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大森林その4

夜中にトイレに起きたら、熊に襲われた件。

 初めての戦闘で熊を倒した俺は、現在、2羽を助手にして、絶賛、解剖中である。


 死体となっても巨大すぎて、一人では動かすこともままならないので、その場で腑分けしていく。

 まず、4方に『ライト』を浮かべて光源を確保しつつ暗がりを無くす。


 すぐ側に『ディグ』で穴を二つ掘り、片方に『クリエート・ウォーター威力まし』で水を溜める。

 これは血を洗い流す為である。


 解体ナイフに類する刃物が、まったくないので、『プラントフォーム』で木製の大型ペーパーナイフやバールを何本も作り、無理矢理切り開いていく。

 硬い筋は『ウィンド・カッター』で切断していく。


 「3番メス」

 「クワッ」

 「2番バール」

 「クワッ」

 「汗」

 「「 クエッ? 」」


 コットンで額の汗を拭うことまでは理解できなかったようだ…


 「さて、ざっと所見を出しておこうか」


 両手に巻きつけた薄い葉でできた手袋を解除しながら、誰にとも無く語りかける。

  

 「「 クエッ 」」


 「被害者は、頭部の中心をかなり深くまでを高温で焼かれており、これが直接の死因と見られる」


 「カアー」


 「身元の判別はまだだが、体長3m、推定体重500kg、ヒグマの亜種の雄と思われる」


 「カアー」


 「犯人は不明」

 「クエエツ?(マスターでは?)」


 「という事にしておけ」

 「「 カアー(了解です) 」」


 「先ほど、ヒグマの亜種と呼称したが、身体的特徴はヒグマもしくはグリズリーと呼ばれるハイイログマに極似している」


 「「 カアー(まあ、熊ですね) 」」


 「ただしその表皮は、暗赤色に変色しており、両前腕の鉤爪も異常な強度を保有している」

 「また体内には、心臓部の横に結晶化した鉱物が埋まっており、あきらかに野生動物とは一線を画している」

 

 「「 カアー(見たまんまですよね)」」


 「以上の事から被害者は、ハイイログマから派生した魔獣であり、体内にあった鉱石は魔石であると断定するものである」


 「「 デスヨネ 」」


 結論からいうと、何も判明しなかった…



 さて、この熊モドキの死体をどうしたものやら。


 肉だけで400kgぐらいある。しかも俺はいらない。

 今は、フギンとムニンが取り付いて、美味しそうに啄ばんでいるが、見た目がとてもシュールだ。

 (バラされた熊の死体を啄ばむ2羽のカラス)


 一応、魔石と両腕の鉤爪、心臓と肝臓は取り除いておいたが、解体スキルなどないので、残りはボロボロである。


 皮は丈夫そうだが、綺麗に肉を削いでから、なめすような道具も技能もない。

 

 死霊魔法でもあれば、アンデッド化して従魔にできたが、それもない。


 「…埋めるか」




 「デイグ範囲まし、深さまし」


 2羽が満腹になったのを見計らって、死体の真下に大きな穴を掘った。


 すっぽりと穴に落ち込んだ死体は、呪文の効果が切れ次第、土へと還元されるであろう。


 「気休めに、祝福しておくか」


 土に埋まっても、この巨躯である。すぐには還元されないだろう。

 その間に偶然にアンデッド化されても嫌だ。


 少し埋める位置が、基地に近すぎたかもしれない。

 まあ、動かせないから仕方がないのだが。


 「さて、誰に祈ればいいのやら」


 神聖魔法はランク1しかない。

 もう少し上のランクには、アンデッドを浄化して、さらに復活を妨げる呪文もあるが、今は使えない。


 しかも俺自身が特定の神を信仰しているわけでもないので、甚だ効果に疑問が残る。


 ただし信仰神が決まっていないのは、神職についていなければ普通のことで、多神教の信仰が主なこちらでは、その都度、祈る神をかえている。


 豊作を祈るなら『大地母神』であるし、戦争で勝利を祈るなら『戦神』である。


 「この場合は、『死と安息を司る神』か『森と狩人の守護女神』のどちらかかな」


 街で遺体を弔うなら前者であろうが、場所と経緯を考えれば後者になる。


 「森と狩人の守護女神たる『フレイア』よ、魔に堕ちし汝の眷属に安らかなる眠りを与えたまえ『ブレス(祝福)』」


 詠唱を短縮しないと、ランク1の呪文でもこの長さである。

 まあ、神聖呪文が事のほか仰々しい為でもあるが。


 ブレスは神聖魔法ランク1で、簡易的に神の祝福を与える呪文である。

 正式な祝福は、教会か聖域で、しかも高位の神職の元に執り行われる儀式が必要になる。


 ただし、簡易的といってもその効果は多岐に渡り、バフとして掛ければ対象の命中率を上昇させるし、武器に掛ければ邪霊や妖魔に特効となる。

 今回のように、死体のアンデッド化の抑止にもなるし、新生児が妖精に連れ去られるのを防ぐ事もできる。


 その後、肉食獣が寄ってこないように、『プラントフォーム』で蓋をしておいた。

 しかし、手元に残った素材はどうしたものやら…


 将来的に錬金術の素材に使うかもと思って、価値のありそうな部分を剥ぎ取って見た。

 

 「魔石や鉤爪は良いけど、心臓と肝臓はなあ…」


 一応、大き目の葉っぱで、ちまきの様に包んであるが、すぐに腐りそうである。


 「熊の胆は乾燥させるんだったか」


 漢方薬で有名な『熊の胆』は、熊の肝臓を乾燥処理させたものである。

 ただ、その詳しい工程がわからないので、なんとも言えない。


 「生で食べたほうが効果がありそうだけどな」


 猛獣を倒したら、その強さを取り込む為に食べる。

 冒険者の間でも密かに伝わっている、魔物の内臓あるあるである。

 ただし寄生虫の知識が無いので、加熱しないで食べると、腹を壊すどころか食い破られて死に到る。


 「素人の生食ダメぜったい」


 

 錬金術スキルには、珪素石もしくはガラスの破片から、ガラスの容器を作り出す技能がある。

 俺も一応エランク3あるので、材料さえあれば、フラスコやビーカー、保存瓶にシャーレーなどが製作可能だ。

 しかし錬金術は魔法ではないので、無から有は作れない。


 「対価が必要ってことか」


 一瞬、先ほど埋めた熊の死体が頭に過ぎったが、女神に祈った手前、自粛した。

 

 「まあ、なんでも生け贄に捧げれば良いわけじゃないしな」


 あくまで錬金術は生産系技能スキルである。

 素材から完成品に到る過程で、魔法のような凄技を披露したとしても、そこには技術と知識が存在している。

 なんでも良いから邪神に捧げ物をすれば、望んだ力を授かるというのとは違う。(はずである)

 (もしかしたら世界のどこかには、捧げた心臓の重さと同等の純金を信徒に与える錬金邪神なる存在が居ないとは言い切れないが)


 とにかく手持ちのリソースでは、生肉を清潔に保管する容器は作り出せなさそうである。


 「仕方ない、保管場所だけは用意するか」


 シェルターに置いておくと、臭いが気になりそうである。



 「ヒドゥン・トレジャリー(隠された宝箱)」


 ヒドゥン・トレジャリーは、空間魔法ランク3で、亜空間に宝箱を保管し出し入れする、アイテムボックスの劣化版みたいな呪文である。

 保管できる宝箱は、縦1m、横幅1・5m、高さ1mで、重量軽減や容量拡大、時間経過遅延などの特殊な効果は付与されていない。

 隠し財産を、安全な所に保管しておくだけの呪文である。


 そうは言っても、宝箱自体がかなり大きいので、5・6人の予備装備は余裕で入るし、こうやって置き場の無い貴重品を一時保管するにも最適である。


 生ものを入れっぱなしで忘れてしまうと、次回呼び出したときが地獄ではある。


 出し入れに、都度、呪文が必要なのが難点だが、俺には丁度良い自己鍛錬だ。

 積極的に使って行きたい呪文の一つと言えよう。

 



 結局、宝箱を送還し終わったのが夜明け近く。


 もう2羽の契約が終了する時間である。



 ここで別れれば、次に召喚しても別な個体になる可能性が高い…


 「よく働いてくれたよな」


 「「 カアー 」」


 「『フギン』と『ムニン』の名はお前たちにしか与えないから…』


 「「 カ、カアーー(マ、マスターー) 」」



 「だから、延長な」


 「「 クエッ? 」」


 俺は再度MPを込めると、サモン・ファミリアの呪文を継続した。


 「これで明日の夜明けまで、また一緒にいられるぞ」



 「「 クエックエッーー(よろこんでー) 」」


ここで一旦、ハイエルフの引き篭もり生活から離れて、もう一人の主人公を追ってみよう。

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