4-22 静かな波紋
――翌日
朝食を終えたサフィニアは自室で自習をしていた。
けれど昨夜の出来事が頭から離れず、いつものように勉強に集中することが出来なかった。
「……私、本当にセイラ様に憎まれているのね……」
仮にも半分は血が繋がっている姉なのに。
離宮に無断で侵入してくるほど憎まれていたという事実は、まだ10歳のサフィニアにとっては胸に堪えた。
その時。
―コンコン
部屋にノックの音が響き、ヘスティアの声が聞こえてきた。
『サフィニア様、よろしいでしょうか?』
「ええ、どうぞ」
返事をすると扉が開かれ、ヘスティアが姿を現した。
「サフィニア様、セザール様がサフィニア様にお会いしたいといらしています。リビングにお通ししているのですが、どうしましょうか?」
「え? セザールが?」
セザールが訪ねてくるのはリーネ侯爵令嬢の誕生パーティー以来だった。
「ええ。もちろん会うわ」
サフィニアは笑顔で立ち上がるとリビングへ向かい、ヘスティアも後を追った。
****
「セザール!」
サフィニアは笑顔でリビングに入って来た。
「サフィニア様。御無沙汰しておりました」
椅子に座っていたセザールは立ち上がると、挨拶する。
丸テーブルに3人着席すると、セザールは早速語り始めた。
「サフィニア様、それにヘスティア嬢。最近、何かと多忙でこちらを訪ねることが出来ず、大変申し訳ございませんでした」
頭を下げるセザールにサフィニアは首を振った。
「いいのよ。だって、セザールは忙しい人でしょう? それに、いずれはセイラ様の専属執事にいずれなるわけだし」
「……そう、ですね」
すると何故かセザールは曖昧に微笑むと、言いにくそうに口を開いた。
「……このことを告げようか迷ったのですが……今から数日前に偶然セイラ様の部屋の前を通りかかりました。そのとき……セイラ様の呟きを聞いてしまったのです。次こそは、絶対にサフィニア様のことを潰すと……」
「!」
ヘスティアは目を見開き、サフィニアは息を呑んだ。セイラの敵意は感じていたが、そこまで明確な言葉を口にするとは思っていなかった。
「実は昨夜セイラ様が、一時的に屋敷の外へ出ていたのです。ご本人は『数日ぶりに雨が止んだから庭を散歩してきた』と話されていましたが……どうにも気になってしまって。それで伺わせていただきました」
するとヘスティアが興奮気味に説明した。
「セザール様、聞いて下さい。実は昨夜、セイラ様が黒いマントを被って離宮に侵入してきたのです!」
「何ですって!? セイラ様が!?」
セザールは目を見開く。
「はい。セイラ様がこの部屋に入ろうとしていたので、私が背後から声をかけました。すると、この離宮は自分の物だと言ったのです。もちろん、ここはサフィニア様の住まいで、勝手に入ることは許されませんと告げましたけど。そしたら、とても悔しそうにしてらっしゃいました。その時、サフィニア様が現れてセイラ様にお茶を勧められたのです」
「そう……だったのですか?」
セザールはサフィニアに視線を移した。
「ええ。雨上がりで……外が冷えているのではないかと思ったの。でも、余計なお世話だったのかも。かえって怒らせてしまったのかもしれないわ」
「サフィニア様……」
自分を陥れるために訪ねてきたセイラを、お茶でもてなそうとしたサフィニアの度量の広さに、セザールは心を打たれた。
そして、それとは真逆なセイラが抱える心の闇。
(このままでは……いけない!)
セザールは一度俯き……顔を上げた。
「……すぐに祖父に報告します」
「え? セザール。別に報告はしなくても……」
「いいえ。こういうことは、はっきりさせておかなければなりません。訪ねたばかりで申し訳ございませんが、これで失礼いたします」
セザールは席を立ったので、サフィニアは声をかけた。
「ねぇ、セザール。また……来てくれるわよね? 」
「……はい。また伺います」
セザールは笑みを浮かべると、離宮を後にした――




