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孤独な公女~私は死んだことにしてください  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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2-21 軽蔑の眼

 サフィニアがセザールと共に乗り込むと、馬車はすぐに走り始めた。


「あの、セザール。買い物って……一体何を買うの?」


まだ行先を教えられていないサフィニアは、向かい側に座るセザールに尋ねた。


「今からこの町一番のブティックに行きます。そこでサフィニア様の洋服と靴、それにアクセサリーやバッグを買いましょう」


笑顔で答えるセザールにサフィニアは驚いた。


「えぇ!? 洋服!?」


「あ、洋服だけでは心もとないですよね? ついでにドレスも新調しましょう」


「そ、そんな! ドレスなんて!」


「何故ですか? サフィニア様は公爵家の御令嬢なのですよ? ドレスは絶対に必要ですよ。サフィニア様はお美しい方ですから、さぞかしドレスが似合うことでしょう」


「……」


無言でエプロンをギュッと握りしめるサフィニア。

下級メイドとして働いているとき、年に数回程、エストマン公爵邸で大掛かりなパーティーが催された。

サフィニアは下級メイドだったのでパーティ会場の給仕には選ばれることは無かったが、美しいドレスで着飾った女性たちを遠目から羨望の眼差しで見つめていた記憶が蘇る。


突然俯いてしまったサフィニアを見てセザールは首を傾げた。


「サフィニア様? どうされたのですか?」


「……セザール」


「はい、何でしょうか?」


「私にはドレスはいらないと思うの。だって着る機会が無いもの。だから……普段着が少しだけでいいわ」


その声はどこか寂し気にセザールは聞こえた。


「そのようなことは無いでしょう? サフィニア様は……」


「私はお父様からは見捨てられた子供なの。それにセイラ様は私のことを嫌っているし、ましてや妹なんて認めていないわ。ドレスを着るときは、お茶会やパーティーに出席するときなのでしょう? 私にはそんな機会は無いから」


まだ10歳とは思えぬ大人びた発言をするサフィニアに、セザールは優しく諭した。


「いえ、必ずサフィニア様がドレスを着る機会は訪れるはずです。なので、そのようなことを言わずにドレスも新調しましょう?」


「だけど……」


するとセザールはサフィニアの小さな手をそっと握った。


「それに、僕がサフィニア様のドレス姿を見たいのです。どんな素敵なレディになるのか、見せていただけませんか?」


「セザール……分かったわ」


サフィニアはようやく納得して、頷いた――



****


 

 セザールとサフィニアが訪れたのは町の中心部にある、一番大きなブティックだった。

この店は高級店で、平民が手に届くような服は1着も置いていない。貴族専用のブティックだったのだ。


「ここがブティックなの?」


サフィニアはセザールに尋ねた。


「そうですよ。それでは中へ入りましょう」


セザールは扉を開けると店内はとても広く、色とりどりのドレスがハンガーから吊り下げられている。


「奇麗なドレス……」


サフィニアのつぶやきは、セザールの耳にも届いていた。サフィニアの顔に笑みが浮かんでいる。


(良かった。サフィニア様が喜んでおられる)


するとすぐに女性店員が足早にやってきた。


「まぁ、セザール様ではありませんか。いつもご利用いただき、ありがとうございます。今日はセイラ様のお供ではないのですか?」


女性店員から、セイラの名前が出てきたのでサフィニアは驚いてセザールを見上げた。


「ええ、そうです。今日はセイラ様のお供ではありませんから」


セザールが返事をすると、さらに店員は言う。


「それではメイドを連れて個人的なお買い物にいらしたのですね? しかし荷物を持たせるには、そこのメイドでは少々心もとないのではありませんか?」


そしてちらりとサフィニアを見る。その眼差しには軽蔑が込められているようにサフィニアは感じた。


思わずサフィニアは硬直する。その様子にいち早く気づいたセザールが険しい顔で店員に文句を言った。


「いいえ、違います。今日はこちらのお嬢様の服とドレスを見に来たのです。この方は高貴な血筋の令嬢なのですよ? それなのに貴女の態度は一体何なのですか?」


その声は低く、怒りが込められていた――



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