4-8 リーネ侯爵令嬢の誕生パーティ 8
「え? それでは、私をダンスに誘ったのはセイラ様の命令だったからなのですか?」
マイクと踊りながらサフィニアは目を見開いた。
「はい、その通りです。セイラ様は僕に言いました。きっとサフィニア様はダンスが踊れないだろうから、誘って大勢の前で踊れない姿を晒してこいって……。僕の家は男爵位です。エストマン公爵家のように名門でも何でもありません。それどころか、もし逆らったら……下手すれば、家ごと取り潰されてしまうかも……」
サフィニアの手を取るマイクの手が小刻みに震えている。
「……」
マイクの言葉をサフィニアは複雑な気持ちで聞いていた。だが、不思議と怒りや悲しみと言った感情は湧いてこなかった。ただ、あるのはマイクへの哀れみだった。
(なんて気の毒な人なの……)
そこでサフィニアは言った。
「ごめんなさい、マイクさん」
「え? 何故サフィニア様が謝るのですか!? ぼ、僕は……セイラ様に命じられて、サフィニア様を貶めようとした本人ですよ?」
「だってマイクさんは逆らえる立場にないから命令に従わなくてはいけなかったのですよね? でも、私を気遣ってくれていることはすぐ分かりました。今まで私が踊りやすいようにリードしてくれていましたよね?」
するとマイクの顔が赤くなる。
「あ、そ、それ……は……」
「本当に意地が悪い人なら、わざと難しいステップを踏ませようとしたはずです。でもマイクさんはそれをしなかった。それはマイクさんが、いい人だからです」
「そんな、僕はいい人なんかじゃ……でも」
サフィニアの手を握りしめるマイクの手に力が込められた。
「サフィニア様が、こんなに美しい踊りができる方だったなんて……本当に驚きました。貴女と踊れること、とても光栄に思います」
そして今まで泣きそうな顔をしていたマイクの顔に満面の笑みが浮かぶ。
「私の方こそ、ダンスに誘ってもらって、ありがとうございます。こんなに煌びやかな場所でドレスを着て踊るのは初めてだったので、嬉しいです」
サフィニアに笑顔を向けられ、マイクは増々赤くなる。
やがて曲が終わりに近づき……。
「あ、あの。サフィニア様、もしよろしければ次のダンスも……」
マイクが言いかけた時。
「サフィニア様! 次は僕と踊ってください!」
突然脇から見知らぬ令息が現れた。
「え? あ、あの」
サフィニアが戸惑っていると、さらに別の令息が声をかけてきた。
「いえ、どうか僕と踊ってください。これでもダンスは得意なのです」
「いや、違う。お前たちは子爵家だろう? ここは伯爵家の僕の番だ!」
更に別の令息がサフィニアの前に現れ、マイクはすっかり蚊帳の外に置かれてしまった。
実は、彼らは皆サフィニアがダンスを踊っている様子をずっと見つめながら、こう思ったのだ。
――きっと、セイラ様はサフィニア様をダンスに誘う許可を出したに違いないと。
そこでダンスが終わる頃を見計らって、大勢でサフィニアの元を訪れたのであった。
サフィニアを間に挟んで、次のダンスのパートナーとして一歩も引かない令息たち。
そして、その様子を遠くで睨みつけているセイラ。
「何よ……一体何なのよ!! あいつら……よくも私の目の前でサフィニアに構えるわね!」
悔し気に地団太を踏むセイラに、ラファエルは呆れた様子で言った。
「何言ってるんだ? 全部自分で蒔いた種だろう? 力の弱いマイクを脅してサフィニアにダンスを誘わせたのも。サフィニアが上手に踊れることを知らなかったのも。マイクにサフィニアと踊るように命じれば、その後他の令息たちがどんな行動に出るかも。全て見抜けなかった自分のせいだろう!?」
「うるさい! ラファエル!」
遂に我慢できなくなったセイラは、ドスドスと音を立ててダンス会場を走り去っていった。
「……全く、我が妹ながら、本当に嫌になる。そこへいくとサフィニアは……」
ラファエルはホールに目を向けると、サフィニアが楽し気に令息とダンスを踊っている最中だった。
「本当にセイラは馬鹿だ。……こんなことをしたら、余計サフィニアが目立つだけだっていうのに。もう俺は知らないからな」
ラファエルは吐き捨てるように言うと、我儘な妹を追いかけるために会場を後にした――




