3-14 2人の話し合い
その日の夜――
セザールはリビングでポルトスが戻ってくるのを待っていた。
ボーン
ボーン
ボーン
振り子時計が19時を告げる音が鳴り響く頃、扉の開く音が聞こえてポルトスが帰宅してきた。
「お帰りなさいませ、お爺様」
セザールがソファから立ち上がった。
「ただいま……ん? セザール、ここにいたのか?」
「はい、大切なお話があったので、お爺様が帰宅するのを待っておりました」
「そうか? 夕食は済んだのか?」
スーツを脱ぎながら尋ねるポルトス。
「いえ、まだです」
「なら夕食を取りながら、話を聞こうか?」
「はい」
セザールは笑みを浮かべて返事をした――
****
セザールとポルトスはダイニングルームで豪華な食事を前に向かい合って食事をしていた。
「大切な話があるというのなら、今夜はワインを飲むのはやめておこう。それで話とはなんだ?」
ポルトスはじっとセザールを見つめる。
「はい、実は少々困った事態になりました」
「困った事態? いったいそれはどのようなことだ?」
眉を顰めるポルトス。
「セイラ様が本日、サフィニア様のいる離宮へ向かったのです。急いで後を追ってみると、サフィニア様の手の平を鞭で打とうとしているところでしたので、慌てて止めに入りました」
「何だと!? セイラ様がサフィニア様に鞭を振るおうとしていただと!」
これにはさすがのポルトスも驚いた。
「はい……そうです。寸でのところで止めましたが、既に体罰を与えられていたようです。サフィニア様の頬が赤くなっていましたから……」
セザールは唇をかみしめた。
「……恐らく、平手打ちでもされたのだろう。セイラ様は気に入らないことがあれば、周囲のメイドに当たり散らして平手打ちをされていたからな。……セイラ様とサフィニア様では体格の差がありすぎる。あのように小さなお身体で平手打ちされたとは。たまったものでは無かっただろう」
ポルトスはため息をついた。本当は注意をしたいところだが、相手は雇い主の娘であり、公爵令嬢なのだ。とてもではないが、セイラに苦言を呈することは不可能だった。
「お爺様の言う通りだと思います」
「だが、セザール。お前はセイラ様の鞭打ち刑からサフィニア様を救った。よくやった」
「! あ、ありがとうございます」
ポルトスに褒められ、セザールの顔が赤くなる。
「話というのはそのことだったのか? それにしても何故セイラ様はわざわざ離宮に……」
「セイラ様が離宮に行ったのは、御友人の誕生パーティーの招待状を届けに行ったからなのです。お相手はウィルソン侯爵令嬢です」
その話にポルトスは青ざめた。
「何だと!? ウィルソン侯爵令嬢だと!? あの名門の!?」
「はい、そうです」
セザールが頷く。
「そうか……だがサフィニア様とウィルソン侯爵令嬢は全く面識が無い。なのになぜ、サフィニア様を……」
「セイラ様は、ウィルソン侯爵令嬢に腹違いの妹がいる話をされたそうです。するとその話を聞いた御令嬢はサフィニア様に興味を持ち、誕生パーティーに招かれたそうです」
神妙な顔つきでセザールの話を聞くポルトス。
「……そうか。毎年、ウィルソン侯爵家では盛大な誕生パーティーが開催され、貴族の社交の場となっている。そのような場にサフィニア様を招かれるとは……プレゼントだって用意しなけれならないし、ドレスも必要だと言うのに……」
「僕の考えでは、セイラ様はサフィニア様に恥をかかせるつもりなのだと思いますが……」
「確かにセイラさまならそう考えるだろう。だが、ご自分の首を絞めかねないことに繋がるとは夢にも思っていないのだろうな」
難しい顔つきになるポルトスとセザール。
サフィニアの恥は、セイラだけではなくエストマン公爵家の恥へと繋がる。権力のあるウィルソン侯爵家での失態は、あっという間に近隣の貴族の耳に広がるだろう。
「お爺様……どういたしましょう」
セザールはポツリと尋ねた。
「私に考えがある。数日以内に何とかしよう」
「ありがとうございます。ですが、プレゼントのことは僕にお任せいただけますか?」
「……何? セザール……お前にか?」
目を見開くポルトス。
「はい、誕生会ではサフィニア様が最も注目されるプレゼントを用意したいと思っています」
セザールの顔に笑みが浮かんだ――




