2-9 お茶会 5
「あ、あの……こ、これは……そ、そう! 喉が乾いていたからよ! だからつい、飲み干してしまっただけなのよ!」
何とも苦しい言い訳をするセイラだが、生憎2人の令嬢には通用しなかった。
「あら。またそんな自分の心に嘘をつくなんて。私はとても美味しく感じましたわ。ところで、お代わりはまだあるのかしら?」
クレアがサフィニアに尋ねてきた。
「はい、まだございます」
「本当? なら私もいただきたいわ。私の分もあるかしら?」
「大丈夫です。紅茶はまだ十分に残っております」
マリーの問いかけにサフィニアは会釈する。
「な、ちょ、ちょっと! 2人とも!」
慌てるセイラにマリーは言葉をかけた。
「セイラ様。私達は非常に、あの子が淹れた紅茶はとても美味しく感じられました。なので、罰を与えることは反対です」
「はい、私もマリー様と同じ意見です。本当はセイラ様だって、美味しいと思ったはずですが?」
「……」
クレアの言葉に、セイラは唇を噛んだ。
悔しいことに、サフィニアが淹れた紅茶が美味しかったのは事実。
「わ、分かったわ……。2人に免じて、お前に罰を与えるのはやめることにするわ……」
けれど、腹の虫が収まらないのは事実。
(一体、この生意気なメイドは何なのよ……まだ子供なのに、妙に大人びているし……それに、あの容姿も気に入らないわ……)
セイラは2杯目の紅茶を淹れているサフィニアをじっと見つめる。
(だけど……あの銀色の髪、どこかで見た気がするのよね……)
そこでセイラは名前を尋ねることにした。
「ところで、お前の名前は何と言うの?」
セイラは手にしていた扇子をサフィニアに向けた。
「私の名前は……サフィニアと申します」
名前を尋ねられたサフィニアは緊張しながらも名乗った。
「サフィニア? ……どこかで聞いた名前ねぇ……それに……髪の色……え? ま、まさか……サフィニアって、あのサフィニアなの!? お前、メイドになっていたのね!?」
「……そう、です」
コクリと頷くセイラ。
その様子に、今度はおかしさが募ってきた。
「は! まさか本当にメイドになっていたのね? アハハハハハッ! これは面白いわ!」
「……」
サフィニアは無言で俯く。
「あの、セイラ様。一体何をそんなに笑っていらっしゃるのですか?」
不思議に思ったマリーが尋ねてきた。
「よく聞いてくれたわ、お2人とも。あのメイドはね……私の腹違いの妹なのよ! お父様がメイドに産ませた子供なの! あのメイドが6才のとき母親が死んで、この屋敷に連れてこられたのよ。だけど私が一緒に暮らすことを反対したのよ! だって、当然じゃない? 卑しいメイドの血を引いた者を妹なんて認められるはず無いわ! マリーさんもクレアさんも、そう思わない?」
セイラは興奮しながら、説明した。きっとマリーもクレアも自分の意見に賛同するに違いないと思ったのだが……。
「まぁ……セイラ様のお父様は、メイドに手を出されたということなのね?」
マリーは眉を顰めた。
「母親を亡くした可愛そうな子を、追い払ってメイドにするなんて……」
クレアは蔑んだ目でセイラを見つめる。
「え……?」
2人の反応に凍りつくセイラ。
「ま、待って……2人とも……一体何を言ってるのかしら?」
すると――
「あの私、大事な用事があったことを思い出したので、帰らせていただきます」
マリーが椅子から立ち上がった。
「マリーさん、私も御一緒させて下さい」
クレアも席を立つ。
「え? あ、あの。まだお茶会が始まって、30分も経っていませんよ? なのに、もう帰ってしまうの?」
セイラは慌てて2人を引き留めようとした。
「「はい、帰ります」」
声を揃える2人の令嬢。
「そ、そんな……!」
(そうだわ……私は元々、2人から見下されていた。だから……今、2人は……!)
セイラは悟った。
このお茶会は失敗した――と。




