転生図書館再び
時間軸は、森本幹夫が転生図書館に入室したあたりまで、巻き戻る。
気がついたら病院の待合コーナーにいた。
「えっ、なんで?」
思わず大きな声を出してしまったので、慌てて辺りを見回すけど、あたしに注意を払う人はいなかった。
「なんか、みんな、元気がないね」
周りにいるのは、病院でよく見る検査するときの服を着ていて、スリッパを履いてる。
自分を見ても同じ格好だ。
「ちょっとブカブカ。スリッパもペタンコ」
胸に名札がついていたが、紙にマジックで番号が書いてあるだけで、プラケースにも入ってない。服に直接、安全ピンで止められている。
「安全ピンって、久々に見た」
普通はプラケースにクリップ止めだと思う。百均で売ってるよ?
「番号は204かぁ、大分待つのかなぁ」
ていうか、何を待つんだろう…
その瞬間、幾つかの記憶がフラッシュバックした。
「あれ?あたし塾の帰りだったよね」
個人指導で有名な学習塾の、「夏期集中講座『まだ間に合う大学入試』直前コース」を終えて、家に戻る途中で…
その時、目の前に迫る大型トラックの映像が浮かび上がる。
「きゃああああ」
思わず叫んで、床にかがみ込んだけど、何も起きない。
「えっ、えっ、何これ、何が起きたの??」
混乱する記憶に、誰かの声が木霊する。
『記憶に齟齬が出来た時には、焦らずに、基本的なことから復唱すること。わかった?』
柔らかな女性の声…どっかで聞いた記憶があるような…
でも今はその声で少し落ち着けた。
「あたしの名前は谷川翔子。都内の女子高に通う18才。血液型はO型、牡羊座で誕生石は金剛石。趣味はキャンプ、アーチェリー、釣り、料理。ちなみに彼氏はまだいない…」
「地元は北海道の真ん中、ハニワで有名なとこ。牧場とジャガイモ畑以外は何もないとこ。本当っに、何もないの。一番近くのイオンまで車で片道3時間。買い物とカラオケしたら休みが一日潰れるの。」
「だから高校は両親に直訴して、都会へ越境留学をおねだりしたんだ。ラッキーな事に、独身の叔母さんが東京に住んでたから、保護者兼家主になってもらって。」
「でも両親との約束で、大学は志望校が受からなければ地元に戻れって言われてて、春の模試でB判定だったから、慌てて夏期講習に申し込んだんだ。」
「だって、まだ帰りたくないし、高校生活も楽しかったけど、共学じゃなかったしね…」
「もちろん地元に帰っても、出会いはあるかも知れないけど、殆どが農家か牧場の関係者なんだよねー。
都会のキャンパスライフ、チャンスがあるならトライしないと。」
「そしてトラックに轢かれると……」
だんだん思い出してきた。
あの時、一方通行だからって、逆方向には注意を払ってなかった。
気づいたときは、暴走するトラックが巻き込んだ自転車を引きずる音に、体が竦んで動けなかった。
「あたしも引きづられて、そして…」
「あれが、有名な転生トラックっていうものなんだ」
致命傷を受けたはずなのに、こうやって無事でいるって事は、そういう事なんだと思う。
「チカに薦められて、ラノベを嗜んでおいて良かった」
クラスメイトで布教に熱心な娘がいて、お気に入りを何作か読まされた。
女子高では珍しく、腐教者ではなかったのも幸いで、ラインナップはまとも?な転生物が多かった…様なそうでも無かった様な。
「とにかくチカには感謝を」
もう会えないと思うけど、あんたの努力は無駄にはならなかったよ。
「そうと決まれば、次は見学かな」
受付でみんな屯っているってことは、ここから転生タイプ別に分かれるに違いないよね。
「逆行転生だっけ?あれ好きなんだけど」
あたしのお気に入りは、女子大生が戦国時代に逆行転生して、織田信長に気に入られて内政チートで天下布武を助けるやつ。
「あ、でもあれは転生じゃなくて転移になるのか。確か現代の物品も持ち込んでたしね」
あたしは確実に死んでるから、体も作り直しなはず。もしくは死にかけの誰かの体に憑依して、人生再スタート。
「できれば、ハードモードは勘弁だよね。お願いします、神様、女神さま、邪神様」
そこへ館内放送が流れて来た。
『204番の方、床の赤いラインに沿って、指定の部屋までお越し下さい』
「あ、あたしだ。はいっ、はいっ!今、行きます」
『返事はいりません』
「あ、すいません」
怒られました。
床に引かれた赤いラインに従って、廊下を奥へ奥へと進んでいく。
「これ、ビニールテープだ、あちこち剥がれかかってるもん。」
途中で気になって、黄色いラインの端っこに指を伸ばすと。
『備品に触らないでください』
「あ、また怒られた」
さすが転生委員会(仮称)、監視カメラもないのに良く見てる。
『はぁ~、この娘、要注意だわ』
「もうしませ~ん」
たぶんねw
でも、通り過ぎる途中の部屋もメチャクチャ気になる。
「少し見学するぐらいなら、良いよね?」
都合良く、扉の上の方には丸い窓がついている。
ちょっと背伸びすれば中が覗けそう…
「(小声で) 失礼しま~す、Youは何しに異世界へ?…」
そこでは、三人の高校生らしき男女と、和服を着た女神が立ち話をしていた。
「で、三人とも落ち着いた?」
女神の言葉に不承不承うなづく高校生達。
一人だけの男子はイケメンで、身体も鍛えてそう。勇者候補かな?
二人いるJKは、片方がショートのウルフカットで、元気っ娘、片方が黒髪ロングの清楚系。役どころなら聖騎士と聖女ってかんじ。
「異世界転生だという事は理解しました。でも、なぜ僕らなんですか?」
勇者くんが最もな質問をしてる。
「う~ん、答えるのが難しいんだけど、ぶっちゃけ誰でも良かったみたい」
「「「 えっ? 」」」
うわ、女神さま本当にぶっちゃけたよ。
「正確には、あの時点で亡くなっていて、英雄になれる素質があって、素直に言うことを聞きそうな魂?それがあちらの希望だったわけ」
「呼ぶために寿命に関与したとかは?」
聖女さんが、なにげにエグイこと聞いてるし。
「ないない、そこまでやったらこちらも容赦しないからね。きっちり落とし前つけたうえで、以後出禁かな」
「ほな、正規ルートやったら、うちらは転生するしかないってことやん」
聖騎士がボヤいてるけど、確かに選択肢はないような気が。
「それがねえ、ちょっと裏がありそうなのよ」
「「「 裏? 」」」
ここから先は、内緒話になったので聞き取れなくなっちゃった。
まあ、こちらの担当女神様が親身になってくれてるから、あの3人は大丈夫でしょ。
「あたしは英雄の素質とかなくて良かったかも」
勝手な都合で転生されて、魔王倒して来いとか無茶だもんねえ。
しかも本当に困り果てての英霊召喚ならまだしも、呼んでやったんだから働けみたいな態度でこられたら、プチッと切れちゃう自信があります。
「さてさて、あたしにはどんな転生が待っているのかな」
ちょっとだけ、楽しみ~




