4-15 屈辱のセイラ
それはセイラがこっそり離宮に偵察に来た2週間後のことだった。
中庭にヘスティアとセイラの姿があった。
噴水の水音が静かに響き、季節の花々が陽光を浴びて揺れている。
サフィニアとヘスティアは、中庭に植えてあるハーブを採取していた。
「サフィニア様、このハーブ……とっても良い香りですね。それにお花もきれいです」
ヘスティアが花を摘みながら香りを嗅ぐ。
「これはね、ラベンダーっていうハーブよ。乾燥してお茶にすることもできるし、ポプリにして匂い袋に入れて香りを楽しむこともできるの。ベッドのそばに置いておくと、落ち着いて寝ることもできるのよ」
「それは素敵ですね! 私、そのポプリと言うものを作って部屋に飾りたいです。でも、サフィニア様は本当に物知りですね」
ヘスティアは感心した様子を見せる。
「そう? ありがとう」
サフィニアは頬を赤らめる。今や、ヘスティアはサフィニアの中でかけがえのない存在となっていた。
ヘスティアはサフィニアの侍女というよりも、親友のような存在になっていたのだ。
この離宮で過ごす日々は2人にとって穏やかで幸せな時間だった。
だが、それを台無しにする存在が現れた。
「あらぁ? こんなところで卑しいメイドの娘が何をしているのかしら!?」
庭に鋭い声が響き渡り、サフィニアとヘスティアは驚いて顔を上げた。すると
庭の入口に、セイラが立っていたのだ。その隣では、セイラに日傘を差し出すフットマンがいる。
まるで今からパーティーにでも参加するかのように、赤いドレスに身を包んだセイラは、以前よりもさらに太って見えた。
セイラは意地悪そうな笑みを浮かべてサフィニアを睨みつけていた。
ヘスティアが立ち上がり、サフィニアを庇うように前に立った。
「こんにちは、セイラ様。本日はどのような御用件で離宮にいらしたのでしょうか?」
「フン! 侍女風情に用は無いわ! 私はね、サフィニアに用があって来たのよ!」
「ご用件なら私が……」
「いいのよ、ヘスティア」
サフィニアはヘスティアを止めると、前に進み出てきた。
「こんにちは。……セイラ様」
サフィニアはセイラの前で、完璧なカーテシーの挨拶をしてみせた。その姿は高貴な貴族令嬢そのものに見え、ますますセイラの嫉妬心をあおる。
セイラは侮蔑の目を向けながら、サフィニアを指さした。
「そのドレス、誰が選んだの? まさか誰かに施しでも受けたのかしら?」
今、サフィニアが着ているのは品の良いフリルたっぷりのエプロンに、ヒマワリのような黄色のワンピースドレス。サフィニアの愛らしさを引き立たせていた。
「このドレスはマダム・ポリーが、選んでくださいました」
「マダム・ポリー? あの気難しい仕立て屋が、あんたに? 到底信じられないわ! あんたは、卑しいメイドの娘。そんな人間が、貴族の真似事なんて……似合わないのよ!」
マダム・ポリーがサフィニアの為に離宮を訪れていたことをセイラは知っていたが、プライドの高いセイラはどうしても認めたくなかったのだ。
「いいえ! このドレスは間違いなく……」
これ以上聞いていられなくなったヘスティアが一歩前に出ようとするのをサフィニアが止めた。




