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転生図書館その12

やっとここまで来ました。

 『転生の書 最後のページ』


 前世名 森本幹夫  転生名 『         』

 性別 男性

 種族 ハイエルフ 草食・昆虫食のみ 非金属武具のみ エルフ以外と同行しない

 職業 魔導師   武器は杖のみ 防具はローブのみ 弟子は一人のみ

 社会的地位 隠者

 能力値 筋力9 体力9 敏捷力12 知力19 精神力15 魅力16

 スキル 水魔法4 風魔法1 土魔法5 光魔法5 闇魔法3 樹魔法4 

     空間魔法4 神聖魔法1 召喚魔法1

     魔法知識6 古代知識5 宗教知識4 世界知識4 動物知識3 植物知識3 鉱物知識4

     魔力増強6 魔力制御5 詠唱短縮5

     聞き耳1 算術4 教育4 錬金術3

 装備  巡礼装備(貫頭衣、サンダル、水袋)

 所持金 無し

 残りカルマポイント 0


 最後のページには、今まで選んできた項目が並び、転生名の部分だけが空白で、枠だけ明滅している。


 「これが俺の次の人生の姿か…」


 転生トラックに巻き込まれたのは不運で、転生後を自分で選べたのは幸運。

 『禍福は糾える縄の如し』とはよく言ったものだ…


 転生名に署名すれば、完成になる。


 後悔が無いとは言えない。

 未だに召喚魔法を切って、他を上げる選択もありだと悩んでいる自分がいた。


 しかし何をどう選んでも、後悔はするだろう。

 ならば、これで良い。


 「転生名は、バークレイ・ノースウッド」


 意味は特に無い。



 


 署名をすると、転生の書が薄っすらと光り輝き出した。


 固唾を飲み込みながら、その瞬間を待ち受ける…


 やがて……

 

 

 転生の書の末尾に、文字が現れた。



 『お疲れ様でした。受付カウンターの司書に提出して下さい。』



 「このまま転生するんじゃないのかよ!!」




 てっきり署名が済んだ瞬間に、転生の書がパタリと閉じて、床もしくは書の表紙に魔方陣が浮かび上がって、そのまま吸い込まれるように転生するものと想像していたのに…


 大声でつっこみをしてしまった俺は、図書館の受付カウンターで司書さんに怒られていた。


 「3度目」

 「すいません…」

 「聞き飽きた」

 「ごもっともです…」

 「じーー」

 「反省しております…」


 長いお説教(言葉は短め)の後で、やっとお許しがでて、転生の書を受け取ってくれた。


 「ずいぶん粘ってた」

 「ああ、俺どれくらいの間、あそこに籠もってました?」

 「10日と13時間27分54秒」

 「うえっ!?」


 じっくり悩んでいたのは認めるが、10日って…

 というか秒単位で計測されてたのかよ…


 ふと気になって、カウンターの後ろにある、返却用の棚に目をやった。

 そこには俺がここに来たときには、確かに無かった新しい転生の書が置かれていた。


 「誰か先に逝ってる?」


 司書は俺の視線に気づくと頷いた。


 「2時間で終わってた」


 まじかよ、どれだけ決断力がある奴なんだ…

 

 まてよ、俺と同時期に、この寂れた図書館に来たとするなら…


 「寂れてない」

 「あ、そうですね」

 「少し空いてるだけ」

 

 その自覚はあるんだ。

 

 まあ、受付番号も後半だし、イレギュラー対策だとすれば、そんなに訪れる魂はいないか…


 「ん。だから楽しかった」

 「それは何より」

 「独り言が」

 「忘れてくれ!」


 全部聞かれていた事を思い出して、穴があったら入りたい思いに駆られた。


 「なぜ防音室じゃないんだ…」

 「望めばできた」

 「なんだって!?」


 俺より後から来て、先に逝った誰かは、個人用閲覧室に入るとすぐに遮音機能を展開していたそうだ。


 まあ、遮音した理由は、自分の声が聞かれることを恥じたのではなく、隣人の迷惑にならない様にという配慮かららしいが…


 「それで次の人物が来たことに俺が気がつかなかったのか」


 「熱中してただけ」

 「さようで」


 どうやら周囲に一切の注意を払わずに、カスタマイズにのめり込んでいた俺の失敗らしい。


 「会ったら、声ぐらい掛けようと思っていたんだが…」


 教育者として挫折して、社会の不条理から目を背けていた俺とは違って、彼女には無限の可能性が待っていただろうに…


 「…」


 そのつぶやきに司書が応えることは無かった。


 その代わりに、カウンターの下から一冊の銀色の本を取り出した。


 「ん」


 「これは?」


 「餞別」


 そう言って差し出されたのは、転生の書とはまったく違う、煌びやかな銀の装丁の本だった。

 その表紙には


 『スキルの書 ~魔法改造~ 』


 と書かれていた。


 「貴方は長命種を選んだ」


 「寿命の問題ですか?」


 「そう」


 人族が80年ぐらいの寿命であるのに対して、ハイエルフは千年近く生きるらしい。

 長命種は人生に飽きて、自ら命を絶つ者も多いそうだ。

 ましてや、人族の前世記憶がある魂では、耐えられない可能性が高いと。


 「趣味は大事」


 「そう言われると、老人のボケ防止みたいなんですが」


 「みたいなもの」


 エルフの長老達が、ゲートボールや健康麻雀に勤しんでる姿が目に浮かんだ…



 

 やがて俺が銀色の本を抱えたのを見届けると、司書さんが厳かな声で語り始めた。


 『汝、旅立ちの準備は整ったか?』


 「…はい」


 『ならばここに、新たな人生の1ページが開かれる事を宣言する』


 その声と同時に、俺の足元に魔方陣が浮かび上がり、眩しい光を放ち始めた。


 「色々ありがとうございました」


 つま先から霊量子に変換されていきながら、最後に司書さんに頭を下げた。


 

    『よき転生でありますように』


  

 司書さんが始めて笑顔を見せてくれたような気がした……





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