ニートの日常その6
いつの間にか朝だった。
昨晩は遅くまで召喚魔法の訓練をしていたので、そのまま疲れてシェルターの中で眠ってしまったようだ。
朝のシャワーを浴びようと、シェルターを出ると、そこには戦場が広がっていた。
「なんじゃ、こりゃあ!?」
ストーンサークル内の地面は、ボコボコに掘り返され、その上に何重もの何かを引きずった跡が残っている。
サークルの外は、森の木々が無残な姿をさらしていた。
枝はあちこち折れて、地面に落ちたり、途中で垂れ下がっている。
幹にはグリズリーが爪でも振るったかの様な傷跡が散見する。
「誰がこんなことを…」
「「 カアー(もちろんマスターです) 」」
犯人は俺だった。
つい熱中して鬼軍曹を演じてしまったが、後半、夜間照明を使用したあたりからの記憶がない。
6時間は寝落ちしていたようなので、MPは完全回復していて、気分は爽快だ。
召喚した蟲は、時間が経てば自動的に送還されるし、もし万が一、事故で逝ったとしても、遺体は残らない。
なので、ここに残っているのは、昨晩の死闘もとい猛特訓の痕跡だけである。
「ククアー(死闘っていっちゃってるよ)」
シャワーの前に、ちゃっちゃと地均しをしておこう。
「アースコントロール!」
地魔法で、穴や溝を埋めていく。
みるみるサークルの内部は元の様に…とはいかないが、それなりに綺麗になっていく。
「雑草とか無くなって、前より良くないか?」
「クアクア(ここが畑ならそうでしょうけど)」
確かに、掘り返した後を軽く埋めただけなので、種を蒔いたら芽吹きそうではある。
「お次は森の木かな」
「プラントコントロール!」
樹魔法で、落ちた枝を元の場所に固定する。
「カアカア(それだとすぐ枯れておちますよね)」
「だからこうする『ヒール・プラント!』」
ヒール・プラントはランク4樹魔法で、植物を癒す呪文である。
射程は240m、効果範囲は60m半径、対象は範囲内の指定した植物になる。
植物の病気を治し、害虫を駆除し、倒れた茎を元に戻す効果がある。威力を増せば、この通り、
「クアー!(傷が治ってる!)」
幹についた傷も塞がり、折れた枝も元通りである。
「さすがにあのままだと森の女神に怒られそうだからな」
一応、俺にもハイエルフとして自然を護るという意識はある。
ちょっとだけ。
朝のルーティンでシャワーを浴び、身体を乾かし(目隠しの土壁の4方に温風機を設置して瞬間乾燥)、『ランチボックス』で好みの実をつくって食べる。
「今日は何するかな」
シェルターの中でボーと考えていたら、召喚魔法と神聖魔法がランクアップしているのに気が付いた。
昨日までは使えなかったランク2の呪文が使用可能になっている。
「お、猛訓練が効いたのか?」
少し上昇が早い気もするが、何が要因なのだろうか。
可能性その1 ハイエルフの魔法に対する親和性のおかげ説。
種族的にハイエルフは魔法への親和が高い。能力値のMP変換率も最高の300%であるし、ボーナススキルも魔法関連が殆どである。
ただし、魔法関連以外のスキルをからっきし使っていないので、比較できない。
「唯一あると言えば『聞き耳』だけれども、使用頻度が低すぎるからなあ」
本来なら一番使いそうな聞き耳スキルも、『アラーム』と『エリアサーチ』頼みの現状では上昇しようがない。
「最悪、退化するまであるな」
耳の遠いエルフ…悪夢である。
可能性その2 ランク1から2なんてこんなもの説
一般の冒険者の魔法使いだと、MPは20ぐらいが平均だろう。
すると余裕を取って、1日に15回ぐらいしか呪文が打てない。1週間休まず使い続けて、やっと100回に到達するわけだ。
翻って、俺は昨日だけで、200回以上呪文を唱えた。
幾つかに属性はバラけていたが、後半はランク1の3つに集中していた(はずだ)。
なので通常言われているよりは早くランクが上がった可能性もある。
「なにせ朝に使ったMPは、夜には勝手に回復してるからなあ」
戦闘してようが、シャワー浴びてようが、1時間に8ポイントは回復していくのだ。うっかり休憩していると3倍回復するので溢れたりする。
「睡眠をとらなくてもMPが3倍回復するのはズルだよなあ」
エルフ様々である。
可能性その3 魔法補助スキルを併用すると、上がり易い説
スキルの上昇システムが不明な為、あくまで推論に留まるが、複雑な詠唱をした方が、よりスキルの経験値が溜まり易いという説である。(提案者は俺)
そもそもスキルを使用する度に経験値的なものが溜まっていき、必要数溜まるとランクが上がるという保障もない。
毎回スキルガチャを引いて、5凸したらランクアップかもしれないし、いきなりSSR引いたらランクアップなのかもしれない。
まあでも世界知識によれば、一般的には普段からスキルを意識して使うことを繰り返していると、徐々に上昇すると信じられている。
『我が道場では、基礎に重点を置いておる。何事も繰り返し行って身体に染みこませる。これが出来ない者は、何をやっても上達せん』
ギルドからすると、訓練よりは、より実践的な使用が早道らしい。
『日々の訓練も確かに重要だ。だが、実戦に勝る訓練は無い。逝って来い』
TASさんによれば、より強い敵に、より危険な状況で使えばバンバン上がるとの事。
『これが一番早いと思います』
まあ、スキル経験値にしろガチャにしろ、回数がものを言うのは間違いない。
ガチャだってリセマラすれば何時かは出るのだ。
そこで、いかに効率良く経験値を溜めるか、もしくはSSR確定を出すかである。
やはりランクの高い呪文を、出来るだけ回数多く唱えるのが基本になるだろう。
さらに魔法補助スキルを使って、消費MPを増やしたり、難しい無詠唱に挑戦するのも経験値的には美味しそうに思える。
ガチャ的には、待機画面に戻って溜めを作ったり、スキップ教に入信してみるようなものだ。
石も溜めるし、課金もする。ログインボーナスだって取りこぼさない。
その上で、出来うる全ての事象に願掛けをするのである。
「それがガチャラーのサガだから」
まったくの無駄かもしれなくても、MP増加と詠唱短縮を止めない俺がそこにいた。




