3-4 気遣う二人
1人になったサフィニアは再びグミの実を採取していた。
「これは熟しているから、美味しそうね」
その時。
「サフィニア様、まだこちらにいらしたのですね?」
背後から声をかけられ、振り返るとセザールがやってきた。
「セザール、ヘスティアはどうしたの?」
「ヘスティア嬢なら、今チャドに離宮の中を案内してもらっています」
「え? チャドに?」
そのことがサフィニアは意外に思えた。
「ええ、そうですが……それがどうかしましたか?」
「てっきりセザールが案内すると思っていたから」
グミの実を摘みながらサフィニアは返事をする。
「僕はこの離宮には住んでいませんから、案内するわけにはいきませんよ。僕もグミの実を摘むお手伝いさせてください」
「え? いいのよ。もうあらかた摘み終わったから、そろそろ終わりにしようと思っていたの。それより、いつまでもここに居て大丈夫なの? 本当は仕事が忙しいんじゃないの?」
サフィニアは慌てて断った。
セザールは本邸で執事の仕事をしている。どれほど忙しいかは十分理解していたからだ。
「いえ、大丈夫です。急ぎの仕事は全て終わらせてありますから。……あの、サフィニア様」
セザールが思いつめた様子でサフィニアを見つめる。
「どうしたの?」
「……申し訳ございませんでした」
少しの間を開け、セザールが頭を垂れた。
「え? 突然どうしたの?」
何故セザールが謝ってきたのか分からず、サフィニアは戸惑う。
「ヘスティア嬢用に運び込んだ家財道具の件についてです。……明らかにサフィニア様の家財道具よりも立派で、数も多いですよね?」
「そうね。いつもママはお金に苦労していたから。家具はもともとこの離宮に置き捨てられた物だって聞いていたし。仕方ないわ」
「サフィニア様はヘスティア嬢のことをどこまで御存知ですか?」
セザールは神妙な顔で尋ねる。
「伯爵家出身ということくらいしか知らないわ」
「……実はキャンベル家のことですが、先代までは名家で名の通る伯爵家でした。ですが今の当主、つまりヘスティア嬢の父親の代で、事業に失敗してかなりの負債を抱えてしまったそうです。そこで今回侍女募集の公募にヘスティア嬢自ら応募して、ポルトス様が採用したのです。少しでも家の役に立てるように」
「え? そうだったの?」
その話にサフィニアは目を丸くし、先ほどヘスティアと交わした話を思い出した。
(あ、でもそういえば家は落ちぶれているから、何も持参してきていないと言っていたわ。でも、セザールは何故そんな話を私にするのかしら?)
「エストマン公爵は、世論をとても気にする方です。ヘスティア嬢に、あのように立派な家財道具やドレスを送られたのもその為なのです。本来であればサフィニア様にも同じか、もしくはそれ以上のことをされるべきなのですが……」
セザールは悔しそうに唇を噛んだ。その姿にサフィニアは気づいてしまった。
「ねぇ、 セザール。もしかして……その話、お父様に言ったの?」
「はい。でも却下されてしまいましたが」
「! そうだったのね? でも……いいのよ。だって私はお父様にとっては、お荷物のような存在だもの。セザールの気持ち、嬉しかったわ。ありがとう。でももうお父様に意見を言うのはやめて? 私を庇えばセザールの立場が悪くなってしまうかもしれないから」
サフィニアは笑みを浮かべる。
「サフィニア様……」
まだ10歳なのに、大人びた考えや笑い方をするサフィニアを見てセザールの胸は痛んだ。
だが、サフィニアの話は事実だった。
先程の話をエストマン公爵に告げたとき、生意気な口を叩くなと一喝されていたのだ。本来であれば使用人が雇い主に文句を言えば、鞭打ちの刑が待っている。
だが、セザールは筆頭執事の孫ということで罰を免れていたのだ。
「それにヘスティアは、家の為に住み込みで働くことを決めたのでしょう? とても立派だと思うわ。だからお父様はヘスティアが働きやすい環境を作って上げたのじゃないかしら?」
サフィニアは自分自身に言い聞かせるように語った。
「サフィニア様……」
「私なら本当に大丈夫よ。それよりセザールはセイラ様の執事なのでしょう? あまりここに長居しない方がいいわ。そろそろ本邸に戻ったほうがいいわよ」
「ですが……」
セザールが言いよどんだその時。
「サフィニア様! セザール様!」
背後から大きな声で名前を呼ばれて振り向く2人。
すると青空の下で、無邪気な笑顔を浮かべて手を振るヘスティアの姿があった――




