大森林再び
アレク「あっ」
委員長「ん?」
アレク「転生名忘れました」
委員長「じと…」
アレク「ど、どうしましょう」
委員長「ん…おまかせで」
アレク「良いんでしょうか?せめてファーストネームぐらいは」
委員長「ならショーコで」
アレク「安直すぎませんか?」
委員長「自分で言ってた」
「さて到着っと」
転生図書館から送り出されて、あたしは異世界の森の真ん中に放り出されたっぽい。
周りは丸く切り開かれた草地で、時計の数字の様に、石の柱が転がっている。
「日時計かな?」
でも肝心の影を作る柱がないね。
その外側は、まったくの原生林。
北海道でもここまで人の手が入ってなさそうなのは、国定自然公園ぐらいだ。
「空気が美味しい…」
都会は楽しいことは一杯あるけど、緑は少ない。
空はいつもくすんでるし、空気は濁ってる気がしてた。
「ここは故郷に似てる…」
耳を澄ませてみる…
「うん、めちゃ良く聞こえる。さすが聞き耳ランク3、略してさす耳」
小鳥の囀りから、リスの咀嚼音、はては落ち葉の着地した音まで、はっきり聞こえる。
「よし、辺りに大型肉食獣の気配なし。ついでに水源の気配もなし」
小動物が警戒していないから、近くに肉食獣はいないはず。
せせらぎの音も、滝の音も聞こえないから、近くに川も流れていなさそう。
サバイバルでまず確保すべきなのが水、ついで火、それから食、住です。(異論は認めます)
「幸い、水は魔法でだせる(はず)」
火魔法は使えないけど(使っちゃいけない)、火打石で火起こしするのはいいらしい。
「あ、でも焚き火用に薪は必要かぁ」
忘れずに集めておこう。
「食は、背負袋の中に保存食があったはず」
でもこれは出来るだけ温存しておきたいのだ。
狩りで取った肉とか、直に腐るから、保存食に加工してあるのは大事。
「その前に、いったん全部並べて、確認しなきゃね。」
あたしは草地の真ん中に天幕を広げて、荷物の中身を並べ始めた。
装備 『弓矢セット』でもらえた物。
ロングボウ、矢筒、矢(20本)
弓は、ロングにするかショートにするか迷ったけど、威力と射程距離を重視してロングボウにしたんだ。屋内とかダンジョンとかならショートボウが有利なんだろうけど、あたしのフィールドは野外だから。獲物に初撃で致命傷を与えないと、逃げられたら一人じゃ追い切れないから。
勢子や猟犬が一緒なら、また別な話ですけどね。
矢はやっぱり20本。矢筒に入るのがこの本数ということで、たいてい20本セットで売り買いされているみたい。街か開拓村に行かないと補給できそうもない。大事に使わないと。
外れた矢は回収できる事もあるけど、命中した矢は難しい。獲物が即死しないと、暴れた拍子に鏃だけ体内に残って、矢軸は折れてしまうから。
流れの弓師とかいないだろうしなぁ。どこかにエルフの隠れ里とか無いかなぁ…
魔道具の中には、使っても中の矢が減らない矢筒とかあるらしいんだけど、お高いんでしょうね。
いつか手に入れる事を目標にしよ。
『冒険者セット』でもらえた物。
冒険者の服(上下)、帽子、ブーツ
バックパック、解体用ナイフ、ロープ(20m)、水袋、背負い袋(大きなズタ袋)、火打石、
松明(3本)、ベルトポーチ、銀貨10枚
冒険者ご用達らしい装備セット。
こんな装備で大丈夫かと思ったけど、これは本当の基本セットで、値段の張るものは入ってないらしい。そういえばランタンとかオイルとかないよ。松明って1本で1時間しかもたないんだよ。夜を越せないじゃん。
銀貨はやっぱりあれでしょ。冒険者ギルドの登録料ってやつ。
「登録料に銀貨10枚かかりますけど大丈夫ですか?」
ってギルドのお姉さんに聞かれて
「ああ」
って格好つけて返事するけど、内心ドキドキなやつだよね。
そんでもって、その場で依頼掲示板見に行ったり、持ち物の中から売れそうな素材を取り出すと、見透かされるんだよ、お姉さんに。
『あ、こいつ、素寒貧だなw』 って。
『野営セット』でもらえた物。
バックパック、包丁、鍋、木製の食器(皿、コップ、スプーン、フォーク)、天幕(防水)、
ロープ(20m)、革紐(20本)、毛布、火打石、水筒(木製)、保存食(3食)、岩塩
びっくりした事に、天幕が防水加工されてた。爬虫類の皮らしきものを薄く延ばして端を布で補強してある感じ。軽さといい、丈夫さといい、現代製品と遜色ないのが凄いよね。
それに対して、毛布と食器は落第だった。
「これならあたしが作った方がマシかもね」
毛布は中古の洗いざらしだし、食器類は歪で、ケバもろくに削っていない。
天幕が高すぎて、他に予算が回らなかったかんじかも。
幾つか、冒険者セットと被っているのも低評価です。
「実際、バックパックは2つはいらないよね。」
全部持ち運ぶと、35Kgぐらいありそうなんで、できれば減らしたいところ。
ロープも半分にしたいけど、これは使い道が凄くあるから、置いていくのは惜しい。
「蔦から丈夫なロープを作るの、めちゃ大変なんだよね」
無いなら頑張るけど、既製品があるなら絶対そっち使うよね。
「水の重量考えなくてすむから、まだマシなんだよね」
食料も、現地調達、現地消費してけば、まあ、なんとかなるかな。
生肉とか、めちゃ重いから。たとえ猪の枝肉一本でも、運ぶとなると、鬼だかんね。
結局、バックパックだけ一つにして、あとの荷物はまとめ直して背負うことになったよ。
「せいのっ!」
声掛けないと、背負えないぐらいの重量と物量感。気を抜くと後ろに引っくり返りそう。
戦闘の時は、降ろさないと弓も射れない予感がする。
「早く拠点を確保して、身軽にならないと詰むね」
この場所は切り開かれていて、地面も平らだし、お手ごろなんだけど。
周りから丸見えなのに、こっちからは見通しが悪いのがね。
「囲まれたら、逃げ場もないし、諦めよう」
ここはキャンプ地じゃない。




