大森林再びその5
無事に目が覚めました。
昨日の夜は、騒がしくて何度も起されたけど、その後は朝までぐっすりでした。
「やっぱり疲れてるんだろうね」
トラックの事故から、怒涛の展開がつづいてからの、野生王国でソロキャンプですから。
一つ判ったことは、一人で暮らしていくなら安全地帯が必要だってこと。
もしくは人里に避難する。
今のとこ、人が生活してる痕跡は見当たらないし、獣道以外の道は見つかってない。
狩りをする人が出入りしてれば、焚き火の跡や、切り株などがあるものなんだけど、一切ないからね。
「きっと人が開拓した村からは離れてるんだろうなぁ」
エルフや獣人の里が見つかる方が早いかも。
矢の予備も欲しいし、鉈やノコギリもあると嬉しい。
「土魔法で、こう、ギュッと出来ればなぁ」
ランク2の土魔法では、土器を作るのも難しいのですよ。
魔法知識3によれば、ランク3には土を成形する魔法がある様なので、頑張ってランクアップするしかないね。
気を取り直して、今日は崖の下の探索です。
「火の始末よし、テントの偽装よし、装備よし」
指差し点呼は、安全確認の基本です。
焚き火はしっかり消しとかないと、山火事の危険があるので。
天幕はロープから下ろして、持ち歩かない荷物に被せて、さらに枝葉で覆い隠しときます。
熊とかは好奇心旺盛で、見慣れないものがあると寄ってくるんですよ。
持ち歩く装備は、出来るだけ軽くして、探索の範囲も日帰りできる距離で。
「でも食材は集めないと、ご飯が保存食になりますね」
矢は残り19本、解体ナイフの刃も研ぎ直したいところです。
「さあ、出発です」
まずは崖の下に降りるルートを探します。
ロープは念の為に、片方20mだけ持ってきました。
キャンプ地を探しているときに、それなりに崖の上を歩きましたが、低くなってる箇所はありませんでした。
なので、崖の下が直接、渓流になっていない場所を探して、ロープを使って降ります。
崖際にしっかり根付いた木が立っていて、崖下は川原になってるとこを見つけたので、そこから降りようと思います。
「まあ、5mならロッククライミングの要領で、補助なしでいけそうですけどね」
ただし、降りるのは簡単でも登るのは難しいかもしれないわけで。
戻れなくなると悲しいので、その為にもロープは垂らします。
木の幹に2重に回した後で、しっかりと結びつけ、1m毎にノット(結び目)を作って握りやすくしときます。
降りるのはすごく楽ちん。
登るのも、崖を蹴れるぶん問題ないかんじです。
昔、体育館の天井から垂らされた綱を、両手の力だけで上らされた時があるけど、あれはキツイ。
何がキツイかって、綱が太すぎてぜんぜん掴めないの。
あれは腕力とか言う以前に、握力でしょ。
それに比べれば、握りやすい太さのロープに、滑り止めの結び目までついてて、さらに崖に足を押し付けることで、登り易くできるこっちはイージーモードと言わざるえないよね。
川原に降りきってから、少し悩んで、ロープを4mほどで切りました。
あんまりブチブチしちゃうと長さが足りなくなるかもだけど、手元にロープが無いのは心配だから。
「ロープも補給できるときは、多めに買っておこう」
心のスマホにメモです。
『矢、砥石、ロープ忘れずに』
川原は、狭く、細く、岩だらけで、テントを張るスペースさえありません。
渓流は、幅3m、水深1m(ロープに石を括り付けてドボンしてみた)、流れもかなり速いです。
「幅跳びは…止めとこう」
砂場で3mなら飛び越す自信はあります。
でも、失敗したら川に落ちてドンブラコは、危険すぎます。
高さ30cmの平均台は走り抜けられても、高層ビルの屋上に渡された鉄筋は、足が竦んで動けないのです。
「水魔法ランク2が使えたらなぁ」
水魔法のランク2には『ウォーターウォーキング』という呪文があるそうです。(魔法知識3より)
それを使えば、水の上を忍者の様に歩けるとか。
水が流れているとそれなりにバランス感覚が必要らしく、転ぶと水中にボチャンだそうですけど。
「この川幅なら、最初の一歩が踏み出せれば、向こう岸にジャンプできるし」
まあ、ないものは仕方ないんですけどね。
渓流を見渡してみても、足場に出来そうな岩は突き出ていません。
向こう岸にも、それなりに木々が茂っていますが、こちらに届くほど枝を張り出している大木は見当たりません。
「最悪は泳ぐ?」
下半身がずぶ濡れに成る事を嫌がらなければ、歩いて渡る事もできそうです。
水流に負けて流される可能性もありますけど。
「いったん崖上に戻って、長い枝を探して来て、棒高跳び?」
針葉樹が多いので、まっすぐな枝はすぐに見つかりそうです。
飛んでる最中に、枝が折れる未来が見えました。
「だったらこれね」
アタシはロープの先に再び石を括り付けて、それをグルグル回すと、対岸の大きな木の枝に向って放り投げた。
「フィッシュ!」
魚じゃないけど、枝が釣れた。(根がかりとも言う)
二・三度引っ張って、しなるけど外れてこないことを確認する。
「せいのっと!」
出来るだけロープの高い位置を掴み、振り子の要領で向こう岸に渡る。
水面は両足をまげてクリア、対岸についたら、両膝が地面で卸されないように素早くタッチダウン!
「やりました、ショーコ選手、第一関門クリアです」
なお、戻る方法は考えてない模様です。
「うん、大丈夫、いざとなったら泳ぐから」
さらに、高い枝に絡まったロープを外すのに、めちゃくちゃ苦労した模様。
「これ、風魔法で切ったらダメかなぁ。1mぐらい短くなりそうだけどダメかなぁ。ダメだよね…」
なんとか無事に対岸に到着できた。
「まずは昨晩の事件現場に戻ろう…あたしが犯人ではないけど」
夜中に起された悲鳴の被害者を探しに川沿いを行く。
「たぶん、ここらへんだと思うんだけど」
目を凝らして、犯罪の痕跡を探す。科捜研のように…
もちろん、耳と警戒スキルで周りを監視しながら。
「まだ血に飢えた犯人が、うろついてるかも知れないから」
やがて、それらしい現場に到着した。
「ここね」
渓流の水面近くまで降りられる斜面があり、その周りの草地が不自然に荒らされていた。
まだ半日もたってないので、地面にはかなり鮮明に足跡が残っている。
「最初に鹿の親子が3頭で水を飲みにここへ降りた。次に狼が6・7頭殺到してる」
「親鹿は逃げたけれど、子鹿が逃げ遅れて噛み付かれ、悲鳴をあげる」
「親鹿が助けに入ったけど、子鹿に2頭目の狼が噛み付き、引き倒された時点で、絶命」
「あきらめた親鹿は逃走、狼の群れは獲物を引きずって塒に戻っていった…そんなところかな」
狼がこの場で食事にしなかったのは、他の肉食獣が横取りに現れるを怖がったから。
捕らえたのが親鹿だったら、さすがに動かせないから、ここで食べれるだけ食べて、後は放置したんだろうけど。
「やっぱり崖の下は危険だね」
水飲み場兼狩場になってる。毎日がワイルドネーチャーである。
キャンプ地にするには危なすぎ。
「しばらくは崖の上のショコだね」
ショーコ、ショコ、ショコ、エルフの子♪




