村に買出しにその7
いつも誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
「そうだ、マッコイ爺さん。衣服が欲しいんだけど、ここで売ってる?」
替えの下着と普段着がもう1着必要なんです。
「ああ、古着でよけりゃ奥にあるぞ。おーい、プーキー、古着のご要望だ」
「ええ?まだこっちの棚卸しが済んでませんよ。店長が受けてくださいよ」
店の奥から若い男性の、困ったような声がきこえてきた。
「ワシはこれから革なめし屋と商談じゃ。お前がやっとけ、いいな」
そう言い残して、毛皮をどこかへ運び出していく。
やや待たされたあとに、苦労性の顔つきをした男性が姿を現した。
「へい、お待たせしました。古着がご所望で?」
「ええ、女性用の下着と普段着があったら見たいんですが…」
「ああ、エルフさんですか。民族衣装は無いですが、人族のでよければ種類はありますよ。そのかわり同じのもう1枚がききませんけどね」
どうやらあちこちから集めた古着を手直しして売っているらしい。仕入先がバラバラなので、形もサイズも全部が一点ものである。
「あ、じゃあちょっと失礼して」
店の奥に通されると、そこはさながらドンキの売り場だった。
天井まで届く商品棚に、所狭しと商品が並べられている。というか積んである。
なんとなく横向きになってカニ歩きをしながら、衣類のコーナーへと誘導された。
「この先の右が男物、左が女物です。まあ兼用のもありますのでそこらはお気にせずに」
「あ、はい、了解です」
「じゃあ私はこの裏で商品の入れ替えをしてますので、何かあれば声かけてください」
「はーい」
あっちのようにハンガーにはかかっておらず、簡単に畳んだままで何百と言う服が積んであった。
「まずは奥の下着売り場からかな」
下着の材質は、麻、綿、絹、の順で高級になっていき、値段も麻が3銅貨なのに、絹は1金貨もする。
「古着の下着に金貨1枚はだせないよね」
でもきっと肌触りが違うんだろうなぁ。
形状は、基本のかぼちゃパンツから刺繍の入った高級ランジェリーまで色々で、サイズはフリーが多いかんじ。
ブラは、さらしから始まって、なんかの皮のチューブトップとか、ホルターネックのひも縛りみたいなのは在る。
「さすがにワイヤーが入って、ホックで留めるようなのは無いね」
立体裁断が難しいからだろう。
最初は遠慮していたけれど、あまりにも量が多いので、後半はバーゲンのワゴンセール状態である。
とにかく引っ張り出して、気に入らなければその場にぽいである。
これ、後はプーキーさんが片付けるんだろうなぁ。
少し、いやかなり気が引けつつ、あたしの体格に合う下着を探し出していく。
「うん、これぐらいでいいか」
手にしたのは、木綿のショーツが3枚とタンクトップ風のシャツ2枚。
一応女性用らしく、胸に当て布がしてある。
でも支える機能はない。
「いいの、エルフはスレンダーって相場が決まってるの」
(そうとも言えない)
「さて次は服かな」
これはもう機能一点張りでよい。
森の中を走るのに邪魔でなく、それなりの耐久性を持っていればいいから。
いままで着ていたのと、ほぼ同じ作りの物が何種類もあったので、その中から良さげなのを選んだ。
「防御力はあてにできないけど、その場合は皮鎧を買うべきだしね」
あとで資金に余裕があったら防具も見て見よう。
「あっと、お会計お願いします」
「はいはい、ちょっとお待ちを」
しばらくしてプーキーさんが姿を現した。
「すいません、これで幾らになりますか?」
「下着5点と服が4点ですね……合計で金貨2枚と銀貨9枚です」
「えっと、値引き交渉ってできますか?」
「ああ、ごめんね。古着は値札より下げられないんだ。なにせ村の女性陣が1枚1枚持ってきては交渉していくから、店長がぶちぎれてね。ビタ1文負けてやらんって」
「ああ、なるほど、目に浮かぶようです」
「それからはウチも古着だけは儲けギリギリで値札をだすようになったから、お安いと思いますよ」
「はい、じゃあ一揃いください」
「まいど!」
それでも纏め買いしたからか、麻の大きな袋にまとめてくれた。
「これはオマケ。村で洗濯屋が回収に使ってる洗濯物入れ。一袋分、銀貨1枚で洗ってくれる。冒険者には好評だよ」
「あ、ありがとうございます」
「それじゃあ、まいどあり」
ほくほく顔で宿に一度戻る。
洗濯は自分ですると思うけど、衣類袋は欲しかったんだ。
「そういえば、プーキーさんに言いたいことがあったような…」
首をひねっていると、マッコイ商店の奥から、あたしの聞き耳にだけ届く小さな悲鳴が。
「なんじゃこりゃーー」
あ、服の山を崩したままなの、謝ってこなかった。
てへっ。
あたしは一目散に翡翠亭へと走りこんだのであった。
部屋に荷物を置き、盥の水で身体を拭いたあと、新品の古着に着替えて階下に声をかけた。
「アズサさん、晩御飯お願いします」
「あいよ、一度声掛けたけど、いなかったから後に回しといたんだ。今、もっていかせるよ」
「はーい」
1階の大食堂は、仕事上がりの兵士さんや、職人さんでごった返していて、まさに戦場のようだった。
あたしの声に気が付いて、振り向いた人も何人かいた。
「おい、見ない顔が泊まってるな。誰だあれ?」
「あ、確か流れのエルフって話だぞ。門番のジャックが言ってた」
「えらいべっぴんさんだが、男かな女かな」
「そんなの見りゃわかる…んじゃないかな、きっと」
やはり辺境の村だから、あっという間にあたしの個人情報が拡散してるね。
まあ、あえて黙っていてとはお願いしてないから、こんなものかな。
あと、こっち見て性別当てしてる奴ら、なんで女の方が倍率高いんだよ。ど本命で女でしょうが。
とにかく酔っ払いに絡まれる前に、部屋へと戻る。
床板は分厚いのか、階下の騒ぎはほとんど響かない。
まあ、エルフイヤーを発動すれば、大声の会話ぐらいは聞き取れてしまうんだけどね。
すぐに階段を登る音がして、扉がノックされた。
「はい、どうぞ」
「失礼しまーす」
そういって入ってきたのは12・3歳ぐらいの女の子だった。
かわいい。
そしてケモ耳と尻尾がある♪
「晩御飯をお届けです」
そういいながら慎重にテーブルに料理をならべていく。
「ふうっ、成功なのです」
どうやらトレーから料理を移すのに緊張していたらしい。
「あたしはウッドエルフのハンターで、ショーコ。あなたは?」
「はい、この翡翠亭のメイド見習いのマーヤです。よろしくです」
まだ少し敬語の使い方が怪しいのは勉強中なのだろう。
オレンジ色の髪と体毛は猫科獣人もしくは狐系獣人を連想させるけど、どうなんだろうか。
こちらは種族名を名乗ったけれど、答えてはくれなかった。
「今晩の献立は、ウサギのシチューとライ麦パンです。果実水はサービスですが、お酒は別料金になりますです」
「はい、あたしは果実水で大丈夫」
「あと、おかみさんが、お肉平気かって聞いて来いって。ダメなら豆に変えるからって」
とさも不思議なことを言いつけられたように首をかしげながら話すマーヤたん。
獣人にとって肉から豆なんて罰ゲームに等しい愚行だろうからね。
「ああ、エルフは肉嫌いな人も多いからね。あたしは大好きだから」
「ですよね?よかった」
異種族間で好き嫌い戦争が勃発しなくて良かった。
なお、ウサギのシチューもライ麦パンも大変美味しゅうございました。




