4-3 リーネ侯爵令嬢の誕生パーティ 3
雲一つない青空の下を、サフィニアたちを乗せた馬車が走る。
馬車は緩やかな坂になっている緑道の中を進み、やがて前方に荘厳な建物が見えてきた。
リーネ侯爵令嬢が暮らす邸宅は、緑豊かな丘の中腹にそびえるように建っていた。
城では無かったが、気品が漂い広大な芝生と丁寧に剪定された生垣がとても美しい邸宅だった。
既に大勢のパーティー参加者たちの姿が見える。
「すごいですね……屋敷なのにまるで宮殿のようです」
ヘスティアが窓の外に目をやり、うっとりとため息を漏らす。
「……」
一方のサフィニアは俯き加減で黙ったまま、膝の上に乗せたリスが入った籠に手を添えていた。
パーティー会場では、どんなことが自分を待ち受けているかと考えれば自然に緊張してしまう。
するとセザールがサフィニアに尋ねてきた。
「サフィニア様、もしかして緊張していますか?」
「え、ええ。少し……私、今までにこんな華やかな場所に行ったことは無かったから」
メイドとして働いていた時も、下級メイドでしかなかったサフィニアは給仕として働くことも無かったのだから無理もない。
すると……。
「大丈夫ですよ、サフィニア様。私もおりますし、何より頼りになるセザール様がいらっしゃるのですから」
ヘスティアがサフィニアの手に自分の手を重ねてきた。
「そうよね、私にはヘスティアもセザールもついているのだから、大丈夫よね?」
サフィニアの言葉に、ヘスティアとセザールが笑顔になる。
やがて馬車が停まり、御者が静かに扉を開けると、真っ白な砂利が敷かれた広い前庭には素手に何人もの招待客の馬車が並び、華やかな衣装に身を包んだ貴族たちが談笑している姿が見える。
「サフィニア様、足元お気を付けください」
「ありがとう、セザール」
セザールに手を取られて馬車を降りると、すぐに冷たい声がサフィニアに投げかけられてきた。
「来たわね、サフィニア」
顔を上げると、何重にもフリルを施したクリーム色のドレスを着用したセイラが腕組みして睨みつけていた。
膨張色にフリルドレスのセイラは、ある種の異彩を放っていた。
「まさか、本当に来るとは思わなかったわ。適当な言い訳をつけて欠席するとばかり思っていたのに……それにしても……」
セイラはサフィニアを憎々し気に見た。何故なら、セイラの目から見てもサフィニアの着ているドレスはとても似合っていて、豪華に見えたからだ。
「随分奮発したドレスのようね。自分の立場もわきまえず、いい度胸だわ」
吐き捨てるように言われ、サフィニアの顔が羞恥で赤くなる。そこへヘスティアをエスコートしていたセザールが間に入って来た。
「セイラ様、もう到着されていたのですね? ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません」
「あ! セザール……! ひどいじゃない! どうして私のエスコートをしてくれなかったのよぉ!」
セイラは地団太を踏み、甘えた声でセザールをなじる。ある意味、その光景は滑稽に見えた。
「申し訳ございません。ですが、セイラ様のエスコートをラファエル様が申し出られましたので、従者の立場である私は身を引いた次第でございます」
深々と会釈するセザール。
「何よ! セザールがサフィニアのエスコートをするなんて知ってたら、ラファエルのエスコートなんか断っていたわよ! 大体サフィニア! あんたは生意気なのよ! そんな高級そうなドレスだけじゃなく、私からセザールまで奪うなんて!」
セイラは周囲に人が集まりだしていることも気づかづに声を荒げる。
人々は大柄なセイラが小さいサフィニアを怒鳴りつけている様子を眉を顰めてみつめ、時折ひそひそと話をしている。
そこへヘスティアが進み出てきた。
「いいえ! それは違います! サフィニア様が着ているドレスも私が着ているドレスも市販のドレスです! 2人でドレスに刺繍や装飾をして完成させたドレスなのです!」
ヘスティアは公爵令嬢であるセイラに反論した。
「な、何ですって……相変わらず生意気な侍女ね!」
顔を真っ赤にしたセイラが声を荒げた時。
「セイラ、その辺にしておけよ」
突如、赤毛の少年が現れてセイラの肩を掴んだ――




