2-17 セザールの訴え 1
21時――
サフィニアは、ローズが使用していたベッドの中にいた。
「懐かしい……よくこのベッドでママと一緒に寝たっけ……」
カーテンの隙間からは満月が見え、青白い月明かりが部屋を照らしている。
「また、この離宮に戻ってこれるなんて思わなかった……」
枕元に置いた、ウサギのぬいぐるみに顔をうずめるサフィニア。
唯一サフィニアに残された母の形見だった。
「ママ……」
離宮に戻ってきたことで母親の記憶が蘇ってくる。
この世界……サフィニアにとって母だけが全てだった。セザールもポルトスも親身になって接してくれたが、それでもサフィニアの母を失った心の傷が埋まることは無かったのだ。
4年経過した今でも……。
サフィニアは枕に顔をうずめて、肩を震わせて静かに嗚咽した。
「ママ……寂しいよ……ママ……」
サフィニアが涙を流す姿を、月だけが知っていた――
****
――23時半
セザールは1人、リビングにいた。
ポルトスは朝早くに出掛けたまま未だに帰宅する気配はない。
「遅いな……お爺様は一体どこでなにをしているのだろう……」
今まで祖父が行先も告げずに出掛けたことは一度も無かったし、祖父が何処へ出かけようが気にしたことはなかった。だが、今回ばかりは違う。
「いつになったら戻られるのだろう……」
両手を組んで、顎を乗せたとき。
――カチャ……
背後で扉が開く音が聞こえ、セザールは椅子から立ち上がると振り返った。
「お爺様!」
「珍しいな、セザール。こんな時間なのに、まだ寝ていなかったのか?」
ポルトスは上着を脱ぎながら尋ねた。
「それはこちらのセリフです。お爺様、こんな遅い時間まで一体どちらへ行かれていたのですか?」
つい、責めるような口調になってしまう。
そんなセザールの姿を見て、ポルトスは首を傾げた。
「……いったいどうしたというのだ? お前がそんな姿を見せるとは珍しい」
「あ…‥申し訳ございませんでした。つい、失礼なことを申し上げてしまいました」
ポルトスを尊敬するセザール。自分が生意気な態度をとってしまったことに気づき、慌てて謝罪した。
「いや、気にするな。何か私に話があったのだろう? 聞こうじゃないか」
セザールの向かい側に腰を下ろすポルトス。
「お爺様、今日はサフィニア様のことでお話があります」
「そうか、サフィニア様のご様子はどうだった?」
「僕が離宮を訪れたときは、サフィニア様の姿はありませんでした。部屋中の窓は全て開けられており、掃除の真っ最中のようでした。辺りを見渡していたところ、サフィニア様が中庭から出てこられたのです。庭でラズベリーを採取していたそうです」
「ラズベリーを? ジャムでも作るおつもりだったのだろうか?」
「そうではありません! 食事代わりにされようとしていたのです! お食事をお持ちしましたと告げたところ、とても驚かれていました。貰えるとは思っていなかったそうです」
その話にポルトスは驚いた。
「何と……そのように考えられていたとは……しかもご自身で大掃除をされていたとは」
「お爺様、いくら母親が下級メイドだったとしても、サフィニア様はエストマン公爵令嬢なのですよ? このようなぞんざいな扱い、あまりにもひど過ぎます! 何とかして差し上げられないのですか!?」
気づけば、セザールは再びポルトスに声を荒げていた――




