3-1 ヘスティア
――7月
サフィニアが離宮で暮らし始めてから、早いもので一カ月が経過していた。
相変わらず使用人はメイドのカーラとジル、そして料理人のチャドだけだったが3人は良く働いた。
カーラとジルは室内の掃除をし、チャドは料理以外に力仕事をこなしていた。
3人はサフィニアが手伝おうとするのを強く反対したため、することが何もなくて暇でならなかった。
せめて庭の手入れぐらいはさせて欲しいと訴えたところ3人は渋々納得し、ようやくサフィニアは労働することを認めてもらえたのだった――
「フフフ……今日もハーブが元気に育っているわ」
ハーブ畑で、サフィニアは美しい紫の花を咲かせたラベンダーの前でほほ笑んだ。
「摘み取って、ポプリを作ろうかしら」
ラベンダーに手を伸ばした時。
「サフィニア様。こちらにいらしたのですね? 探しましたよ」
背後から声をかけられ、振り向くとポルトスが笑顔で見つめていた。
「あ、ポルトスさん!」
筆頭執事という立場にいるポルトスは忙しい。滅多に離宮に姿を現さないポルトスに久々に会えたことで、サフィニアの顔に笑みが浮かぶ。
「お元気そうで何よりです。実は本日サフィニア様に会わせたい人物をお連れいたしました。さぁ、公女様に自己紹介しなさい」
ポルトスは背後を振り返った。
「え? 会わせたい人物……?」
サフィニアが戸惑っていると、ポルトスの背後から1人の少女が現れた。
まるでキラキラと輝く太陽のような美しい金の髪に紫色の瞳の少女は、とても愛らしかった。
淡い菫色のドレスを着た少女は、ゆっくり進み出てきた。
(え……? 誰? この子……すごく可愛い……)
可愛いと周囲から言われているサフィニアの眼にも、少女はとても愛らしく見えた。戸惑っていると、少女はドレスの裾をつまんで挨拶をしてきた。
「はじめまして、サフィニア様。私はヘスティア・キャンベルと申します。本日からサフィニア様の侍女として、こちらの離宮で一緒に暮らすことになりました。どうぞよろしくお願いいたします」
そして、ニコリと笑みを浮かべる。ふわふわと風になびく金の髪の少女は、まるで生きた人形のようにも見えた。
「え? じ、侍女……?」
侍女がつけられるという話を今まで一度も聞かされたことが無かったサフィニアは戸惑った。
するとポルトスが説明した。
「ヘスティアはキャンベル伯爵家の令嬢です。今日から行儀見習いも兼ねてサフィニア様の専属侍女になったのですよ。ヘスティアはキャンベル家で一通りの礼節や貴族としての嗜みを身に着けております。何か困りごとがあれば彼女に相談なさると良いでしょう。それではサフィニア様、一度私はヘスティアを連れて屋敷へ戻ります。後程、セザールが参りますのでお待ちください」
「は、はい」
躊躇いがちに頷くと、ヘスティアが会釈してきた。
「それではサフィニア様。一度失礼いたします」
ヘスティアはポルトスに連れられて馬車に乗ると離宮を去って行った。
「ポルトスさんの、あのウィンクって……何だったの……?」
再び一人になったサフィニアはポツリと疑問を口にするのだった――




