4-1 リーネ侯爵令嬢の誕生パーティ 1
――8時半
朝食を終えたサフィニアとヘスティアは誕生パーティーに出席する準備をしていた。
「大丈夫ですか? サフィニア様、苦しくはありませんか?」
鏡の前に立つサフィニアのコルセットを締めながら、メイドが心配そうに尋ねてくる。
「ええ、大丈夫。平気よ」
人一倍ほっそりとした小柄なサフィニアは、あまりコルセットを締めつけなくてもドレスを着ることが出来た。
しかし、それでも普段からウェストを締め付けるドレスを着慣れていないサフィニアにとっては、やはり苦しいものだった。
(貴族令嬢たちは普段から、こんなにきついコルセットをつけて生活しているのね)
少し離れた場所で着付けをしてもらっているヘスティアは、コルセットを締めつけられていても平気な顔をしている。
(ヘスティアはすごいわね。私も見習わないと)
そんなことを考えていると、メイドが話しかけてきた。
「それにしても素敵なドレスに仕上がりましたね。既製品と聞いておりましたが、装飾を施したと聞いております。これならきっと他の人たちの目を引くことでしょう」
「……本当にそう思う?」
ドレスを褒められ、サフィニアの顔が赤くなる。
「はい、思います。では次に髪のセットとお化粧をしていきましょうね?」
「ええ。お願い」
鏡に映る自分を見つめながら、サフィニアは返事をした――
「サフィニア様! とっても美しいですよ!」
サフィニアよりも一足先に準備が出来たヘスティアが笑顔で近づいてきた。
「ありがとう、ヘスティアもとっても素敵よ」
「本当ですか? ありがとうございます」
頬を染めるヘスティアは、お世辞抜きに本当に美しかった。キラキラと光り輝く金色の髪はピンク色のドレスに良く似合っており、その姿はまるで、天使か妖精のようにサフィニアの目には映った。
やがてサフィニアの準備も終わり、メイドが下がるとヘスティアが尋ねてきた。
「……そういえば、そろそろ出発の時間ですね。9時には出発すると聞いていましたが、誰が迎えに来るのでしょうね。セザール様でしょうか?」
「まさか。だってセザールはセイラ様の執事よ。私たちに付き添いするはずないわ。多分……本邸の使用人じゃないかしら?」
サフィニアは、エストマン公爵家には何の期待もしていなかった。生まれた時から、今まで殆ど放置されてきたのだから、無理もない。ぞんざいな扱いをされても仕方ないと考えていた。
「そうでしょうか……? 私窓の外を見てきます」
ヘスティアは窓に向かい、サフィニアはカゴの中にいるリスの様子を見た。
小さな身体、つぶらな瞳のリスはセザールが用意したヒマワリの種を食べている。
「フフ……とてもかわいい」
本当は自分で飼いたいくらいだが、このプレゼントは自分の為に用意されたものではない。
「私もいつか……可愛いペットが飼いたいわ」
ポツリと呟いたとき、ヘスティアが声を上げた。
「サフィニア様! 迎えの馬車が来ました!」
「そうなのね? 迎えの人を待たせては迷惑だから、外に出ましょう」
サフィニアはリスの入ったカゴを手に取ると外へ向かい、ヘスティアは後を追った。
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2人で扉の前で待っていると、馬車が止まって扉が開くとセザールが降りて来た。
今日のセザールは髪を整え、いつもとは違う燕尾服を着ている。
「え……?」
「セザール様! やっぱり来てくださったのですね!」
目を丸くするサフィニアに対し、ヘスティアは満面の笑顔を浮かべる。
「セザール……どうして……」
「サフィニア様。先ずは馬車に乗りましょう、話は中でもできますから。それでは馬車に乗りましょう?」
セザールは笑顔でサフィニアに手を差し伸べた――




