4-16 憎しみの炎が燃える時
「セイラ様。お忙しい中、離宮までお越しくださってありがとうございます。良ければお茶を飲んでいかれませんか?」
「え!?」
サフィニアの唐突な言葉にヘスティアは驚いたが、それ以上に衝撃を受けたのは当然セイラだった。
「はぁ!? 馬鹿じゃないの!? 何で私がここでお茶を飲んでいかなくちゃならないのよ! そんなことより、そのドレス! あんたには似合わないわ! 今すぐここで脱ぎなさいよ! マダム・ポリーが、お前みたいな卑しい身にドレスを作るはずないでしょう!」
セイラのヒステリックな声は離宮に響き渡り、何事かと使用人たちが集まってきた。だが相手は純粋な公爵令嬢で、しかも人一倍プライドが高い。誰も意見出来る物などいるはずもない。
そのことをサフィニアは良く知っていた。
「いいえ、これは間違いなく……」
サフィニアが反論しかけた時――
「いえ、そのドレスは紛れもなく私が作らせていただきました!」
突然凛とした声が響き渡り、その場にいた全員が驚いて振り返った。すると、いつの間にか仕立て屋のマダム・ポリーが中庭にいた。彼女の背後には2人の女性助手もいる。
「あ……あ、あなたは……マダム・ポリー……」
「ご機嫌麗しゅうございます、セイラお嬢様。サフィニア様がお召のドレスは、私が責任を持って仕立てたものでございます。勝手な憶測でいい加減な物言いをなさるのは、おやめになっていただけないでしょうか?」
セイラの顔が青くなる。するとマダム・ポリーは笑みを浮かべた。
「ですが、公爵令嬢のセイラ様にお名前を知られているようで何よりですわ。まだ一度もドレスを作らせていただいたことは無いのに。まぁ……もっとも私のドレスは着る人を選ぶドレスですから」
「!」
その言葉にセイラの顔は怒りと恥ずかしさで真っ赤に染まる。一方、あまりにもマダム・ポリーの失礼な物言いに、周囲の者たちは青ざめているがマダム本人は動じない。何故なら彼女は王室御用達のデザイナーでもあったからだ。
「か、帰るわ! こんな貧乏くさい場所にいられやしない!」
セイラは踵を返すと、まるで逃げるように庭から走り去っていった。そしてその後ろを追うメイド。
すると、マダム・ポリーが笑みを浮かべた。
「サフィニア様、新しいドレスが出来上がったのでお持ちしました。早速試着いたしましょう」
「はい、マダム」
サフィニアは笑顔で返事をしながら思った。
もし、マダム・ポリーが現れなかったら、一体今頃どうなっていただろうと――
***
――その夜。
セイラは本邸の自室で鏡を睨んでいた。サフィニアの笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。
(あのドレス……本当に良く似合っていた……私はいくらマダム・ポリーに頼んでも作ってもらえたことは無いのに)
鏡に映る自分の姿は太っていて醜い。悔しいが、もうサフィニアの美しさを認めるしかなかった。
「悔しい……どうしてなの? サフィニアは卑しいメイドの子供なのに……私は正式な公爵令嬢で、ずっと良い生活をしているのに……なのに、どうして……あんな子のために私がみじめな気持ちにならないといけないのよ!」
セイラは鏡に映る自分に香水の瓶を投げつけた。
ガシャーンッ!!
派手な音を立てて粉々に割れる瓶。そして飛び散った液体が鏡を濡らす。
それはまるで、自分が泣いているように見えてならない。
(どうして、誰も私の味方をしてくれないの? 私こそが、この家の正統な娘なのに)
セイラは鏡に向かって、唇を噛みしめた。
「次こそ……あの子を、完全に潰してやる」
セイラの呟きは誰にも聞かれることなく、夜の闇に溶けていった――




