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ニートの日常

復活のハイエルフ

 ニートの朝は早い。


 なぜならシェルターに日が差し込むと、寝ていられないからだ。


 3徹ぐらいした後なら、近くで雷が落ちても眼が覚めないが、こちらに来てから、早寝早起きが習慣づいて、ちょっとした環境の変化にも、敏感に反応してしまう。


 「ふっ、俺も軟弱になったものだな」


 休日の前夜に耐久レイドに参加して、解散したのが朝の5時。そこからベッドに潜り込んで、朝飯、昼飯すっとばして、晩ご飯に呼びに来た母親に、布団ごとベッドから放り出された、あの歴戦の勇士がこのざまだ。


 「やっぱ12時間寝てると、飽きるよな」



 これから長い長い一日が始まる。


 食事は一日一回、『森の果実』を食べれば、それで終わる。


 食材を集める手間も、獲物を狩りに行く危険も必要ない。

 ただ、樹魔法を唱えるだけだ。


 シェルターは、冷暖房完備(というより常に快適温度)であり、床は低反発素材、外からは隠蔽性に優れ、さらに魔法を唱えれば、どこにでも移設できる。


 少しでも長く眠れるように、ストーンサークルの東側に寄せてみたが、それで得られたのはたった5分の猶予だった。



 外敵の警戒方法は、主に2種類。

 空間魔法による警戒結界と、使い魔による監視である。


 アラーム(警戒結界)は、全周囲とその中心に9箇所展開されていて、猫の子一匹見逃さない。


 使い魔は、ワタリガラスのフギンとムニンの2羽の他に、新たにフクロウを4羽召喚した。


 フクロウは、夜目に優れ、聞き耳も高性能で、監視要員にはもってこいの使い魔である。


 「異常なしは『ホー』で、侵入者ありは『ホッホー』で頼むぞ」


 「「「「 ホウ 」」」」



 フギンとムニンは交代で、シェルターの警護と、広域探査の任務についており、フクロウは、東西南北に配置して、固定監視を続けている。


 つまり俺がやるべき仕事は存在しない。




 「暇だな」


 これが長命種の呪いというわけか…

 

 (絶対に違う)


 まさか、転生2日目にして、人生の指標を失うとは…


 (元から持ってない)



 数時間はスキルの練習の為に、魔法を連射していたが、MPが半分になった時点で終了した。


 「また、あのレッドベアみたいなのが襲ってこないとも限らないからな」




 そしてやることが無くなった。



 「近くに図書館でもあれば、時間つぶしと知識スキルの強化が出来たんだが、この大森林の真ん中だとなぁ」


 だが、わざわざ何日もかけて、街まで移動する気にもなれない。


 「エルフ以外と同行も同居もできない以上、村や街に行くのは無理だ」


 通りすがるぐらいはできても、中の施設を利用できる気がしない。



 「別に一人暮らしは淋しくないが、時間を持て余すのがキツイな」


 スローライフに憧れていても、いざ田舎に篭ったら、ゆったりした時間の流れについていけない、仕事人間あるあるであった。



 「そういえば、司書さんのお土産があったっけ」


 けっして忘れていたわけではないが、意識の隅に追いやっていた(それを忘れたという)スキルブックの存在を思い出した。


 「なるほど、こうなることを予想してたのか」


 (もっと何十年もたってからだけど)


 「ならば活用させてもらおう」



 ニートは再び立ち上がった。



 しまっておいた『隠された宝箱』からスキルブックを取り出して、読み始める。



 『魔法改変スキルの書』


 既存の魔法を改変するには、深い知識(魔法知識ランク5以上)と精密な制御能力(魔法制御ランク5以上)が必要となる。

 (既に習得済み)


 基本的に、改変したあとで魔法のランクや属性が変化してはならない。

 (水魔法ランク3→氷魔法ランク2は出来ない)


 改変にはコストが必要となる。コストとは、使用MPの増加や、詠唱の複雑化、発動条件の限定、触媒の消耗などがある。

 (改変の為のコストは、必ず支払うこと。詠唱の複雑化を無詠唱で破棄することなどはできない)


 改変できる魔法のランクは、魔法改変スキルのランクに準ずる。

 (ランク以下に限定されるという意味)


 改変した魔法は、基本的に製作者専用呪文となるが、血縁者や徒弟に相伝することは出来る。

 (相伝された者が他者に伝えるには、師と同等の技能が必要になる)



 「なるほど、スキルランク以下の魔法を、代償を払って専用呪文に改変するわけか」


 2時間ほど読み込むと、スキルブックの内容が理解できた。

 それと同時に『魔法改変スキルランク1』を習得できたことを自覚した。


 何度か試行錯誤は必要そうだが、現状でランク1の魔法は改変できそうである。



 「これは面白くなってきたぞ」


 俄然、興味が湧いてきた俺は、さっそく魔法改変に勤しむことにした。



 「まずは、水魔法ランク1の『水生成』からだな」


 一番慣れ親しんでいる魔法であり、改変も難しくなさそうなのを選んでみた。


 「目指すは温水シャワーだ」



 2mぐらいの高さから、適度な温度(38~40度)で適度な水量のシャワーが、30分ほど降り注ぐように改変してみる。


 まず、水がシャワー状に降り注ぐタイプに改変するのは簡単なようだ。

 これは魔法制御の範疇で可能なのでコストは必要なかった。


 次に水がでる位置を決定するのには、二つ方法があった。

 片方は術者の頭上に固定して出現するタイプ。

 もう片方は、10m以内ならどの位置でも指定できるタイプ。

 前者はコストが必要なく、後者はコストが1つ必要らしい。


 さらに効果時間の延長だが、元の水生成が10分間で、魔法制御で20分にはできる。

 これを30分にするのにも、コストが1つかかるらしいので、あきらめた。


 「なに、コインシャワーなら10分で洗髪まで済ませないといけないのだ。20分あれば上等だろう」


 最後に温度の変化だ 

 これも魔法制御で変更可能だが、毎回細やかな制御が必要になる。

 シャワータイプに変化させて、効果時間の延長もするとなると、魔法制御の三重使用になり難易度が跳ね上がる。

 ここはコストを一つ払って、好みの温度に設定しておくのが良いだろう。


 結果、術者の頭上固定ならコスト1で、位置指定可能ならコスト2で改変が可能である。


 「俺しか使わないならコスト1で良いわけだが…」


 将来、弟子を取ることを考えると、指定可能にしておくのが良さげかな。



 ということで、コスト2を代償にすることにした。


 「まあ、基本は使用MPの増加で、もう一つは詠唱の複雑化で良いか」


 MPの増加は俺にとって最小の代償であるし、詠唱の長さが邪魔になるほどの気急なシャワーというのも考えづらいからな。

 他だと、シャワーの度に触媒(この場合、石鹸の欠片とかタオルの切れ端)を消費したり、発動する時間や場所を限定しないといけなくなる。


 『水生成』の呪文詠唱が「水よ湧きでよ」だから、『温水シャワー』の詠唱は「温かき水よ、我が願いし場所に降り注げ」でいけるかな?



 何度か試しているうちに、発動に成功した。


 「おお、温かい」


 さっそく森の中に入って、排水用の縦穴と、目隠し兼防壁用の土壁を土魔法で作って、シャワーを堪能した。



 「次はドライヤーの開発だな」



 服を着れるぐらい身体が乾くまで、シェルターの中で全裸だったのは内緒である。

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