4-13 見られた幸福 1
早いものでリーネ侯爵令嬢の誕生パーティから半月程が経過し、サフィニアの置かれた環境は大きく変化していた。
サフィニアは寝心地の良いベッドで目を覚ます。チェストの上には花瓶にさした美しい花々が飾られている。この花は庭の花壇からサフィニアが摘んできたものだ。
サフィニアは美しい花を見つめ、笑顔になると朝の支度をするためにベッドから降りた――
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――コンコン
ノック音とともに、ヘスティアが部屋に現れた。
「おはようございます、サフィニア様」
「おはよう、ヘスティア」
既に着替えを終え、髪を整えたサフィニアが返事をする。
「サフィニア様、またお1人で朝の支度をされたのですか? 私に任せてくださいと、あれほど言ってるじゃありませんか。私はサフィニア様の侍女ですよ?」
ヘスティアが少しだけ、むくれた様子を見せる。
「大丈夫、自分の支度ぐらい1人で出来るわよ。ヘスティアだって自分の支度があるでしょう?」
サフィニアは視線を窓に向けると、見違えるように美しくなった庭が見える。季節の花々が咲き誇り、噴水が水を噴き上げている。
「サフィニア様。今日は午前中に家庭教師の先生が来る日ですね。その後、仕立て屋さんがドレスの仮縫いに着ますよ」
「忙しい一日になりそうね」
サフィニアは笑顔で頷いた――
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授業はリビングで行われた。
サフィニアは、少し緊張しながら椅子に座り、その隣にヘスティアも座る。2人は一緒に授業を受けることになっているのだ。
訪れた教師は厳格な雰囲気を纏った年配の男性で、本日で3回目になる。
「サフィニア・エストマン公女様とヘスティア様。では授業を始めましょう。では前回の復習から始めましょう」
王国の建国史、貴族制度の変遷、そして現在の政治構造。
サフィニアは記憶の中にある断片を辿りながら、教師の質問に慎重に答えていく。
「……素晴らしい記憶力ですね、サフィニア様」
教師の目が細くなる。
「ありがとうございます」
誰かに認められることがこんなにも嬉しいとは思わず、サフィニアの顔に笑みが浮かぶ。
「先生。サフィニア様は、本当に努力家なのですよ。昨日は夜遅くまで勉強されていました」
ヘスティアが手を上げて教師に告げる。
その言葉にサフィニアの顔が赤らむ。
(ヘスティア……)
ヘスティアはいつも自分を見ていてくれる。誰にも気づかれなかった努力を彼女だけは知っていたのだった――
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午後は仕立て屋の女性が訪ねてきた。
彼女は最近社交界で有名になっている人気デザイナーだった。女性はサフィニアを見て、満面の笑顔になる。
「まあまあ、なんて美しいお嬢様でしょう。さあ、こちらへ」
サフィニアは鏡の前に立ち、仮縫いのドレスを身に纏ってみた。
淡い水色のシルクは肌触りが良く、胸元には繊細な刺繍が施されている。
「……これが、私のためのドレスですか?」
「ええ、もちろんですとも。あなたに似合う色を選びました」
女性が満足げに頷き、サフィニアは鏡の中の自分を見つめる。
その姿は高貴な公女の姿が映っていた。
「サフィニア様は、どんな色でもお似合いですよ?」
サフィニアにヘスティアが語り掛け、その言葉に胸が熱くなる。
「ありがとう、ヘスティア。あなたがいてくれて、本当に良かったわ」
鏡の中で、サフィニアはヘスティアに笑いかけるのだった――




