3-5 気持ちを殺して
「どうされたのですか? ヘスティア嬢」
セザールが尋ねる。
「実は実家から特別な茶葉を用意してきたのです。私が焼いたクッキーもありますので、ご一緒にお茶を飲みませんか?」
ヘスティアは笑顔を向けてきた。
「皆でお茶を?」
サフィニアはチラリとセザールを見た。
(セザールは忙しい人だから、本当は呼び止めない方が良いと思うのだけど……)
けれどサフィニアは口に出せなかった。
折角侍女になってくれたヘスティアから、意地の悪い人間に思われたくは無かったのだ。
「お茶ですか……」
セザールは少し考え込む素振りを見せる。
「あの、駄目でしょうか……?」
ヘスティアは手を胸の前で組むと、セザールを見上げた。その仕草はとても可愛らしく、大抵の人なら断れないようにサフィニアは思えた。
「……いえ。大丈夫ですよ。仕事があるので、あまり長くはいられませんが……そうですね。1時間以内でしたらお茶を頂くことが出来ます」
すると途端にヘスティアは満面の笑みを浮かべて、セザールの手を握りしめてきた。
「本当ですか!? ありがとうございます!」
その姿を見たサフィニアは目を疑った。
(え? ヘスティアは一体何をしているの?)
するとヘスティアはサフィニアの視線に気づいたのか、振り向いた。
「ではサフィニア様も御一緒に、お部屋に入りましょう?」
「え? そ、そうね。分かったわ」
その物言いにサフィニアは引っ掛かりを感じたが頷いた。
「セザール様、私お茶を淹れるのが得意なんですよ。お父様やお母様にも良く褒められていたんです」
「そうですか、それは今から楽しみですね」
手を繋いで歩きながら、楽しそうに会話をする2人をサフィニアは複雑な気持ちで見つめるのだった……。
****
ヘスティアに連れられてリビングに来たサフィニアは驚いた。
何故なら今まで粗末だったインテリアが驚くほど見違えていたからだ。古かったテーブルには真っ白なテーブルクロスがかけられ、カーテンも豪華なドレープカーテンに代わっていた。他の家財道具も全て真新しい物に代わっていた。
「こ、これは……」
サフィニアは部屋が模様替えされていることに驚いて見渡す。もう、この部屋には母、ローズと過ごした思い出が詰まったリビングでは無くなっていた。
(私とママの思い出の場所が……)
僅かな面影しか残っていないリビングを寂しげに見つめるサフィニア。セザールはすぐにサフィニアの様子がおかしくなった原因に気付き、ヘスティアに尋ねた。
「ヘスティア嬢、もしかして貴女がこの部屋の模様替えを行ったのですか?」
するとヘスティアは笑顔で頷く。
「はい、そうです。以前のお部屋は暗い雰囲気だったので、公爵様が下さった家財道具で模様替えを行いました。おかげで明るい雰囲気になりました。どうですか? サフィニア様」
「……」
しかし、サフィニアはヘスティアの話を聞いていなかった。
ただ、すっかり変わってしまった部屋を茫然と見つめている。
「サフィニア様? どうかしましたか?」
再度ヘスティアに話しかけられ、サフィニアは我に返った。
「あ! な、何かしら?」
「いえ、模様替えしたお部屋の感想を頂けないかと思って」
「お部屋……」
サフィニアはポツリと呟いた。
(そうよ、ヘスティアは何も事情を知らない。良かれと思って内装を変えてくれたのだから……)
「とても気に入ったわ。ありがとう、素敵な部屋にしてくれて」
寂しい気持ちを押し殺し、サフィニアは笑顔でお礼を述べた――




