2-16 セザールの申し出
「サフィニア様、遅くなってしまい申し訳ございませんでした」
セザールはサフィニアに駆け寄ると謝ってきた。
「セザール? どうして謝るの? それにどうしてここへ来たの?」
「はい、サフィニア様にお食事を届けに来たのです」
「え? 食事? 私……食事を貰えるの?」
すると、セザールは怪訝そうに眉を顰めた。
「何をおっしゃっているのです? 当然ではありませんか。サフィニア様は公爵家の御令嬢なのですよ?」
「だけど……私のママはメイドだったし……」
うつむくサフィニア。その姿をセザールは少しの間みつめていたが……。
「サフィニア様、まずはお食事をしませんか?」
セザールは笑顔を向けてきた――
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セザールは中庭にシートを敷くとサフィニアに声をかけた。
「どうぞ、サフィニア様。お座りください」
「ありがとう」
シートに座ると、セザールは持参してきたバスケットの蓋を開けた。すると中からは様々な具材のサンドイッチが奇麗に並べられている。
「まぁ……美味しそう」
「サフィニア様のお好きなフルーツサンドもありますよ?」
跪くセザールを前に、サフィニアは尋ねた。
「セザール、どうしてシートに座らないの?」
「い、いえ。僕は……」
「食事、まだなんでしょう? 一緒に食べましょうよ。まだなのでしょう?」
サフィニアはセザールの性格を良く知っていた。セザールは常にサフィニアを最優先し、自分のことは後回しにしていることを。
「え? ですが、これは全てサフィニア様の……」
「こんなに沢山1人で食べられないわ。セザールに手伝ってもらえると助かるのだけど」
サフィニアは笑顔を向けた。
「ありがとうございます。では食事を御一緒させてください」
少しだけ頬を染めるセザール。
「ええ」
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「そういえばサフィニア様、中庭で何をしていらしたのですか?」
サンドイッチを食べながらセザールが尋ねる。
「あのね、中庭にはママと一緒に育てたラズベリーの木が生えているの。だから実を採ってきたのよ」
サフィニアは傍らに置いておいたカゴの中身をセザールに見せた。
「美味しそうなラズベリーですね」
「ええ、とても美味しいわよ。セザールにも後であげるわね」
「ありがとうございます」
笑顔で頷くセザール。
この時の彼はまだ、何も知らない。サフィニアが何の為にラズベリーの実をもいでいたのかを……。
――食後
セザールがサフィニアに尋ねてきた。
「サフィニア様、離宮のお掃除をお手伝いいたします。何処を掃除すれば良いですか?」
「え? い、いいわよ。掃除くらい1人で出来るから。それにセザールは忙しいじゃない」
まさかの申し出に慌てるサフィニア。
何しろ、今のセザールはエストマン公爵家の執事として従事している。そんな彼に掃除をさせるわけにはいかない。
「僕のことなら大丈夫です。祖父からもサフィニア様のお手伝いをするように言われていますから」
「それじゃ……お願いしてもいいかしら?」
「はい」
セザールは笑顔で頷いた――
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――17時半
サフィニアは屋敷へ戻るセザールの見送りに外に出ていた。
「今日はありがとう。セザールのおかげでいろいろ助かったわ」
笑顔でお礼を言うサフィニアに対し、セザールの表情は浮かない。
「申し訳ありません。本当はもっとお手伝いをしなければならないのですが……」
「いいのよ、だってセザールは忙しい人じゃない。それに夕食まで持ってきてくれたでしょう? あなたが来てくれなければ、今日はラズベリーを食事代わりにしようとしていたのよ?」
その言葉にセザールは目を見開く。
「え? まさか……その為にラズベリーを集めていたのですか?」
「ええ、そうよ」
セザールはサフィニアの言葉にショックを受けていた。
(本当に旦那様は離宮に追いやったサフィニア様に一切の援助を考えていらっしゃらないのだろうか? ……なんて、お気の毒な)
「どうかしたの? セザール」
「い、いえ。何でもありません。サフィニア様、また伺いますね」
するとサフィニアは笑顔で頷く。
「うん、でもセザールは忙しい人だから無理しないでいいからね?」
それはまだ10歳とは思えない、大人びた発言だった。
「……はい、分かりました。サフィニア様、ラズベリーのお土産ありがとうございます」
こうしてセザールはサフィニアに見送られながら、離宮を後にした――




