大森林再びその9
一度、崖の上に戻って、装備の確認をした。
「入口が狭く、中もギリギリだから、弓矢は持ち込めないね」
武器が解体ナイフ一本になるけど、魔法との併用でなんとかするしかない。
明かりは、光魔法でいいかな。
松明は持ったまま屈み込んで入るときに火傷をしそう。
「それでは、レッツ ゴー ダンジョン」
地下迷宮ではないけど、地下洞窟ではあるので、あたしの中では初のダンジョンアタックです。
ロープを伝って、先ほどの足場まで降下、からのボルダリングで横移動…
背中に滝の水しぶきを浴びながら、なんとか洞窟の入口まで到達できました。
「ライト」
狭い入口から、光魔法を投げ入れると、確かに中は広がっています。
しばらく待ったけど、光に反応して出てくるものはいなさそう。
滝のカーテンのせいで、蝙蝠とかも棲んでなさそう。
警戒スキルにも特に反応はなし。
「それでは、ちょっとお邪魔しま~す」
屈み込んで、洞窟の奥へと進んでいった。
中は急に広くなっていて、高さが2mほどのちゃんとした洞窟みたいだ。
左右の壁には、スコップか鍬で掘った筋がのこっているので、人が掘り広げたのは間違いなさそう。
でも入り口は自然な感じなので、最初は小さな穴だけだったのかも。
後から、徐々に掘り進めたんだと思うけど、それにしては通路が妙に折れ曲がってる。
「生野銀山の坑道がこんな感じだったね」
修学旅行で、出雲大社と生野銀山へ行ったときを思い出した。
銀の鉱脈に沿って掘り進めたから、不規則に曲がりくねった通路ができあがるらしい。
とはいえ、岩塩を採掘して出荷してたわけでもないだろうし、掘り易い部分を掘ったらこうなったんだろうけど。
洞窟の天井部分はアーチ状に刳り貫かれていて、耐震強度をあげてある。
補強材とかは無いので、落盤はちょっと怖いけど、足元に崩れた土とかはないので、案外丈夫なのかもしれない。
坑道は奥へと曲がるように続いていて、暗く、先は見えない。
所々、壁に窪みがあるのは、照明用のランタンか何かを置く場所みたい。
床は若干、奥へ行くほど高くなっていて、水が入ってくるのを防いでいるかんじ。
中に3mも入ると、床も天井も乾いてた。
「思ったより深いね」
外から『アースソナー』で探知したときより、実際に洞窟に入り込んだときのほうが、深く感じる。
周囲を土壁で囲まれてる圧迫感がそう感じさせるのかも知れない。
「ライト」
さらに奥に光魔法を放って、ゆっくり先へ進んでいく。
途中に地上まで通じてると思われる細い縦穴が二つ開いていた。
空気穴だと思う。
「雨は入ってこないのかな?」
何らかの工夫がしてあるらしく、雨漏りしてる様子はない。
「ランタンじゃなくて火皿だね、これ」
壁の窪みには素焼きの土皿に、松脂を載せて、灯芯を差した簡易火皿が置かれてた。
「松脂は森で取れるだろうけど、素焼きの皿は自作かな?」
だとすると、この壁の黄土色の部分は、粘土層なのかも。
「ライト」
さらに奥へ明かりを放つ。
すると…
「うわっ」
少し広がった部屋のような場所に、この洞窟の住人が横たわっていた。
白骨になって。
「もしも~し」
小声で話しかけてみたけど、答えはない。
ただの屍のようだ。
部屋は天井の高さが2・5mぐらい、横幅3m、奥行きが4mぐらいある。
右手の壁は棚状に刳り貫かれていて、生活用品が並んでいる。
奥には壁を掘り抜いた簡易的な暖炉があり、煙突代わりの縦穴が外につなっがているようだった。
そして左手の寝床だったであろう位置に、白骨死体があった。
「なむなむ」
この世界の死者への弔いの言葉がわからないので、なんとなく手を合わせて拝んでみた。
もちろん何も起きない。
「本当にここに人が住んでたんだね」
白骨は綺麗な形で残っており、体格から成人男性だと思われる。
思わず死因と死亡推定時刻を特定しそうになったけど、ここは我慢する。
まずは部屋の確認からです。
棚には、鉈の刃や槍の穂先などが乱雑に置かれていて、床には割れた素焼きの壷や皿が散乱していた。
「毛布や服は残ってないね」
ちょっとだけ着替えに期待したんだけど、布類は見当たらない。
保存食や薪なども一切ないので、かなり前にお亡くなりになったみたい。
蓋のされた素焼きの壷が幾つかあるので、その中に干し肉とかは入っているのかもだけど。
そして一つ気になるのは、部屋の隅に置かれた金属性の小箱だ。
「貴重品が入ってそうだよね」
硬貨や宝石だと今は別に必要ない(使う場所がない)けど、ポーションや地図が入っているなら、ぜひ欲しいところだ。
「開けたら怒られるかな?」
白骨死体を横目に見ながら、そろそろと小箱に近づいていく。
あと少しで小箱へ手が届きそうなところまで近づいたとき…
「カタカタカタ」
と音がして、白骨死体が立ち上がった。
「ですよねーー」
あまりにも保存状態の良い白骨だったので、そうじゃないかと疑っていたのだ。
「スケルトンかぁ」
異世界の定番、最初のアンデッドといえばこれ。
廃墟に白骨死体があったら、動くと思え、のあのスケルトンである。
「でも弱いとは限らないんだよね!」
両手を突き出すように迫ってくるスケルトンから、バックステップで距離をとる。
相手の反応速度はそれほど早くないが、骨格標本が襲ってくる様は、やはり不気味である。
「ゾンビよりはマシだけどね」
これが腐敗しかけの死体だったら、一目散で逃げ出していただろう。
解体ナイフを構えてはみたものの、なんとも心もとない。
「確か、刺突と斬撃に耐性があるんだっけか」
部屋の中を避け回りながら、ダンジョン知識を検索する。
「だったらナイフより、こっちだね。ウィンドカッター!」
風魔法で攻撃すると、左肩に命中して、左腕ごと破壊できた。
「いけるかな、ストーンバレット!」
次に土魔法で攻撃したが、これは効果が薄い。
「こっちはダメかぁ」
ウィンドカッターは斬撃で、ストーンバレットは刺突の扱いのはずだが、あきらかに効果に差がある。
魔力を不可視の刃に変えて切り裂く魔法ダメージと、魔力で土を固めて打ち抜く物理ダメージの違いなのかも知れない。
片手で掴みかかってくるスケルトンを回避しながら、相手の弱点を探す。
「火魔法が効きそうなんだけどね」
アンデッドには火か光と相場が決まっている。
残念なことにランク2までの光魔法には、直接ダメージを与えるタイプは存在しない。
唯一、治癒系の光魔法ならアンデッドにダメージを与えられるはずである。
接触できれば。
「触りたくないよね」
ちょっとまだ、遺体だったはずの白骨に触れる勇気はでなかった。
「なので、ウィンドカッター!」
右手も吹き飛ばし、
「止めのウィンドカッター!」
棒立ちになったスケルトンの頭を直撃した。
「カラカラカラ」
スケルトンは、音をたてて崩れ落ちた。
「ふう、これで成仏してくれたならいいんだけど」
警戒を続けていたけど、復活する気配はなかった。
「後でどこかに埋葬しよう」
床に散乱した遺骨を背負い袋に詰め込むと、もう一度拝んでおいた。




