょう。少し焼き直したのか焦げ目がついてます。


 牛乳が欲しくなったけど、今は飲料用のは無いそうです。

 すべてチーズなどの加工食品に回してしまうのだとか。


 春なら乳を出す牛が増えるので、あまった牛乳が飲めるそうです。


 「ごちそうさまでした」


 食事を終えて、アズサさんに宿泊延長を願い出ます。


 「もう一泊良いですかね?」


 「あいよ、部屋は空いてるから好きなだけ泊まってきな。ただし2週間後から常連さんの予約が入っているから、そこから先は要相談だけどね」


 「はい、了解しました。あと、鍛冶屋さんか鋳物屋さんってありますか?」


 「ないことは無いけど、どんな用事だい?品物買うだけならマッコイの爺さんを通さないと煩いんだよ。修理や新品の特注なら良いんだけどね」


 「ああ、なるほど。なら槍の修理とかですかね」


 「だったら、鍛冶屋のモルガンのとこだけど、お前さん、ドワーフは大丈夫かい?」


 「大丈夫かと言うと?」


 「いや、種族的に仲が悪いとか、以前に嫌な目にあったとか」


 「えっと、特にないですね。エルフとドワーフって仲悪いんですか?」


 「いや、人族のアタシに聞かれてもねえ」


 「そうですよね、すいません。あたしもウッドエルフの中だと変わり者って言われてたので」


 「あはは、なんか判るよ。ショーコちゃんはエルフっていうより人族みたいだもの」


 『ぎくっ』


 「ははは、里でも浮いてましたね、はは」



 適当に話を切り上げて、そそくさと鍛冶屋へ向います。


 鍛冶屋は村の外れ、外壁にくっ付く様にして建っていました。

 今は鍛冶の音はしないので、休憩中なのかな?


 「すいません、修理をお願いしたいんですけど…」


 すると仕事場の方から、ずんぐりした髭もじゃの男性が出てきました。


 「なんじゃ、お前さんは。余所者じゃな」


 「あ、はい、昨日村に来た狩人のショーコです。今日は槍と鉈の修理をお願いできないかと」


 「ふん、修理ぐらい自前で出来ないようじゃ、ひよっこじゃな」


 「はい、まだ駆け出しでして」


 「おい、そこは怒らなくてどうする」


 「え、怒る要素がありましたか?」


 煽ったはずなのに、素直に返事して、さらに不思議そうな顔をするエルフに呆れるドワーフの鍛冶師であった。



 「まあいい、それで物は?」


 「あ、これです」


 「おい、穂先と刃だけじゃねえか」


 「なので槍の柄と、鉈の持ち手をつけて欲しいんです」


 「…盗品じゃねえだろうな」


 出所を隠すために、柄や持ち手を換える盗賊もいるそうです。


 「盗品ではないですが、遺品ですかね」


 「ああ、スライムかなんかにやられたのか」


 「だと思います。革も布もきれいさっぱり残ってませんでしたから」


 「じゃあしょうがねえな。お前さんが使ってやるのが縁ってもんだろう」


 「そう思ってます」


 「しかし、この槍の穂先…」


 「何か判りますか?」


 鍛冶屋に持ち込んだのは、先住民さんの身元調査も兼ねてです。


 「俺が鍛えたものだな」


 「やはり」



 この村出身であれば、装備もここで誂えた可能性が高いとおもっていましたが、当たりみたいです。


 「持ち主の死体は?」


 「居住していたと思われる横穴に白骨死体が一つ…」


 「そうか、レオンの奴、やっぱり死んでおったか」


 先住民さんの名前が判明しました。レオンさんというそうです。


 「だとしたら、この指輪に見覚えも?」


 ベルトポーチに大事にしまっていた白銀の指輪を取り出して見せてみました。


 それを一目見ると、深い溜め息をつき、モルガンさんはこう言いました。


 「長い話になる。まあ茶ぐらいだそう」


 そう言って、家の奥に案内してくれました。



 そこは顧客と打ち合わせをする部屋なのでしょう、立派なテーブルと椅子が三脚置いてありました。


 腰掛けると、お弟子さんらしき人がお茶を用意してくれています。

 モルガンさんは酒です。


 「これが飲まずにいられるか」


 こちらに構わずグイグイ飲んでます。

 まあ、あたしとしてはドワーフってこうじゃないとねって感じなので、全然問題ありません。


 かけつけ3杯飲んだところで、モルガンさんが語り始めました。


 「あの槍の持ち主の名はレオン、この村で生まれた悪ガキだ」


 先住民さんもドワーフのモルガンさんから見れば、ただの悪ガキだそうです。


 「レオンにはエルザという幼馴染がいたが、こっちは気立てのいいお嬢さんだったな」


 レオンさんの評価が低すぎな様な気もしますが、それよりもエルザさんの評価も過去形なのが気になります。


 「レオンは母親しかいなくて、甘やかされて育てられたから、ああなったんだと思う。まあ悪さはするが、根っこは真っ直ぐだったから周囲も苦笑いですませてた」


 「エルザは逆に早くに母親を亡くして、駄目な父親を一人で支えてきた、できた娘でな」


 ああ、親を反面教師としてしっかりした子が育つパターンですね。


 「このエルザの父親が、どうしようもないクズで…」


 あ、なんとなく先が読めたような。


 「領都の賭場に入り浸って、借金こさえて、喧嘩に巻き込まれて野垂れ死にしやがった」


 「うわ、最悪」


 「だろ、しかも借金の形に娘を売り払っていやがった…」



 「それって人身売買にあたるのでは?」


 「書類上は住み込みメイドの雇用契約書だ。無給で20年働くのが条件になってた。だが、そんなもの雇用者の匙加減でどうとでもできる。ましてや、エルザは別嬪だったからな」


 「それで、どうなったんです?」


 「どうもできねえ。村の有志が金を集めても借金には到底届かねえ。しかもそうやって身売りする娘はエルザだけだったわけでもねえ。領都から借金取りが来て、エルザは連れられて行った…」


 「…それでレオンさんは」


 「しばらく荒れてたが、母親が流行り病にかかってな。看病してる間は大人しくしてた。だがレオンの母親もエルザを自分の娘のように可愛がっていたから、気落ちもあったんだろう。すぐに亡くなった」


 「そんな…」


 「また荒れだすかと思われたレオンだったが、不気味なほど静かでな。淡々と母親の葬儀を済ませると、家財道具を全部売り払って村を出て行った」


 「その足で大森林へ…」


 「その指輪は、もともとレオンの母親のもんだ。エルザにもらってもらいたいと、常日頃から話をしていた。まあ先に渡したらぜったいクソ親父が奪っていくだろうから、ギリギリまでお預けねって笑っていたんだがなあ…」



 長い長い話が終わった頃、モルガンさんの前の酒瓶は3本空いていて、あたしの前のお茶は冷め切っていた。


 「この指輪、レオンさんのお墓に埋めた方が良いですかね?」


 渡す相手がいない事がわかった以上、本人に戻すしかないような。


 「いや、お前さんが好きにすればよかろう。冒険者の遺品は、拾った者の所有物と相場がきまっとる。鋳潰せばそれなりになるぞ」


 「こんな曰くある物、いやですよ」


 「それもそうか…なら母親の墓に…いや違うな。あいつの望みもエルザに貰って欲しかったわけだから、エルザに届けるか」


 「それ、エルザさんが辛すぎませんか?」


 今の境遇がわからないから、なんとも言えないけど、最悪の場合、自殺を後押ししちゃいそうで。


 「そうだな、エルザに受け入れるだけの余裕があるか調べてから送るとするか」


 もしかしたら豪商の後妻あたりに納まっているかも知れないし、そのときは昔の思い出として引き受けてくれそうである。


 「じゃあ、お預けしときますね」


 「うむ、承った」


 これで一つ、解決したよ。



 「槍と鉈は明日にはできとる。修理費はこの指輪の運び賃でチャラにしといてやる」


 「ええ?、悪いですよ。料金はちゃんと払います」


 「かまわん。指輪を売れば丸儲けなとこを、律儀に村まで運んでもらったんじゃ。それぐらいはさせてもらおう」


 「あー、ではお言葉に甘えます」


 「うむ、お前さんも妙に腰の低いエルフじゃのう」


 「ははは、良く言われます」


 「じゃろうなあ」



 そうして鍛冶屋さんをあとにした。





 「あーー、矢を買うの忘れてた」


 慌てて駆け出すエルフであった。


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