ニートの日常その7
ついスキルランクの上昇率の研究に没頭してしまったが、本命は神聖呪文がランク2に上がったことだ。
懸案の呪文の譲渡が可能になったのだ。
『レンタル・スペル(呪文貸与)』
神聖呪文ランク2 消費MP2+貸与呪文分 射程:接触 効果範囲:対象1体 効果時間:1日又は消費するまで
効果:信徒もしくは徒弟に呪文を貸与する。術者は効果時間内は貸与した呪文のMP分、最大MPが低下する。
これでランク2呪文一つか、ランク1呪文を二つ貸与できるようになった。
「まあ、特殊任務でもない限り、ランク1二つの方が汎用性があって良いだろうな」
さっそく実験してみた。
「フギンに 『ストーンバレット』と『マイナーヒール』を付与するぞ…『レンタル・スペル!』」
「クアーーー(来た来たーー)」
「ムニンには『ウィンドカッター』と『ダークネス』だ…『レンタル・スペル!』」
「ククアーー(漲るー)」
「よし、あの土魔法で作った木偶人形に向けて、攻撃魔法、撃て!」
「「 クワッ! 」」
ほぼ同時に2羽の放った魔法は、狙いたがわず木偶人形に命中した。
石の弾丸が胴体にめり込み、風の刃が肩を切り裂いた。
「もう片方の呪文は残したまま、『レンタル・スペル』重ねがけ!」
まだ効果時間の残っている状態で、新たな貸与を試みてみた。
「あ、弾かれた。やっぱり無限貸与は出来ないみたいだな」
MPに余裕があるので、使い魔に限界まで呪文を貸与できないかと試したが、レンタルスペルは、1体に一つしか維持できないようだ。
「ならば、残っている呪文は空打ちして、仕切り直しだ」
2羽がそれぞれに残っていた呪文を放出すると、『レンタル・スペル』が終了となり、低下していた最大MPが回復した感覚が理解できた。
今度は、威力増強と無詠唱で貸与できるかの検証である。
「『!』と『!』を『レンタル・スペル!』」
「ククアクアーー(俺は使い魔を超えるぞーー)」
「さらに『シャワー』と『ドライヤー』も『レンタル・スペル!』」
「カアカアカア(今なら2台セットでこのお値段)」
どうやら、魔法補助技能を使ってもレンタルできるし、魔法改変した呪文もレンタルできるようだ。
「いいね、使い魔専用呪文とか夢が広がる」
新たな暇つぶしの種を手に入れたのであった。
さっそく、使い魔に最適な攻撃呪文を改変してみる。
「ランク1だと攻撃力は期待できない。だとすると連射性能かデバフ付きか…」
ランク1の攻撃呪文だと、魔法攻撃力で火魔法『ファイアーアロー』、物理攻撃力で土魔法『ストーンバレット』が頭一つ抜きん出ている。
状態異常付与だと、氷魔法の『アイス・ニードル』による氷結(移動速度低下)か、雷魔法の『ショック』による麻痺が強力なのだが、これらの属性はまだ使えない。
現状だと土魔法一択だが、これに連射機能をつけるには問題があった。
下手に強化するとスペルランクが上がってしまうのだ。
そこそこ使えて、ほどほどに弱点があり、さらに代価を払って、やっと魔法は改変できるのだ。
「ランク2より便利なランク1は存在しても、ランク2より強いランク1は存在できないということか」
『兄より優れた弟など、存在しないのだ!』
そして姉に勝てる弟も存在しないのである。
閑話休題。
ストーンバレットの連射速度上昇や命中時のデバフ付与が難しいとなると、あとは継戦能力の向上しかない。
瞬時に3発打つことは出来なくても、1発ずつ、3回に分けて打てれば牽制効果は高い。特に『レンタル・スペル』だと、補充が効かないので、スペル一つで3回まで威嚇射撃ができるのが大きいはずだ。
『リボルバー・バレット』
土魔法ランク1 消費MP2 射程:30m 効果範囲:1体 効果時間:1分 効果:1D6+修正値ダメージ
魔法が発動すると、術者の手の周りに石の弾丸が3個回り始める。術者は効果時間内に好きなタイミングで1発ずつ射出することができる。 発動には銃を意識した手の形などが必要である。
改変したのは4箇所。(遅延効果と回数増、効果時間低下と威力やや下げ)
これで代償は2つで済んだ。MP増加と手順の追加(手振り)である。
実際には、発動時に威力増し(要MP2倍)と無詠唱を重ねることになる。
フギン達には手がないので、石の弾丸は嘴の周囲を回ることになる。
「クアー(めぎゃん)」
「ククアクー(ナゼ3発なのか、それは4はエンギが悪いからダゼ)」
2羽も気に入ったようだ。
残りの1枠をどうするか悩んだが、無難に『マイナー・ヒール』にしておく。
本当は2羽のうちどちらかは、毒消しの呪文を貸与したかったのだが、ランク2の為に断念した。
片方だけ攻撃呪文があるのも不公平だろうから。
「「 カカー!(威力偵察行きます!) 」」
今までにない攻撃力と回復力を搭載したフギンとムニンは、元気よく周辺の偵察に飛び立っていった。
「おい、片方は拠点の警備じゃないのかよ…」
俺のつっこみは、虚しく森に木霊するだけだった。
だが、この2羽のはしゃぎっぷりが、俺の運命を変えることになったのだ…
フギンとムニンが、争うようにして未探索だった地域に羽を伸ばしていると、突然、「侵入者多数」のコールが送られてきた。
「詳細を送れ」
熊や狼なら、こんな反応はしないはずだ。2羽から見て、野生の動物や魔獣ではないのだろう。
「「 白い獣を被ったエルフを黒い戦士がとり囲んでイル 」」
詳細が知らされても、意味不明だった。
「「 ドッチニ ツク?」」
「エルフ」
「「 ダロウナ 」」
すでに現場は戦闘状況らしい。黒の戦士が何人いるかにもよるが、使い魔だけでは厳しそうだ。
「仕方ない、出るか」
使い魔のいる位置は、方角・距離ともに判明している。
接近すれば、より詳しい情報が手に入るだろう。
「『リボルバー・バレット』マシマシ!」
威力増、時間増の石の弾丸が右手の周囲を回り始める。
「さらにもう一丁!」
左手にも弾丸の腕輪が出現する。
「『ストーン・スキン』 『バーク・スキン』『シールド オブ ピエティー』 」
防御呪文の重ねがけである。
「方角は南南東、高さは樹冠を見下ろすぐらいで、距離は2回は必要か。 いくぞ『ディメンジョン・ステップ(次元散歩)!』」
空間魔法ランク4のディメンジョンステップにより、大森林の上空に瞬間転移する。
さらにそこから、使い魔のリンクを頼りに、事件現場へと再び次元跳躍する。
「やっぱり空間魔法は最高だぜ!」
不意の闖入者に驚く面々に、俺は丁寧に挨拶する。
「これはこれは、我が領域へようこそ。しかして何用ですかな?」
次回から、村に買い出しに出かけたソロキャンパーに話が戻ります。




