4-17 セイラの策略 1
それはセイラが離宮を訪れて1週間ほどが経過した時の出来事だった。
――10時
サフィニアは机に向かい、家庭教師から出された課題に取り組んでいた。
国の歴史、貴族制度の変遷。そして政治構造。それらをまとめて、学習長に記録していく。
その隣ではヘスティアがサフィニアの使用するハンカチに、イニシャルを刺繍しながら感心した様子で時折見つめていた。
「……ふぅ」
サフィニアはペンを机の上に置き、小さくため息をついたのでヘスティアは声をかけた。
「サフィニア様、今日の課題はもう終わったのですか?」
「ええ、何とか終わったわ。ヘスティアは何をしていたの?」
サフィニアはヘスティアの手元を覗き込み、「あ」と小さく口にした。
「もしかして……これは私のイニシャル?」
「はい、そうです。サフィニア様のハンカチにお名前を刺繍しておりました。もうすぐ完成ですよ」
ヘスティアは最後の文字を刺繍すると、糸を後ろに出して玉止めして糸を切った。
「どうですか? サフィニア様」
刺繍枠を取り付けたままのハンカチをサフィニアに見せた。
「素敵だわ……ありがとう、ヘスティア」
サフィニアが笑顔で礼を述べた時。不意に離宮に騒がしい声が響き渡った。
「あら? 一体どうしたのかしら?」
首を傾げるサフィニア。
「何だか嫌な予感がしますね。私、ちょっと行って様子を見てきます」
ヘスティアは立ち上がると部屋から出て行き……すぐに慌てて戻って来た。
「大変です! サフィニア様! またセイラ様がこちらにいらっしゃいましたよ! サフィニア様を連れてくるように騒いでいます!」
「え!? またセイラ様が!?」
サフィニアの顔が曇る。
「あの様子だと、また何かサフィニア様に言いがかりをつけに来たに決まっています。帰っていただきましょうか?」
「大丈夫よ、ヘスティア。私が対応するから。きっと何か私に用があっていらしたのよ。それでセイラ様はどちらにいらっしゃるの?」
興奮気味のヘスティアをサフィニアは慌てて止めた。自分のことでヘスティアを巻き込みたくは無かったのだ。
「応接室にいらしていますが……まさか、本当にサフィニア様が対応されるのですか?」
「ええ、だってセイラ様は私を訪ねていらしたのだから」
「……分かりました。でも、私も同席させていただきます。私はサフィニア様の専属侍女ですから!」
「ありがとう、ヘスティア。それじゃ一緒に行きましょう?」
「はい!」
2人の少女はリビングを出ると、セイラの待つ応接室へ向かった。
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応接室に行ってみると、腕組みしたセイラがソファに座っていた。
「お待たせいたしました、セイラ様」
サフィニアがヘスティアと応接室に現れた途端。
「遅い! 一体いつまで人を待たせるつもり!?」
セイラが怒鳴りつけてきた。
「申し訳ございません。これでも急いできたつもりなのですが」
丁寧に謝罪するサフィニア。実際にセイラが離宮を訪ねてから10分も経過していない。
「あら? 何よ、さっきの生意気な侍女じゃない。何であんたまでついてきているのよ」
セイラはヘスティアをじろりと睨みつけるも、彼女は動じない。
「私はサフィニア様の侍女ですから、同席させていただきます」
「ふん! まぁいいわ! とにかく座りなさい。立っていられると見下ろされているようで気分が悪いわ」
「はい、失礼いたします」
「……失礼いたします」
サフィニアとヘスティアはセイラの向かい側に座った。
「サフィニア。今日はあんたに話があって来たのよ」
セイラは太い足を組んだ。
「はい。何でしょうか」
「随分と家庭教師に気に入られているそうね。あの仕立て屋にも特別扱いされているし」
「……」
何と返事をすればよいか分からず、サフィニアは黙っていた。セイラは沈黙を肯定と取って話を続ける。
「でも、それっておかしくない? あんたは、卑しいメイドの娘。なのに、家庭教師が褒める? あの仕立て屋にドレスを作ってもらう? それって何か裏があるんじゃないの!?」
「そんな、裏なんてありません。私はただ勉強の機会を与えてくれたことに感謝して授業を受けていますし、仕立て屋さんは……」
「うるさいわね! 私が喋っているんだから黙りなさい!」
セイラがサフィニアを一喝した――




