村へ買出しにその2
畑から収穫時期を逃しそうな株を選んで、ジャガイモを掘り出しました。
「これと、これ、これもかな」
植物知識3のおかげで、葉っぱを見ただけで、生育状況がわかります。
「ふへへ、豊作、豊作♪」
両手にいっぱいの男爵様を抱えて、秘密基地に戻ります。
ざっと水洗いしてから、包丁でささっと皮を剥き、芽をえぐっていきます。
「これぐらいは、目を瞑っていてもできるんだよね」
とうもろこしのヒゲ取りと、ジャガイモの皮むきは、魂に刷り込まれているレベルなのです。
準備ができたら調理開始なのですが、どうやって食べるか迷います。
「油が無いから、揚げるのは無理だし…」
フライドポテトも恋しいけれど、それは良い油が大量に手に入った時のお楽しみです。
バターも無いから、じゃがバターもお預けですね。
「だったら粉吹芋にしよう!」
献立が決まれば、あとは流れ作業になります。
用意するのは鍋と大ぶりの硬い葉数枚、それに太目の枝が3本ぐらい。
鍋の底に枝を三角形に並べて、それが浸るぐらいの水を入れます。
その上に、解体ナイフで穴を何箇所も開けた葉っぱを敷き詰めて、蒸し台の代わりに。
剥いたじゃがいもをそっと葉っぱの上に並べて、さらに鍋に穴の開いていない葉っぱで蓋をします。
暖炉に鍋をかけて、後は待つだけ。
お湯が沸騰して、蒸気が出てきたら、本番です。
「これ蒸し台が金属じゃないから、水が無くなったらすぐ焦げるのが弱点だよね」
まあ、じゃがいも小振りだし、水を足さなくてもなんとか蒸しあがるはず。
ちなみに暖炉には半円を描く溝が3段に掘られていて、最初は何かわからなかったです。
疑問が解決したのは、日用品棚の下段に、半円形の素焼きの板が何枚か入っていたのを発見したとき。
「ああ、これが五徳の代わりなんだ。すごいね、先住民さん!」
て、感動しちゃった。
冷蔵庫の区切り棚の様に、スライドさせつつ差し込むと、中央に開いた穴がコンロになるってわけ。
しかも高さ調節付き。
凄くない?
他にもバームクーヘンの欠片みたいな円弧型していて、表面に穴がいっぱい開いてる板とかあったけど、使い道がわからなかった。
がさごそ家捜ししてる間に、蒸しあがったようで、ほとんど蒸気が出なくなってる。
「あつっ、あつっ」
鍋つかみとかないから、水で手を冷やしつつ、蓋と蒸し台の葉っぱを取り出し、枝も抜いておく。
ちょっと枝の先でつつくと、いいかんじに蒸されて柔らかくなってるのがわかります。
このおじゃがさんを、鍋に入れたまま揺するのだ。
「ほっ、ほっ、ほっ」
鍋の壁面やじゃがいも同士でぶつかって、外側が柔らかくなってくる。
そこに岩塩をパラパラパラ。
さらに揺する、揺する、揺する。
「網目のボウルが2枚あると楽なんだけどね」
二つ重ねて球形にして、中で揺するとすごく細かい粉が吹くんですよ。
「あ、一つ、逃亡したっ!」
揺すりすぎて、おじゃがが鍋から飛び出しちゃった。
「させるか!」
片手を離して、空中で素早くキャッチ!
「どうよ、敏捷力18のキャッチング…って、あっつーー」
慌てて逃亡者を鍋に放り込んで、水で手のひらを冷やしました。
今日の教訓
『蒸し上がってすぐのジャガイモは素手で掴んではいけません』
「良い子はマネしたらダメだよ」
さて実食のお時間です。
「久々の炭水化物だ~~」
前に山栗は食べたけど、あれは肉のつけ合わせ感が大きかったから。
がっつり食べるのは久々なのです。
「あつっ、うまっ、あつっ、うまっ」
ほろほろに崩れた外側と、ほっこりした内側のハーモニーが、やばい。
蒸して、塩で味付けしただけなのに、なぜこんなに美味しいのか。
「マヨネーズがあればなぁ」
ちょっとだけでいいの。
それで世界が変わるんだから。
もちろんバターも有り。
これもちょっぴりでいいんだよ。
がっつり行くならじゃがバターの出番だからね。
粉吹芋の主役はあくまで、おじゃがと塩。
マヨやバターは風味をそっと添えるだけ。
「ああ、脳内でマヨとバターの香りと味が甦る。今ならドンブリ何杯でもおじゃががいけそう」
すると肩を叩かれた。
「ごめん、今、食事中だから、もぐもぐ」
ぽんぽん
「だから食事だって、……うひゃっ」
振り向いたら、ヌコ様がいた。
めちゃびっくりした。
口から心臓が飛び出すかと思った。
だけど鍋はしっかり放さなかった。
「ガウ(見事)」
「い、いつの間に、いらしてたんですか?」
「ガウ」
「ああ、鍋を振り回してるときですか…結構前からですね」
「ガウガウ」
「はい、警戒を疎かにしてました、申し訳ありません」
「ガウ?」
「あ、これはじゃがいもを蒸したものでして、ヌコ様のお口に合うとは思えませんけど」
「ガウガウ」
「ああ、食べてみないと判らない…そうですよね…」
「ガウ」
「いい感じに冷めてきた?まさかそのタイミングで?」
ヌコ様に、おじゃがを半分食べられました…
明日の朝食にとっておこうと思ったのに。
「ガウ」
「思ったよりイケる?それはよろしかったです、はい」
「ガウ?」
「いえいえ、がっかりなどしてませんです。元はと言えば岩塩もじゃが畑も、ヌコ様に教えていただいたものですし」
そうなのだ。良く考えたら半分ぐらいはヌコ様のものと言えるのである。
あたしは収穫して、下拵えして、料理しただけ…ヌコ様、半分は食い過ぎなのでは?
「ガウ?」
「いえいえ、何も考えておりません。そう、明日から村に買出しに行こうかなーって」
「ガウガウ?」
「あ、戻ってきますよ。往復で1週間、はかからないかな。でもそれ以内で戻ってきます」
「ガウ」
「はい、それまでここの留守番お願いします」
村に出かける前に、ヌコ様には不在のお知らせをしておきたかったから、丁度よかった。
さすがに置手紙しても読めないだろうし…
「って、読めないですよね?」
「ガウ?」
ヌコ様だと文字も読めそうで怖いんですけど…
満腹になると、ヌコ様は森へ帰っていった。
「まだ、お泊りするほどは、気を許してないってことかな」
まあ、そばに大型肉食獣がいて、あたしが寝れるのかって話なんだけど。
「寝れそうなんだよね」
なんだかんだで、ヌコ様と仲良くなった晩餐でした。




