3-11 セイラの怒り
まさか侍女の申し出を断られるとは思っていなかったセイラ。
ぽかんと口を開けたまま固まっていたが、すぐに我に変えった。
「ね、ねぇ……もしかして聞き間違いかしら? もう一度聞くわよ。サフィニアの侍女などやめて、私の侍女になりなさいよ」
「いいえ、聞き間違いではありません。私がお仕えする方はサフィニア様です。申し訳ございませんが、私はセイラ様の侍女にはなりません」
「……ヘスティア」
サフィニアは息をのんでヘスティアを見つめる。一方のセイラは、まさかヘスティアが自分の申し出を断るとは思ってもいなかったのだろう。
見る見るうちに怒りで肩が震え、顔が真っ赤に染まる。
「な、何ですって……? 自分が何を言ってるか分かってるの!? 私はエストマン公爵家の正統な娘なのよ!? それなのに、よくもそんなこと言えたわね! 落ちぶれた伯爵家のくせに!」
「それを言うなら、サフィニア様だってエストマン公爵家の御令嬢です。私はエストマン公爵家から正式にサフィニア様の専属侍女として採用されたのですから。それにキャンベル家が落ちぶれた伯爵家であることが御存知なら、私を侍女にされない方が良いのではありませんか?」
自分よりもずっと大柄で、高位貴族のセイラに屈することもないヘスティアを見てサフィニアは驚いていた。
(ヘスティアが……セイラ様の命令に背くなんて……)
気位の高いセイラは、とうとう怒りを抑えられなくなった。
「な、なんて生意気な小娘なの……この私が! サフィニアと一緒だって言うの!? ふざけないでよ!」
セイラが右手を張り上げた。
(ヘスティア!)
セイラが何をしようとしているかに気付いたサフィニアは、とっさにヘスティアの前に飛び出した。
パーンッ!
乾いた音が部屋に響き、サフィニアがセイラに平手打ちされて床に倒れた。
小柄なサフィニアが大柄なセイラに叩かれたのだから、無理もない。
「キャア! サフィニア様!」
ヘスティアが悲鳴を上げて助け起こした。
「ちょ、ちょっと! 何で、あんたが出てくるのよ! 私はねぇ! そこにいる生生意気な小娘にお仕置きしようとしていたのに!」
サフィニアが床に倒れている有様に気にする素振りも見せず、セイラが怒りをあらわに怒鳴りつけた。
叩かれた頬がじんじん痛んで頭が少しクラクラするも、ヘスティアに支えられながらサフィニアは何とか立ち上がった
「私はヘスティアの主です。罰を与えたいなら私が受けます」
「何を言ってるのですか! サフィニア様!」
ヘスティアが悲鳴交じりの声を上げるも、サフィニアは返事をせずにセイラを見つめる。
「ふ、ふん……いいわ、分かったわよ。そこまで罰を受けたいなら覚悟しなさい! 鞭を出しなさい!」
「はい、セイラさま」
セイラに命じられた侍女はポケットから手の平ほどの長さの棒を取り出した。先端には革製の細長い紐のようなものがついている。
侍女から鞭を受け取ると、セイラは床に振り下ろした。
ピシッ!
鋭い音を立てた鞭の音にヘスティアはビクリとする。
「さぁ! お望み通り鞭打ちの刑にしてあげようじゃないの! 何処を打とうかしら? そうねぇ……両手の平がいいかもしれないわね」
意地悪な笑みを浮かべるセイラをサフィニアはじっと見つめる。
(セイラ様のことだわ。手加減するはずないわね……)
あれで掌を鞭打たれたら、ただでは済まないことは分かっていた。けれどヘスティアを助けるには、自分が犠牲になるしかないのだ。
「……分かりました。どうぞ」
サフィニアは震えながら小さな両手を広げた。
「サフィニア様!? やめてください! 鞭打ちなら私が受けます!」
ヘスティアが涙目で訴えるも、サフィニアは返事をしない。
「ふん! いい度胸ね。鞭打ちの罰がどれ程のものか分かっていないようね」
セイラが鞭を振り上げたとき。
「セイラ様!? 何をなさっているのですか!」
セザールの声がリビングに響き渡った――




