3-8 ヘスティアの事情
「ヘスティア、急に謝ってきて一体どうしたの?」
するとヘスティアは涙目で語りだした。
「馬車の中でセザール様に聞いたのです……。サフィニア様は6歳の時にお母様を亡くしたって。この離宮はサフィニア様とお母さまが暮らしていた思い出の場所だって。だから共同で使う場所は勝手に模様替えをしては駄目だとセザール様に注意されました。本当に申し訳ございません!」
「え……?」
サフィニアは驚きで目を見開いた。まさかセザールがヘスティアに模様替えのことで注意をするとは思ってもいなかったのだ。
「そ、それだけじゃありません……。無神経にサフィニア様の前でお母様の話をしてしまいました……」
肩を震わせるヘスティアをじっと見つめるサフィニア。
(ヘスティアに悪気が無かったのは良く分かっているもの……)
そこでサフィニアは声をかけた。
「いいのよ。だってヘスティアは私の事情を何も知らなかったのでしょう?」
「サフィニア様……」
「部屋を明るく奇麗にしてくれてありがとう、ヘスティア」
「!」
「わ、私……セザール様に諭されるまで、自分の行いがどれ程無神経だったのか気づきませんでした……」
ヘスティアの眼に涙が浮かび……自分のことをポツリポツリと語り始めた。
もともとキャンベル家は名門伯爵家だったが祖父の代から徐々に落ちぶれていったこと。
後を継いだ父親は、家を建て直すために新しい事業に手を出したものの失敗。借金だけが残り、家財道具は殆ど売り払った。
そこで家の為に役立ちたいと考えたヘスティアは、エストマン公爵家で侍女を募集していることを知って応募し……採用されたのだ。
「私には……セザール様と同じくらいの年の兄がいるんです……。セザール様が兄のように感じてしまって、馴れ馴れしい態度をとってしまいました。リビングの模様替えも……エストマン公爵家から家財道具を頂いたので、サフィニア様と共有出来ればと勝手に変えてしまいました。本当に申し訳ございませんでした……」
涙をこぼして、謝罪するヘスティアをじっと見つめるサフィニア。
(ヘスティアは、私の怪我を見てすぐに手当てしてくれたわ。それに家族とは離れたくなかったはずなのに家の為に侍女に応募して、今ここに居てくれている……)
「反省しています。これからは侍女として、精一杯サフィニア様に尽くします。なので、どうか許してください。ここに置いて下さい。お願いします!」
ヘスティアは深々と頭を下げてきた。
サフィニアも家族と離れることがどれほど寂しいことか知っている。
「顔を上げて、ヘスティア」
「はい……」
サフィニアに言われて、顔を上げるヘスティア。
「ヘスティア、刺繍は得意?」
「え? 刺繍ですか……?」
ヘスティアはいきなりの質問にキョトンと首を傾げた。
「私ね、一度も刺繍を習ったことが無いの。本を見て勉強していたのだけど……針で指を刺して怪我をしてしまったのよ」
「そうだったのですか?」
「ええ。だからもし、刺繍が得意なら私に教えてもらいたいのだけど……」
すると――
「はい。私、刺繍は得意です。母から教えてもらいましたから! ……あ……申し訳ございません……」
再びヘスティアの顔が曇る。
「どうしたの?」
「い、いえ。また……母の話をしてしまったので……」
「気にしなくていいわよ。それじゃ、これから私に刺繍や他にも色々なことを教えてくれる? 私……まだ貴族の嗜みについて学んでいないことが多くて」
「はい! 私で良ければ喜んで!」
元気よく返事をするヘスティア。
「そう? なら……これからよろしくね。ヘスティア」
サフィニアはヘスティアの手を取った。
「私の方こそ、よろしくお願いいたします」
2人の少女は笑顔で互いの手を取り合った――




