4-5 リーネ侯爵令嬢の誕生パーティ 5
招待客たち全員から誕生プレゼントを貰ったリーネは、庭の中央に移動するとピアノが置かれていた。
リーネは会釈するとピアノの前に座り、曲を奏で始めた。これは毎年恒例、リーネが感謝の気持ちを表す曲のプレゼントなのだ。
「素晴らしい演奏ですね」
ため息をつきながらヘスティアはサフィニアに話しかけた。
「……ええ、私も同じことを思っているわ」
サフィニアもピアノを弾くことが出来たが、メイドの仕事をしながら、その片手間にセザールから教えてもらっただけなので難しい曲を弾くことは出来なかった。
まるで鍵盤の上を指が踊るように奏でる曲は、とても美しかった。
するとセザールが教えてくれた。
「リーネ侯爵令嬢はとてもピアノを弾くのがお上手なのです。過去に何度もコンクールで受賞したことがあるそうですよ」
「そうなのね」
頷くサフィニアは、リーネがピアノを弾き終えるまでじっと見つめ……やがて演奏が終了するとパーティー会場は割れんばかりの拍手で覆われるのだった。
リーネの演奏終了後は、そのまま庭で立食スタイルのガーデンパーティーが始まった。
サフィニアとヘスティアは、今まで見たことも無いような豪華な食事を口にし、互いに笑顔になる。
セザールも2人の様子を従者として微笑ましく見つめていた――
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「一体、何なのよ! 本当に憎たらしいわ! 第一セザールもセザールよ! あんな娘、かまってやること無いのに!」
皿の上に山盛りに乗せた料理を口へ運びながら、セイラは悔しそうにサフィニアを睨みつけていた。
ぶつぶつ文句を言いながら、大量の料理を口にしているセイラは一種異様な雰囲気を放っていた。子息令嬢たちは肥え太ったセイラをコソコソと遠巻きに見つめているが、肝心の本人はそのことに気付いていない。
「おい、セイラ。あまり食べるのはよせよ。みっともないだろう?」
流石に見かねたラファエルが止めに入ると、セイラは反論してきた。
「無理なこと言わないでよ! 食べなきゃ、やってられないわよ! 何で、あんな卑しいメイドの血を引くサフィニアが注目されて、私は日陰者にならなきゃいけないわけ!?」
それでもセイラは食べる手を止めない。
「あのなぁ……なら言うけど今のお前、物凄く目立っているぞ?」
「え!? 本当!?」
セイラの顔に笑みが浮かぶ。
「あぁ、だが悪い意味でな。何処の世界に、貴族令嬢がパーティー会場でドカ食いするんだよ。少しは自分の体形をよく見てみろ」
すると途端にセイラはの顔は怒りで真っ赤に染まった。
「はぁ!? ラファエル! あんたまで私を馬鹿にする気!? 仕方ないでしょう!? それは……確かに他の人たちから見れば、ぽっちゃりしているかもしれないけど……だ、大体私は人より痩せにくい体質なのよ!」
「何が痩せにくい体型だ! いいか? 俺とお前は双子だ。なら体質だって似るはずだろう? だが俺を見てみろよ! お前のように太っているか? 違うだろう! 大体お前は最初から甘ったれてるんだよ! 勉強も出来ない、ピアノのレッスンはさぼる。その体形のせいでダンスも踊れなければ、コルセットだって出来ないだろう!? だからそんなドレスしか着れないんじゃないか! お前をエスコートする俺の身にもなってみろ!
「コルセットをしたことも無い、あんたに言われたくないわ!」
「男がコルセットなんかするはずないだろう!? だからお前は馬鹿なんだよ!」
「何が馬鹿よ! そんなに私のエスコートするのが嫌なら、やめれば良かったでしょう!? あ……でもそれは無理よねぇ? だってあんたには招待状は届いていない。リーネに会うには私をエスコートするしかないものねぇ?」
すると今度はラファエルが顔を真っ赤に染めた。
「ばっ……! この馬鹿ッ! お、お前……こんな大勢がいる場でよくも言ってくれたな!」
「ええ! 何度でも言ってあげるわよ!」
激しく言い争いするセイラとラファエルを遠巻きに見ていた、参加客たちはコソコソと陰口を叩いていた。
「やれやれ……また二人の喧嘩が始まったよ」
「おめでたい席で何やってるのかしら?」
「だからパーティーに招きたくないんだよ」
「だけど、相手は公爵家だしな……」
勿論、今日のパーティーの主役であるリーネが2人の喧嘩を迷惑そうに見つめているのは……言うまでも無かった――




