2-19 現れた人たち
――翌朝
カーテンの隙間から太陽の光が差し込み、サフィニアの顔を照らている。
「う~ん……眩し……え!? た、大変! 寝坊しちゃった!」
一気に頭が覚醒し、サフィニアは飛び起き……部屋を見渡した。
「あ……ここは……そうだったわ。私、昨日から離宮でまた暮らすことになったのだわ……」
サフィニアはいつも夜明けとともに起きているので、寝坊したと思ったのだ。
「今、何時かしら?」
けれどこの部屋には時計が無い。
リビングに止まっている時計はあるものの、壁にかけてあるのでサフィニアの背丈では届かないのだ。
「脚立でもあればいいのに……」
ベッドから降りると、朝の支度を始めるためにサフィニアは寝間着からメイド服に着替えた。
サフィニアは私服を持っていなかった。エストマン公爵からは一切の援助は無かったし、ポルトスから貰ったお金は申し訳なくて使えなかったからだ。
なので仕事が休みの時もメイド服を着ていた。
外に出て、井戸水で顔を洗うとサフィニアは空を見上げた。今日も雲一つ無い青空だった。
「いいお天気ね。絶好のお掃除日和だわ。でも……」
サフィニアはお腹をさすった。先ほどからお腹がすいていたのだ。
「とりあえず、昨日採ったラズベリーを食べようかしら……」
屋敷の中に戻ろうとしたとき。
ガラガラガラガラ……
馬車がこちらに近づいてくる音が聞こえてきたのでサフィニアは振り返り、目を見開いた。
驚くことに料理人のチャドが荷馬車を走らせ、こちらへ向かって来ているのだ。
チャドはサフィニアに気づくと、笑顔で大きく手を振った。
「サフィニアーッ!」
「チャドさん!?」
すると、今度は荷台からカーラとジルが顔を覗かせた。
「え? カーラさんにジルさん……?」
どういうことか分からず、その場にとどまっていると、荷馬車はサフィニアの前で止まり、チャドとカーラ、ジルが馬車から降りてきたのだ。
「あ、あの……皆さん、どうしてここに来たのですか?」
サフィニアはチャドに尋ねた。
「サフィニア、それは……」
「チャドさん! 言葉使い、そんなんじゃだめですよ!」
突然ジルが注意すると、チャドは慌てた様子をみせた。
「あ! そ、そうか! サフィニア様、御無礼をお許し下さい。今日からサフィニア様付きの専属料理人として、こちらでお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」
丁寧に挨拶をしてくるチャド。
「えぇと……サフィニア様。この間は、お茶会で助けてくれてありがとうございます。今日からこちらでサフィニア様の専属メイドになりました。よろしくお願いします」
「私たちを助けてくださって、本当にありがとうございました。今日から私たちにサフィニア様のお世話をさせてください」
ジルとカーラがスカートの裾をつまんで、挨拶してきた。それは、サフィニアがお茶会で見せたカーテシーだった。
「ジルさん……カーラさん……」
サフィニアが二人の名を呼ぶと、ジルが首を振った。
「駄目です、サフィニア様。私たちはメイドなので、呼び捨てしてください。敬語も無しですよ?」
「サフィニア様は、エストマン公爵家の御令嬢だったのですよね?」
カーラが尋ねてきた。
「え、ええ……でも、私は……」
そこから先は、言えなかった。母親がメイドだったとは、どうしても3人の前では口にできなかったのだ。するとチャドが笑顔で言った。
「いいんですよ、俺たちは全員ポルトス様から話を聞かされているんですから。それじゃ、早速始めましょう。ジル、カーラ。二人とも手伝ってくれ」
「「はい」」
荷台に向かう3人にサフィニアは声をかけた。
「え? 始めるって、一体何を?」
「食事の準備ですよ」
チャドが荷台の幌をめくると、中には木箱に入った食材が大量に置かれていた――




