第57話 進展
どーも、お久しぶりです。
今回は2つのサイドで結構重要なキーワードが出てくるかもしれません。出ないかも知れません
「武器にはそれ自体に大きな能力を持っていたはずだ。なのに今はただの武器でしかなくなっている」
ガンドロフの能力ゆえに、武器の能力を殺しているって訳じゃない。おそらく俺の能力のせいだ。少なからず創造能力が働いて、自分に最適な武器を作り出そうとしているんだ。だから能力を殺している……のか?
最近薄々感じ始めているんだけど、創造能力は弊害が多いような気がする。ただ魔力を膨大に消費するだけじゃなくて、もっと別の何かが……。
「取り合えずきっかけを与えておく。それを生かすも殺すもお前次第だ」
短くそう伝えると、俺の手のガンドロフに触れると短く何かを呟く。瞬時ガンドロフが『紅・蒼・碧・茶・黄・黒・白・金』の順で光りそして収まる。
それは上位属性を含んだ、7つの属性+αだったのだ。
◇◆◇◆◇
「失礼します、お嬢様」
「ヨミ」
ルビニア学園1年生徒会室。イツキとまなか、所謂異世界組をフレイス王国へ置いて残りのメンバーは学園へ戻るようにヤスラから言われていた。
それは単純に生徒会の雑務があるからという理由だけではない。1つはイツキが指摘した通り、マノヒ達の行動を監視、出来れば目的を探る事である。しかしそれだけではない。
薄々と感じていたが、イツキの告白及びまなかの登場で確定となった異世界の存在。しかしそれは良いことばかりではない。
魔法があるとは言え、時空を世界を超えるなんて事は出来るわけが無い。それは上級魔法でも、おそらく古代魔法でも出来ない。謂わば神の所業。普通の人間が立ち入れる領域ではない。
しかしそれが現実に起こっていると言うのだから、この世界が、いや2つの世界で何か起きようとしているのかもしれないとヤスラは考えたのだ。そしてそれを調べる為に彼女はイツキを除く全員に調査を指示して自分も別の場所へと調べに行ったのだ。
「セシリアさんとイオリさんから資料を預かってきました。資料って言うか、私達が見落としていた事を」
「見落としていた事?」
「取り合えず一端全員で集まってみましょう。他に何か分かる事があるかもしれません」
学園に帰ってきてから3日。確かに各々が場所に行って情報を調べているので、全く連絡など取れていない。ここで1度会っておくのも良いかもしれない。
早速ティアは携帯を取り出して皆に連絡をする。したくはないが、一応シルビアにも連絡をする。幸い2時間もすればみんな揃うとの事で、それまでの間ティアは自分の調べた分の情報を纏める作業を始めた。ヨミはヨミで自分の作業をしているので自分でやらなければならない。
しかしさっきの一言が気になる。少し見るだけと思って、先程受け取った資料を眺める。
「なっ――」
そこに書かれていたのは正気で言っているとは思えない事だった。仮に自分達ではなく彼らが生徒会となっていた時に起こりうる事象について纏めてあるのは良い。しかし最後の1枚に、先輩達が考えてはならない事が書いてあるのだ。
「2年生徒会に裏切り者が居る可能性――」
◇◆◇◆◇
結局ガンドロフが光っただけで、それ以外には特に何も起こらず俺達は店に入る人と入れ違いに武器屋を後にした。結局俺の武器の使い方がまずかったってのは分かってけど、何が変わったって訳じゃ無い。
何か創造能力も絡んでいそうな気がするけど、この事を相談するのにはもう少し時間置きたいような、気持ちの整理をしたいような。
怖いんだよ、自分が望んで手に入れた力なのにいざそれが知られると皆が離れていきそうで。それ以上にこの力の存在が別の、例えばよからずの奴らに知れ渡る事が。
言うとしても1・2年の生徒会とヤスラ先生だけで他に言わないから信用できるはずなんだけど……。本能がそれを拒絶する。
「これからどうするんだ、ナルフィア」
「そうじゃのぉ。別にこのまま帰っても良いのじゃが、それじゃあちと味気ないじゃろ」
「私は2人がさっきから話してるのが意味分かんな過ぎて頭が痛い。何でイツキが理解できるのよ、イツキのくせにっ!!」
いやいや、コイツ向こうでも成績そんなによくなかっただろ!? バカみたいに食ってその後授業寝るから、毎回俺もあまり点数良くないのに大輔と一緒に勉強教えてたのに。
体育は成績よかったんだけどね。1番悪いのは国語。理論的に考えるなんて不可能だし、登場人物の気持ちなんて知るもんか。良い性格してるよ、全く
「はいはい黙ってようねぇ。うるさいのはこの口かなぁ?」
「ふぁ!? はひすんのほ~。ふっほろふっ!!」
いきり立ちながら、まなかは自慢の回し蹴りを俺に当てようとその場で一回転する。しかしそれでは予備動作が大きすぎる。避けるのは叶わないにしろ、物理障壁を展開するのには十分な時間がある。無詠唱で痛みを感じない程度の障壁を展開するのは造作も無い事だ。
そう、普通であればだが
「げふぅ!?」
俺は文字通り空中に浮き上がった。本来かかるはずの重力を上回る力で空中へと押し出される。そして腹へダイレクトにくる鈍痛で俺は思わず空気を吐き出す。
展開したはずの障壁を見ると、粉々に砕けて霧散していた。
おかしいと思いながらも取り合えずは現状をと思い、俺は魔力を右足へ集中させて虚空を蹴りダメージを相殺していく。そして着地
「おいおいおい、お前魔法使えなかったんじゃ無いのかよ!? 何ちゃっかり障壁抜いてるの!?」
「はぁ!? アンタまた私の分からないショウヘキ? なんて使ってぇ!! 消すわよ!!」
消すわよって、既に消されて威力に補正かかった攻撃を腹に喰らってるわけなんですけど? そもそもまなかは魔法が使えないってこの前言ってたはずなのに、障壁を抜くなんて魔法が使えなきゃ出来るわけが無い。
「魔法が使えないからこそ、魔法を拒絶出来る」
「えっ?」
ナルフィアが神妙な顔つきでまなかを見る。しかし言ってる意味が分からない。
「そもそも異世界から来たと言う事自体がおかしいのよ。一体誰がそんな事をさせる事が出来るって言うのじゃ?」
「俺の場合は自称神様だったけど」
「そう、アナタ達の世界にもしそんな事が出来るとするならばそれは神かそれに順ずるもの。わらわ達ただの魔法使いには出来っこない。だからこそこの世界に連れて来る時に何らかの現象が起こっても不思議ではあるまいのぅ」
「俺の時がこの『魔法喰らい』であるようにか?」
こくりとナルフィアが頷く。そもそも何故まなかがこちらの世界に来ているのかが分からない以上、何とも言いようがないのだがやはりコイツも何か持っているのか?
「そうじゃのぉ。これは実際には無いのじゃが、良くある御伽噺でしか聞いた事が無いんじゃがな。そいつは生まれてから魔法と言うものが使えんかったのじゃ」
そこからナルフィアの話は始った。
兄弟や街の友人達は魔法が使えるが、少年は何年経っても全く魔法と言うものが使えなかった。その事でいじめられる事もあったし惨めな思いをする事も、数え切れない程あった。
ある時少年の町に魔獣が出た。もちろん魔法の使える兄弟や友人達は必死に持てる力を使って街からその魔獣を排除しようとしたが、魔獣の使う魔法が全く見た事の無い強力な魔法で全く太刀打ちする事が出来なかった。
もう打つ手が無いと思われた時に、魔法の使えない少年が街に現れたのだ。何を馬鹿な事をと少年を止めようとしたが、少年は関係なく前へと進んでいった。そして魔獣は彼に狙いを定め、魔法を放つ。
悲しい目をしながら少年は死を受け入れようとした。それで少しでも多くの人が逃げられるなら才能の無い自分が出来る最期の行動だと。
「しかしそこで奇跡が起こった。魔法の使えない、拒絶されていた少年が今度はその魔法を拒絶したのじゃ」
「拒絶ってまさか無効化したのか、その攻撃を」
頷きながらもありきたりな展開じゃがなと付け足すナルフィア。
しかしそれでもまなかは真剣な表情で聞き続けた。まるで自分を物語の主人公になぞらえるかのように
「魔獣は少年が魔法を無効化している間に、他の魔法使い達が攻撃をして倒した。そしてその事があってから少年は恐れられた」
「どうして? 助けてくれたのに、何で恐れる必要があるのよ!?」
「魔法を持ってるものからすれば、自分達のアドバンテージが何も使えないのじゃよ? そんなもの恐怖でしかないであろう?」
「そんなのって……」
まなかが言いたい事が分かるが、ナルフィアの言っている事は正しい。御伽噺だからそのままハッピーエンドで行くと思ったら、妙にリアルすぎるだろ。
でも俺は分かる。この世界で魔法の使えない者はどこかしら魔法の使える者に怯えている。結局力を持つと言う事はそう言うことなのだ。
この場合は逆。力を持っていた者が、それを零にする者が出てくれば必然的に弱者の方へと成り下がる。皆が強者になれるわけではないのだ。
「最後に少年は魔法使い達から自分達の存在を脅かす者としてこう呼ばれる。『魔法殺し』と」
「じゃあ何? 私の力はその『魔法殺し』ってヤツなの?」
「何とも言えないんじゃがのぉ。本当に魔法を無効化出来るか自体怪しいしのぉ。いっその事、イツキが魔法を放ってみるか?」
「そうだな、んじゃ失礼して」
そう言って俺はまなかの顔の横ギリギリめがけて炎を放つ。まなかが避けようとするよりも先に炎が彼女の横を通り過ぎ、そのまま背後の物陰へと吸い込まれて行く。
「びっくりしたぁ。もっと弱めでちゃんと狙いなさいよ!!」
「出て来いよ、武器屋からずっと着いてきやがって」
まなかの言葉を無視しながら、俺はそう告げる。そうするとギリギリよけたのか、服が少しだけ焦げている男達が5人程出てくる。
たまたま同じ方向に来ているにしては出来すぎていると思っていたけど、尾行か? 理由はありすぎて良く分からん。
「どこから気付いていた?」
「まず武器屋だ。あんな所に入ってくるヤツなんて常連か、俺みたいに知り合いに連れて貰わなきゃ分からないだろ。それなのに店に入るとキョロキョロしてたし、横を通り過ぎる時に俺達に視線を投げすぎだった」
「それで出た後からずっとついっておったろ? 何もしなければ放っておこうと思っていたじゃがの」
やっぱりナルフィアは気付いていたか。だけど俺もナルフィアと同じく何もしないならって思ってたけど、流石にまなかの今後を考えるとここで検証する事なんて出来なかった。
「まなか、ナルフィアと一緒に離れてろ。お前達が居ても戦えないし、ここでさっきの事を試す気にはならないからな」
「まぁ心配せんでも、こんな下賤共ならわらわだけでも倒せるわ」
そう言いながらも自分が王女であると言う事を良く分かっているみたいで、ちゃんと後ろへと下がっていく。
安全な所まで行ったのを確認して、俺は前へと向き直る。
「んで、お前達は何の組織だ? 誰に雇われた?」
「はン。お前にそんな事教えるわけないだろ?」
ルビニア学園、それも1年生の生徒会長ともなれば必然的に狙われる率が高くなる。ただの向こうの学校の生徒会長とは訳が違うのだ。俺が負ければ、それだけでルビニアの評判が落ちる。ルビニア以外にも魔術学園は多くあるのだ。
だけどもし同じ学園の、知っているヤツなら。
「聞いたぞ、お前。自分のレアスキルが使えないらしいな」
やっぱり。多分マノヒ達が仕掛けたと見て間違いないな。決め付けは良くないが、俺達の仲間以外でそれを知りえるのはおそらくアイツらだけだろう。
「残念だけど、お前らなんかに魔法なんぞ使わなくっても勝てるんだなこれが」
「強がりを」
確かにガンドロフがどんな風に変わったのかは俺も知らない。いや、もしかしたら何も……
(いいか、主よ。さっきの主人の言葉を思い出すのだ。そうすれば、今の主なら抜く事が出来るはずだ)
剣か。ただの剣なら引き抜く事は容易い。しかし今俺が求めるのはあの日、最初に出会った時に置いてあったあの剣。俺のせいで形を歪めてしまった剣だ。
抜けるかどうかは俺次第。
「死にさらせェぇええええええええええ!!」
リーダー格の男が叫ぶと、一斉に男達が襲い掛かってくる。
俺はそれを見ると、ゆっくりと目を閉じてガンドロフに触れる。その瞬間何かが俺の頭の中に流れ込んでくる。
「剣は本来、鉱物から造られる。魔法石も元を辿れば鉱石だ。つまりは土の属性を宿す」
徐々に男達の足音が遠くなる
「セイウェンの鳳雨のように無理やり水属性だけをとしなければ大体は残るけど、その効果は微々たる物だ。その魔法石を雷で鍛える事でこの剣は出来上がった」
指先に何かを感じ取る。しかしまだ剣は抜けない。
さっきから俺の口から出ているのはおそらく剣の封印を解く為の呪文であり、剣の成り立ちであろう。それを自分自身に刻み付ける事で、抜ける。気がする、多分
「だがそれだけでは5つの属性のうち、2つしか付属する事は出来ない。だからこの剣を造ったヤツは、この剣の名前に残りの属性を託して言葉遊びをしたんだ」
今なら分かる。この剣の名前、この剣の力、そしてこの剣自身を。
だからゆっくりと俺は指に当たるそれを抜きながら、この名前を叫ぶ。
「『飛燕』」
火炎であり、氷、つまり風と水の合成である2つの意味を持たせる事で最後に3つの属性を付加させた剣。魔法を使えないものに、それでも魔導師に立ち向かうために造られた剣!!
「さぁ、始めようぜッ!!」
紅 魔術辞典
・飛燕
特別な魔法石を雷の力で鍛えた剣。本来とは全く異なる物質と鍛え方をしているのでかなり異質。名前には火炎と氷に置き換えられるようにして一見言葉遊びしているように見せて、実は魔術的な意味がある。
その能力は魔術師に対抗するためのモノらしいが……。
使用者:神宮司斎




