4-25 サフィニアの失墜
春の穏やかな日差しが差し込む午後――
サフィニアは淡い水色のドレスに身を包み、侍女ヘスティアと共に貴族たちのお茶会に出席していた。
公女教育を終えたいくつものお茶会や舞踏会を経て、サフィニアは社交界で「控えめで、品位ある令嬢」として知られるようになっていたのだ。
サフィニアの周囲には、親しく言葉を交わす令嬢たちの姿もあった。
侯爵家令嬢や伯爵令嬢たちとは趣味や読書の話題で意気投合し、手紙のやり取りも始まっていた。
サフィニアは少しずつ自分の居場所を見つけているような気がして嬉しかった。
「サフィニア様、今日もきっと素敵に振る舞えますよ」
隣に立つヘスティアの言葉にサフィニアは笑顔で返事をした。
「ありがとう、ヘスティア。頑張るわ」
お茶会の会場は、美しい花々が咲き乱れる庭園だった。子息令嬢たちが次々とサフィニアの周りに集まってきたので、一人一人と丁寧に挨拶をしていく。
サフィニアの姿は凛としていて、周囲の視線は自然と彼女に集まっていた。
そして、サフィニアの様子を遠くから見つめる影があった。黒いレースのドレスに身を包み、帽子で顔を隠した令嬢――セイラだった。
「どうして……どうしてサフィニアが、あんなに周りからチヤホヤされているのよ……」
悔し気に呟くセイラの顔は嫉妬にまみれていた。
いまや、セイラはサフィニアへの憎悪にまみれていた。そこでセイラは帽子を目深にかぶり、誰にも気づかれぬよう会場の隅に忍び込んでサフィニアの背後へと近づいていった。
そして突然行動に移した。
「サフィニア!」
突然大きな声で名前を呼ばれ、サフィニアとヘスティアは驚いて振り返った。すると、憎悪に燃えた瞳でこちらを睨みつけているセイラがいる。その手にはティーカップが握りしめられている。
「セ、セイラ様……?」
まさかここにセイラがいるとは思わず、息をのむサフィニア。
「お前のような下賤なメイドの血を引く娘に、結婚相手が見つかるはずないでしょう!? この恥知らずめ!」
セイラはサフィニと供に、手にしていたティーカップの中身をいきなり浴びせかけてきた。
バシャッ!
途端にサフィニアのドレスが紅茶の色に染められ、濡れてしまった。
『……』
会場は一瞬で静まり返り、誰もが息を呑んだ。
サフィニアは驚きに目を見開き、濡れたドレスの裾を見下ろす。ヘスティアがすぐに前に立ち、彼女を庇うように言った。
「セイラ様! このような場で一体サフィニア様に何をされるのですか!?」
「ヘ、ヘスティア……」
身を挺して自分を守るヘスティアにサフィニアは目を見開く。
「……っ!」
一瞬言葉を失うセイラ。
周囲の視線が自分に向いていることに気づくと、顔を真っ赤にして叫んだ。
「な、何よ……何か文句ある? わ、私はエストマン公爵家の正式な娘よ!? あんな偽物とは違う! それなのに……そんな目で私を見るなんて……何て失礼な人たちなの!」
だが、その怒りは周囲の冷たい視線をさらに集めるだけだった。サフィニアはショックで茫然と佇んでいると、親しくしていた子息令嬢たちの声が、風に乗って聞こえてきた。
「サフィニア様って庶子だったの? そんなこと、初耳よ?」
「酷い……私たちを騙していたのね……」
「メイドの娘? それじゃ半分は貴族の血が入っていないのか?」
サフィニアは信じていた人々の言葉が、こんなにも冷たく、こんなにも簡単に自分を拒絶するとは思っていなかった。
「……私……騙すつもりなんて……」
サフィニアは小さく呟くと俯いた。
ヘスティアは、そんなサフィニアの手をそっと握った。
「サフィニア様……もう行きましょう。ここにいる必要はありません」
「ヘスティア……ありがとう」
サフィニアは頷くとヘスティアと手を握り合い、お茶会会場を後にした。
その手の温もりだけが、サフィニアの救いだった。誰もが離れていく中でヘスティアだけは変わらず傍にいてくれる。
サフィニアはヘスティアの手を強く握りしめた――




