4-18 セイラの策略 2
「あの!」
我慢できなくなったヘスティアが言い返そうとするのを、サフィニアは首を振って止めた。
「さっき、裏が無いって言ってたけど……これを見てもまだそんなことが言えるのかしら?」
セイラは、懐から一枚の紙を取り出した。
「ほら、見なさいよ。これは、あんたが歴史の家庭教師に宛てた手紙よ。内容は……もっと授業内容を簡単にして、自分を特別扱いしてほしいって、手紙に書いてある。あの家庭教師が困って私に手紙を持ってきたのよ」
ヘスティアが目を見開いた。
「嘘です! サフィニア様はそんなことを絶対にしておりません!」
「うるさい! 侍女は黙っていなさい! 私は今サフィニアと話しているんだから!」
セイラが一喝すると、サフィニアの前に手紙を置いた。
「……見せていただきます」
サフィニアは、紙を受け取り目を通した。
確かに筆跡は似ている……だが、繊細な癖がこの手紙には見られない。
第一、こんな手紙を書いたことなどサフィニアは一度も無いのだ。
「これは、私が書いた手紙ではありません」
サフィニアは顔を上げた。
「そうかしら? でもこの手紙を他の家庭教師に見せたら、どう思うかしらね? あんたが、媚びて評価を得ていると知ったら……他の家庭教師たちは失望するでしょうね。お父様にも報告してやるわ!」
セイラが勝ち誇った声を上げたそのとき――
「それは、全くのでたらめですな」
応接室に声が響いた。3人は驚いて振り向くと、まさに渦中の人――歴史の家庭教師が部屋に入って来た。
庭の奥から家庭教師の男性が現れ、セイラは顔面蒼白になる。
「あ……ア、アダム先生……」
アダム――歴史の家庭教師の名前だ。
「セイラ様。私はサフィニア様がどれ程努力をなさっているかは、良く分かっております。第一、そのような手紙など一度も受け取ったことがありませんし、セイラ様に相談したことすらありません!」
アダムがセイラと対峙している様子をサフィニアとヘスティアは驚いて見つめてる。
「な、何……どうして、アダム先生が……? 授業は午後からだったはずじゃ……」
当然、セイラはサフィニアのスケジュールを下調べさせていた。するとアダムの眉間に皺が寄る。
「本日の授業のために、早めに到着したのです。そこで一度ご挨拶をするため、立ち寄ったところ、使用人たちから話を聞いたのですよ」
アダムはセイラを見据えた。
「サフィニア様は誰よりも勉学を真摯に学んでおります。セイラさまのような卑劣な手段で、サフィニア様の名誉を傷つける権利はございません!」
「くっ……!」
セイラは唇を噛みしめると、ソファから立ち上がると逃げるように走り去って行った。
「アダム先生、ありがとうございます」
「サフィニア様を助けていただき、ありがとうございます」
サフィニアとヘスティアが交互に礼を述べる。
「いいえ、当然のことをしたまでです。……それにしてもセイラ様は、随分姑息な手段を取られる方だ。旦那様に報告した方が良いかもしれない」
それを聞いてサフィニアは慌てた。
「いえ、先生。どうかこのことは黙っていてください」
「私もサフィニア様の意見に賛成です。そんなことをすれば、ますますセイラ様の反感を買うだけですから」
ヘスティアも同調する。
「……分かりました。では、少し早いですが……これから授業を始めましょうか?」
「「はい!!」」
2人は、笑顔で返事をした――
***
その夜。
セイラは自室で鏡を睨みつけていた。その目は、怒りと悔しさに満ちていた。
(どうして……どうして私がこんな目に合わなくちゃならないのよ……!)
鏡の中に映る自分の姿は、とても醜くて増々サフィニアへの嫉妬心が膨らんでいく。
「次こそ……次こそは、絶対にサフィニアを潰してやる……!」
その呟きが、ある人物に聞かれていたことも知らずに――




