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村へ買出しに

誤字脱字のご報告ありがとうございます。

 滝の裏に先住者さんの秘密基地を見つけたあたしは、そこを新しい拠点にすることにした。


 「決め手は豊富な水だよね」


 洞窟の入り口を隠すカーテンの役割をしている滝だけど、そのままシャワーとして使えるのが嬉しい。

 岩壁の丁度良い位置に、足場が切り出してあるから、先住者さんも使ってたんだと思う。


 「気持ちいい~」


 頭からじゃぶじゃぶ水を被りながら、汚れや汗を洗い落としていく。

 

 「外から見えないのもいいよね」


 滝は激しく降り注いでいるので、裏側に誰か立っているぐらいしかわからない。

 風紀違反に問われることはないので安心である。


 「問題は、今はいいけど冬は厳しそうってことだよね」


 初秋なので、水温も低すぎず、水浴びができるが、それもここ数週間だけだと思う。

 真冬は滝ごと氷結する可能性もあった。


 「ま、そうなったらそれまでだけど」


 今は、何日ぶりかのシャワーを堪能するあたしであった。



 「あ、着替えが無い。どうしよう…」


 勢いで、一張羅である冒険者の服も洗ってしまった。

 焚き火の側で乾かすにしても、それなりに時間はかかるよね。


 「まいったなぁ。この拠点にあったはずの布類は、全部スライムに消化されたみたいだし」


 洞窟の中には衣類は一切残っていなかった。


 「ぐぬ、おのれスライム、乙女の天敵め~」


 自分の迂闊さを棚に上げて、スライムに責任転嫁する乙女(自称)であった。



 仕方なく荷物から天幕を引っ張り出して、それに包まる。


 「なんちゃってクレオパトラだね」


 

 秘密基地の奥の暖炉に薪をくべて火をつけた。

 煙がちゃんと煙突を通じて外に流れているのを確認する。


 「これ、良く出来てるなぁ」


 洞窟の奥に作られた暖炉は、土を掘り抜いた簡易的なものだけど、ちゃんと煙は煙突を通って屋外に出て行くし、その途中で壁も温めていく様にできてる。

 暖炉の炎の熱の他にも、土壁暖房が完備されているのだ。


 「これなら冬でも過ごせそう」


 薪さえ切らさなければ、真冬でも凍えることはないと思う。

 まあ、食料が尽きなければだけど。


 「水は、滝が凍っても魔法で出せるからね」


 問題は秋の間にどれくらい食料が確保、保存できるかだ。


 「冬篭りは他の動物との競争かな」


 木の実や乾燥保存できる果実、根菜類、芋類、干し肉、干し魚、燻製肉など、可能な限り貯蔵するしかないよね。

 真冬になれば狩りもままならない日が続きそうだし。


 「村で食料の買出しは難しいだろうね、きっと」


 物流の豊富な都市や街ならともかく、辺境の村では食料は貯蔵する側だろうし。

 村人の冬越しの為に買い集めた保存食を、流れ者に売ってくれる訳も無い。


 「あ、でも岩塩なら物々交換してくれるかも」


 先住民さんが、一人分にしては多すぎる量を採掘、保管してあったのは、村まで持って帰る気が有ったのかも知れない。


 ただのマインクラフト中毒者かも知れないけど。



 やがて身体も服も乾いたので、着直してから、約束事を果たしに行く。


 先住者さんの埋葬をしないと。



 場所は崖の上にした。

 下だと渓流が氾濫したときに流されてしまうかも知れないから。


 丁度、木々の隙間から空が見える場所があったので、そこに埋めることにする。


 「ここから村は見えないけど、夜空に架かる月は見えるから」


 村の人が見上げてるのと同じ月が見えますように。



 土魔法で掘った穴に遺骨をそっと降ろして、軽く土をかけておいた。

 あとは時間がくれば自然に埋もれるはず。


 墓標の代わりに十字型に縛った木の枝を刺しておく。

 世界知識によれば、これが冒険者や傭兵の墓標なんだそうだ。


 この場合の十字は『剣』を意味するらしい。



 先住者さんの埋葬を終えた、洞窟への帰り道、なんと畑を発見。


 10m四方の地面が耕されていて、緑の葉っぱが植わっていた。


 「こ、こ、これは、まさか男爵様!?」


 畑からニョキニョキと乱雑に生えているのは、見慣れたジャガイモの葉に見えるよ。


 慌てて手近な所を掘り返して見ると、やや子ぶりながらも立派なジャガイモが生っていました。


 「これは世紀の大発見なのでは?」


 食の3大発見とは、

 『じゃがバター』 『ジンギスカン』 『スープカレー』 である。


 異論は認める。


 とにかく、この地域でも男爵様が栽培可能であり、こうやって種芋も手に入ったなら、勝ったも同然。


 そしてあたしに新たなミッションが下された。


 『ジャガイモ畑の死守』 である。



 「負けられない、この戦いだけは」


 鹿と熊の生息が確認されている以上、畑への襲撃は秋が深まるにつれて激化の一途を辿るに違いない。

 見つけ次第、追い払うだけでは、到底、奴らの侵入を阻むことは出来ない。


 「罠を仕掛けるしかないか」


 どうやら先住者は、ジャガイモを食料としてより、獣をおびき寄せる餌として活用してたみたいだ。

 その証拠に、畑を守る工夫が一切されていない。

 植え方も雑だし、収穫した気配もない。


 「毒は芽に集中するのを知らないのかな?」


 あっちでも最初は『悪魔の実』と恐れられていたからね。

 まあ、余程大量に摂取しないと、お腹を壊すぐらいで済むんだけどね。


 芽を抉り取って、皮の緑色に変色した部分を厚く剥けば、美味しくいただけるのを知らないなんて。


 ジャガイモは、煮て良し、焼いて良し、蒸して良し、揚げて良し、茹で潰して良しの5グッド食品なのです。


 異論は認めない。



 とにもかくにも、畑の周辺に野生動物対策の罠を設置しまくった。


 「害獣に情けはいらない」


 ましてや、それがあたしの畑を狙っているのならば、尚更だよね。


 ロープ1本分を、大盤振る舞いして、あちこちに踏み罠を配置した。

 ロープの輪の中に足を踏み入れると、枝の反発力で、宙釣りにされるあれである。


 「トラバサミがあればなぁ」


 あっちでは誤って人がかかると危険過ぎるので禁止されていたが、こっちではそんな法律はない。

 あったとしてもあたしは知らないし。


 だけどこっちでトラバサミを作るとなると、片手剣より高くつきそうだし。

 金属もかなり使うし、バネ仕掛けの部分も高度な鍛冶スキルか金属細工スキルを必要とするはずである。


 「ディグで落とし穴が作れればなぁ」


 穴の底に尖らした木の杭を埋め込んでおけば、鹿や猪なら簡単に撃退できそうなんだけど。


 「掘っても1時間で元に戻っちゃうのがね」


 土魔法がランク3になれば、『アース・コントロール』という呪文で、ゆっくりだけど大きな穴も掘れるみたい。それまで落し穴はお預けということで。


 あと、振り子罠も仕掛けておいた。

 高さ2mぐらいに張られた蔦を切ると、尖らした枝を持つ丸太が、振り子の様に木の陰から襲ってくるあれです。


 あたしは身長が170cmぐらいなので(エルフになって少し伸びた)、この罠には引っかからないけど、ヘラジカや立ち上がった熊が相手なら効果がありそう。


 足元の糸が切れると矢が発射されるのとか、地面に落ちてる板を踏むと竹槍が飛び出してくるのは、材料の都合であきらめました。


 罠として放置できる弓矢も竹槍も無いからね。



 始めだすと止まらなくなるのが罠の設置です。


 ここにも、あそこにも、ここが手薄、ここは必ず通るはず、といつまでも弄ってたくなるものなのです。


 匠級の職人さんが言ってました。


 『どこまでやれるか、ではなく、どこで止めるか』 であると。



 「うん、やり過ぎたね」


 

 そこには、ゲリラ兵さえも慄くようなキリングゾーンが出現していたのであった。

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